一方、有紗は……。

「くっ! 閉じ込められたっ! ………………室外にッ!!」

 朝九時前に出社したものの、フロアの鍵が開かずに立ち往生していた。
 何度ドアノブをガチャガチャしても開かない。
 勤め先は小さなビルのいくつかの階を借りているが、鍵を持っているのは限られた人物だけ。
 施錠されているので開くわけがない。

「……警備呼ぶつもりないし、この辺にしておくかー」

 有紗は壁に寄り掛かり、黄昏れ始めた。

「びえん……。今日は早くあがりたいのに〜! あがりたいのに〜〜!!」

 まるで三十二歳とは思えぬ挙動である。

 ……数十分後。
 開発室フロアのエントランスに置かれている会社のゆるキャラである小鳥の巨大ぬいぐるみに有紗が愚痴っていると、ついにエレベーターが開いた。

「おはようございます……って白石さんなにしてるの?」
「ぶちょおおおー! やっと! 来てくれましたね!」
「もしかして、白石さんが一番乗り?」
「そうです」
「そっか。いま開けるね」
「うわーい! ありがとうございます!」
「……というか、白石さん昨日の最終もしかして終電だった?」
「そうです」
「……それは、ごめんね。遠いのに忙しい仕事割り当てちゃって。まあどの仕事も忙しいんだけどさ」
「電車の中で寝ていたので良いですよ……」

 有紗は自席に着席すると、数十分前に買ってぬるくなったエナドリをドン! と机の上に置いた。

「さて! 今日も仕事しますかー!」

 まず業務を始めようとした有紗は、その前にとある宣言をすることにした。

「おっと、その前に……『今日は十七時であがります、絶対にだ!』送信っと!」

 強い意志を持った発言は、社内のプロジェクトメンバーが閲覧するチャットに送信された。
 果たして有紗は、十七時であがることが出来るのだろうか!?