【#Introduction】
静寂に包まれた空間。
ステージの中央に立ち、スポットライトを浴びる。
ピアノの音色が優しく響く。
目を閉じて、呼吸を整えて、歌い出す。
歌い出しは、優しく包み込むように。
ピアノとアコースティックギターの柔らかい音に合わせて、そっと囁くように音と言葉を紡ぐ。
サビは、軽やかに弾むように。
バンドの音が加わって、アップテンポになる。
指を鳴らして、足踏みして、リズムに合わせて体を揺らす。
自然と会場から手拍子が起こる。
会場に一体感が生まれる、この瞬間が好き。
「今日はありがとうございました」
そう言って深く一礼すると、場内が大きな拍手で包まれた。
客席に手を振って、ステージ袖でもう一度礼をしてステージを降りる。
これで、今日のコンサートは終了。
無事に終わった安心感と、終わってしまったという寂しさ。
良い歌が歌えたという充実感と、心地よい疲労感。
そんな色んな気持ちが混ざり合う中、まだ鳴りやまない会場の拍手を聞いてもう一度ステージに向かい、アンコールに応えて大切な歌を歌った。
「お疲れ様でした~」
楽屋に戻ると、スタッフのみんなが笑顔で迎えてくれた。
「今日も皆さんのお陰で素晴らしいコンサートが出来ました。ありがとうございました。乾杯!」
「乾杯!」
スタッフが用意してくれた紙コップにそれぞれがお酒やジュースを注いで、乾杯をした。
今日も最高のステージだったな。
お茶を飲んで一息つくと、改めてそんな充実感と喜びが胸いっぱいに溢れた。
歌手になってステージに立つことは、私の幼い頃からの夢だった。
その夢が叶って、こうしてコンサートができることは本当に嬉しいし、幸せなこと。
物心ついた時から、歌うことが大好きだった。
両親も、私の歌声を誉めてくれた。
「結音の歌声は聴いているだけで心が安らぐ。将来はたくさんの人の心を癒す歌手になれる」
そう言われて、小さな頃から歌手を目指してヴォイストレーニングに通っていた。
色々なシンガーオーディションやコンテストを受けてきた。
そして、高校3年生の夏休みに参加したオーディションでは準優勝まで残った。
優勝ではなかったけれど、その時の審査員の方々が私の歌をとても気に入ってくれて、高校卒業後に正式にデビューが決まった。
現在デビュー2年目の20歳だけど、これといったヒット曲はない。
新曲をリリースしても、ヒットチャートの上位にランクインしたことはない。
私自身、メディア出演よりもコンサート活動を大事にしているから、世間的な知名度も低い。
プロとしてデビューした以上は、“売れる”ことを考えなければいけないのはわかっている。
だけど、私は歌うために、歌手になったんだ。
音楽が持つ無限の力を信じて、本当に伝えたいことを歌いたい。
私は歌うために生まれてきた。
そう信じているから、今日も私は歌っている。