「そこで何をしている!」
まず二人に接触してきたのは、若い女子だった。小学生程の背丈だったが、木製の鎧のような物を胸のあたりに掛けている。柵の間から顔を出して、こちらを睨みつけている。

「不審な奴め、何者だ?」
大きな声で威嚇をしているつもりのようだが、子供の、しかも女子の言葉には覇気が足りていないように聞こえる。
太市たちは初めての村人の登場に驚いたものの、可愛らしい女子で、かつ日本語を話していることに胸を撫で下ろした。

「驚かせてごめんな、お姉ちゃん。俺たち、道に迷ってしまったんだ」
と、太市が落ち着かせるように話しかける。
「俺たち、旅行中でさ」
「・・・・リョコウ?」
と、その女子は首を傾げる。
「道を教えて欲しいんだ。近くに、駅はあるかな?」
「・・・・エキ?」

京平は太市を制する。あまり軽々と話すのではなく、言葉を選んだ方が良い。
相手は日本語話者ではあるが、柵越しから見えるその様相は、何とも貧相である。木製の手作りのような鎧の下には、麻のような見窄らしい服を着ている。髪型も後ろに一つにまとめるのみで、歌織たちのようなおしゃれとは程遠い。
これは貧富の格差等ではなく、時代の違いとも考えられる。先程仮説を立てた、"古代" の日本である可能性が高いのではないか、と京平は思った。

さらに情報を得るべく、この小さな兵士から聞き出すことにした。
「お姉ちゃん、名前は何て言うの?」
「人に聞く前に、まず自分から名乗るべきだ」
この答えから、自分たちと同じ礼儀をこの女子も弁えていることがわかる。
「ごめんな。俺は京平、こっちは太市。俺たちは、自分たちの家に帰りたいだけなんだ。君や君の家族に危害を加えるようなことはしない」
「信じられない。見たこともないような服を着て、旅の荷物も何も持たないでいる。髪も変だ、生まれたばかりみたいに短い」

女子は警戒を強めているようだが、この女子の他の村人や兵士がこちらに来る様子はない。
京平は、少し踏み込んだ話をしようと試みる。
「俺たちは、こういう格好をする所から来たんだ」
「どこから来たんだ?」
「東京って、聞いたことあるか?」
「トーキョー?そんな所、知らない」