午前十一時。
 畑での手伝いを終わらせた百花は、トロロを連れて帰宅しようとした。

「トロロ、帰るよ」

 しかしトロロはまだ遊び足りないようで、首輪をはめてリードを引く百花に対してイヤイヤをしている。

「うー!」
「カフェの準備しないとだから、もうお散歩の時間はおしまい!」
「わうっ!」

 面白いぐらい拒否犬ポーズをするトロロを思わず写真に撮って有紗に送りたくなるが、そうも言っていられない。
 とはいえ、写真は思わず取ってしまった。
 お手伝いしていた農家がついでに乗せていってくれると言うので、百花はトロロをトラックの荷台に載せて家に帰った。

 お礼を言うと、玄関前の柵にリードを繋いで、家の隣にある建物に向かう。
 若干古びたその建物は、元々百花の祖父が農家をしていた頃の倉庫だった。
 木造建築の倉庫にリノベーションをして、いまでは明るく開放感溢れるオシャレなカフェへと変貌している。

 百花が暮らす家も、今は亡き祖父が暮らしていた家だった。
 百花や両親たちも一緒に暮らしていたが、祖父亡き後の両親は都会に近い場所に引っ越しをしてしまった。
 遺産を相続した父は最初、土地を売却しようとしていたが……都会から若干離れているため、近くの工場の倉庫として安く買い叩かれる運命しか待ち受けていない。
 そこを百花は何とか説得し、毎月父に家賃を払う代わりに借りている。

「それに、おじいちゃんの家が無くなるのって、なんか寂しいし……ね」

 今日のランチメニューの下準備を済ますと、入り口にあった立て看板を「開店中」にする。

「今日のランチセットのメニューは、採れたてトマトのミートソーススパゲッティです! ……と」

 辺鄙な場所にあるカフェは開店してもすぐに人が来るわけではない。
 なので、今日の撮影用のランチを作るついでに、百花は自分とトロロの昼食も用意した。

「よし、綺麗に撮れた!」

 営業時間中は店内にトロロを入れているため、百花が映える写真を撮る足元でトロロがガツガツとご飯を平らげている。

「来るのはおばちゃんばっかりだから、SNSに載せたところで効果ないんだけどね……」

 ポツーンとした店内でのんびりしていると、少し寂しくなる。

「あ、そうだ。有紗にも送ろう。昼食食べてないかもしれないから、飯テロになるかもしれないけど……ぽちっとな」

 百花が有紗にミートソーススパゲティと撮れたての拒否犬画像を送ると同時に、ドアに付けていたベルがカランカランと鳴った。

「あ。いらっしゃいませー!」
「モモちゃん。おばちゃん四人組だけど良いかしら?」
「どうぞどうぞ! 奥の席にどうぞー!」