「それより、本題は?」
と、京平が切り出す。
「俺たちはこれから、何をすればいい訳?」

武者は、待っていたとばかりに不適な笑みを浮かべる。
そして、部屋の奥の床間へと歩いていき、備えられている巻物を手をする。併せて、男は手を合わせる。

「貴殿方々へのお願い事は、すべてこの、『守り絵巻』に記されておる」
と、その巻物を畳の上に大きく広げる。
四人は巻物の内容を食い入る様に見つめる。

「第一に・・・・『民に日の出を見せむべし』これよりお連れする国の民たちに、日が出づる光景を見せて頂く」
武者は、絵巻物の中央を指し示す。
「日の出?たったそれだけ?」
と、歌織は拍子抜けする。
「そんなの、いつでも見ることが出来るじゃん。私たちの手伝いなんか要るの?」
「民等は、助けを欲しております」

「もしかして、天候が悪い地域とか?」
と、太市は考えを巡らせる。
「地下に住む民族とか?そんな特殊な民族、いるのかな」
「とにかく、国の人たちに日の出を見せれば、私たちは家に帰れるんだよね?」
と、強く確認を取る歌織。
「成果によっては、そうもなりましょう」
「信じられないね。ちゃんと約束してよ、じゃないとここから動かないからね」
と、歌織は畳の上に胡座を掻く。

「申し伝えておりませなんだ、貴殿は否と言うことは叶いませぬ」
「は?」
「この城へ足を踏み入れたからには、否応なく従って頂く。さもなくば、貴殿方々に待ち受けるのは、死のみ。それも、何をする事も許されず、ただただ寿命を待つのみの、抜け殻の様な生にござる。応じれば、無駄な死を避ける事が出来、家に帰る機会を得る事も出来る」

絵巻物をさらに広げると、その “無駄な死”を選んだ者の末路が描かれている。
暗闇の中に独り閉じ込められ、発狂し苦しみながら死んでいく、骸骨の絵である。
歌織は、腹立たしげに畳を叩く。
伊代は歌織の肩を持って摩る。彼らに与えられた選択肢は、無いに等しかった。

「するべき事はわかった」
京平は乗り気であるのか、被ったままのフードを外し、硬い眼差しが顕になる。
「してはいけない事は、あるの?」

「良き問いにございますな。先ず当然として、死んではなりませぬぞ。命を落とせば、それは永遠の死を意味します。生き返る事は勿論出来ませぬからな。次に、訪れた国で争いを起こしてはなりませぬ。隣国等との戦は、必ず避ける事。でなくば、国に日が出づることは叶いませぬ」
「戦争をしないことと、太陽の入り沈みは関係のない事だと思うのですが」
と、伊代が問いかける。
「見るところ、貴殿は聡明でいらっしゃる。私の一言一言を、謎を解明すら武器とされよ」
武者は、伊代を温かく見つめる。

「期限はあるのか?」
と、今度は太市が尋ねる。
「いつまでに、という明確な時はございませぬ。貴殿方々の自由に動かれても構いませぬが」
「それってつまり、仕事が済まなければ、永遠に帰ることは出来ないってこと?」
「如何にも。命尽きるまで、居て頂くも良し」

人生を賭けた、サバイバルゲーム。
彼らの言葉に置き換えれば、そう言えるだろう。
武者が外来語を知っているかは分からないが。