あの時有紗に相談しなかったら、カフェ経営は誰にも言わずに諦めていたかもしれなかった。
 もしかしたら、何となく歳だからと言う理由で結婚相手を探して、結婚しようとしていたかもしれない。
 けれども、やりたいことを口にしたことで、百花にとっての目標が明確になったような気がする。

 相談してから一年後に始めたカフェは、内装はオシャレだけど、お客さんは近所の年寄りばかり。
 そもそも都会からわざわざ交通の便が悪い場所まで来てくれるひとは、滅多にいない。
 何かの特集に取り上げてもらえたら、話は別かもしれないけれども……それは夢のような話。
 早朝の農家の手伝いだって、売り上げの足しにしているような状態だ。

 百花はお客さんを選び好みするつもりはない。
 ただちょっぴり、都会のオシャレなカフェに憧れるだけ。

「今日は俺の負けか!」
「よーし、今日のケーキはお前のおごりだ! ははは!」

 人の少ない店内をぼうっと眺めていると、対局が終わって賑やかにしていた老人二人が百花に問いかけた。

「モモちゃん。今日のケーキは何かな?」
「キウイのレアチーズケーキですよ」
「じゃあそれを二つ、ブレンドも追加で頼むよ」
「儂はブルーマウンテンを一杯」
「ご注文ありがとうございます。ご用意しますね」

 お客さんは望むようには来ないけれども……。
 近所のひとたちにはとても世話になっている。
 もしかしたら彼らも、今までなかったような目新しいお店が出来て嬉しいのかもしれない。

 亡くなるかもしれなかった祖父との土地を守りつつ、やりたかったカフェ経営を安定してやっていけていることは幸せだと百花は思った。
 相談した時、有紗も「失敗するかもしれない」とも言っていたくらいなのだから。

 いつもお世話になっている敗者のケーキをちょっとだけ大きく切り分けつつ、百花はやりたいことが出来ることの喜びを噛みしめた。