有紗の勤める会社の定時が過ぎた頃。
相手先からはいまだ、仕様のスケジュールに関する連絡は来なかった。
有紗は内心焦りながらも、真剣にディスプレイを睨みつつキーボードを叩いている。
そんな中、同僚が有紗に声をかけた。
ミーティング中にほとんど喋らなかったが、彼がプロジェクトのリーダーだ。
「白石さん、もう帰ったら? 帰るって言っていた十七時をとっくに過ぎているよ。それに連日終電だったんでしょ?」
時計を見ると、二十時を過ぎている。
「仕様変更が来るかもしれないので、今できることは今のうちにやっておかないと来週死ぬ……。来るべき未来に死なぬため、私は戦う……」
「カッコイイこと言ってるけど、今日死にそうな顔して頑張ったものが来週ひっくり返されたとしたら、来週余計に心が死ぬよ?」
「いやでも……」
「それに先方、もう帰ってるよ」
「ハァ!?」
「あそこいつも定時で上がるし。仕様変更の件どうなりましたか? 今日中に何か分かりますか? って投げたら、ステータスがオフラインだった」
「マジで!?」
「マジで」
「じゃ、じゃあ仕様変更どうするの? 来週どうなるの? みんな死ぬの? 世界は滅び、そして新世界が始まるの? メテオフォールなだけに?」
「大丈夫! 死ぬときはみんな一緒だヨ!」
「ヤッタネ!」
度重なる仕様変更と残業により、有紗とリーダーのテンションは相当バグっていた。
「二人とも、思考がバグってるので早く帰って土日休んでください。相当ヤバいです」
なお、彼らのバグを直すには長期休暇が必要な模様である。
――
素直に帰ることにした有紗は、百花にメッセージを送った。
『と言うわけで、予定よりも遅いのですが早く帰ることになりました、まる……と』
『予定よりも遅いのに早いってなにw』
『それによりも、今日はご馳走の日でしょ。何か買って帰ろうか?』
『それよりケーキの残りがあるから、食べるの手伝って!』
百花から送られてきたキウイのレアチーズケーキの画像に、有紗は思わず涎が垂れそうになる。
『もちろん!! ご馳走になります!!』
何か買おうと思ったものの、百花からは要らないと言われてしまったので手ぶらで帰ることになる。
寄ろうと思っていた紅茶専門店も、都会とは言えさすがに今日は店じまいをしている。
(まあこの時間にやってるお店だと、ご馳走って感じじゃないし。それに私たち、お酒飲まないからねえ……)
顔を上げた有紗はふと、隣に立っているひとがスマホを横持ちにしてゲームを遊んでいることに気付く。
職業的な興味もあって、ゲームを遊んでいると思しき人物が近くにいると有紗は気になって仕方がない。
チラチラッと気付かれない程度にチラ見してみると、それは有紗が平日よく見ている画面だった。
(わー! 私の関わったゲームだ! しかも結構レベルが高い! 沢山遊んでくれてるんだね、嬉しいな~!!)
仕事で理不尽なことは多々あるけれども、誰かが遊んでくれているのはとても嬉しい。
それに、有紗はなんだかんだ言っているけれども、この物を作る仕事が好きなのだ。
ただただ、働き方がブラックなだけで。
(いつか……スタッフロールに名前が載る仕事をしたいなあ……)
電車に揺られながら、有紗は小さくも大きな夢に思いを馳せた。
相手先からはいまだ、仕様のスケジュールに関する連絡は来なかった。
有紗は内心焦りながらも、真剣にディスプレイを睨みつつキーボードを叩いている。
そんな中、同僚が有紗に声をかけた。
ミーティング中にほとんど喋らなかったが、彼がプロジェクトのリーダーだ。
「白石さん、もう帰ったら? 帰るって言っていた十七時をとっくに過ぎているよ。それに連日終電だったんでしょ?」
時計を見ると、二十時を過ぎている。
「仕様変更が来るかもしれないので、今できることは今のうちにやっておかないと来週死ぬ……。来るべき未来に死なぬため、私は戦う……」
「カッコイイこと言ってるけど、今日死にそうな顔して頑張ったものが来週ひっくり返されたとしたら、来週余計に心が死ぬよ?」
「いやでも……」
「それに先方、もう帰ってるよ」
「ハァ!?」
「あそこいつも定時で上がるし。仕様変更の件どうなりましたか? 今日中に何か分かりますか? って投げたら、ステータスがオフラインだった」
「マジで!?」
「マジで」
「じゃ、じゃあ仕様変更どうするの? 来週どうなるの? みんな死ぬの? 世界は滅び、そして新世界が始まるの? メテオフォールなだけに?」
「大丈夫! 死ぬときはみんな一緒だヨ!」
「ヤッタネ!」
度重なる仕様変更と残業により、有紗とリーダーのテンションは相当バグっていた。
「二人とも、思考がバグってるので早く帰って土日休んでください。相当ヤバいです」
なお、彼らのバグを直すには長期休暇が必要な模様である。
――
素直に帰ることにした有紗は、百花にメッセージを送った。
『と言うわけで、予定よりも遅いのですが早く帰ることになりました、まる……と』
『予定よりも遅いのに早いってなにw』
『それによりも、今日はご馳走の日でしょ。何か買って帰ろうか?』
『それよりケーキの残りがあるから、食べるの手伝って!』
百花から送られてきたキウイのレアチーズケーキの画像に、有紗は思わず涎が垂れそうになる。
『もちろん!! ご馳走になります!!』
何か買おうと思ったものの、百花からは要らないと言われてしまったので手ぶらで帰ることになる。
寄ろうと思っていた紅茶専門店も、都会とは言えさすがに今日は店じまいをしている。
(まあこの時間にやってるお店だと、ご馳走って感じじゃないし。それに私たち、お酒飲まないからねえ……)
顔を上げた有紗はふと、隣に立っているひとがスマホを横持ちにしてゲームを遊んでいることに気付く。
職業的な興味もあって、ゲームを遊んでいると思しき人物が近くにいると有紗は気になって仕方がない。
チラチラッと気付かれない程度にチラ見してみると、それは有紗が平日よく見ている画面だった。
(わー! 私の関わったゲームだ! しかも結構レベルが高い! 沢山遊んでくれてるんだね、嬉しいな~!!)
仕事で理不尽なことは多々あるけれども、誰かが遊んでくれているのはとても嬉しい。
それに、有紗はなんだかんだ言っているけれども、この物を作る仕事が好きなのだ。
ただただ、働き方がブラックなだけで。
(いつか……スタッフロールに名前が載る仕事をしたいなあ……)
電車に揺られながら、有紗は小さくも大きな夢に思いを馳せた。