その孤高の城は、兎角立派な出立ちだった。
四人の背丈を優に超える石垣は、頑丈で不動な城であることを物語っている。
見た目の高さとしては、二十メートル程度になるだろうか。
使われている石はどれも、縦横の大きさを揃えられ規則的に積まれており、一切の溝が見当たらない。
「すごく綺麗な、切り込みハギだわ」
と、伊代はその石垣の積み方を口にした。
日本史を専攻している上に、その歴史ヲタクぶりから築城の方法についても詳しい知識を持っていた。
「え、何て?」
と、日本史に全くと言って良い程疎い、太市が聞き返す。
「石垣の形が綺麗でしょ。精巧な職人さん達によって作られたんだろうなって思って」
続いて伊代は、天守を見上げる。
屋根は五重ほどに連なっており、均衡の取れた佇まいはとても美しい。
緑青色の瓦屋根に、眩い白壁が、自ら光を放つように見える所以だろうか。
「なんか、大阪城に似てるよな。修学旅行の時に見に行った」
と、太市が僅かな知恵を振り絞り、伊代に話を合わせる。
確かに太市の言う通り、色味からなる外観は、現代の世界に復元されている大阪城と類似する点がある。
しかし大阪城の別名である “金城” の由来にあるように、金の装飾が要の大阪城と比べてみれば、目の前の天守は少し控えめで、それでいて荘厳な雰囲気を漂わせている。
「大阪城に似てるけど、ちょっと違うかも。この天守閣は、私も見たことないな」
「歴史博士の伊代が、知らないことなんてあるんだ」
「言う程のこともないよ、太市。私もまだまだ無知だから」
「何でこんなところにお城があるんだろうね」
と、歌織が二人に問いかける。
「閻魔さまは、こういうお城に住んでるのかな?」
と、半信半疑で答える伊代。
「いや、だから死んでないって、俺たち」
と、太市はまだ生への希望を捨てていないようだ。
三人を置いて独断行動を取る京平は、城の四方を歩き回りながら、内部へ続く入り口を探していた。
天守へ到着した方面の裏側へ回ったところで、この巨大な石垣を登る階段を発見した。
階段を昇るとすぐ目の前に、立派な大玄関が姿を見せた。
そして開かれた扉の前で、ある男が笑みを浮かべながらこちらを見つめている。
京平はゆっくりとその男に近づき、様子を伺う。男はこの天守に見合う格式高い直垂を着て、頭には折烏帽子を被っている。
黒髪の髷に数本の白髪が確認できることから、六十代前後ではないかと推測できる。
勿論、日本史専攻の大学院生程度の知識は京平にも蓄えが無いため、武者の格好をした男がいる、という認識しかないのだが。