――翌週の月曜日。
私はワイヤレスイヤホンを耳に突っ込んだまま自宅マンションのエントランスを出ると、植栽の手前に制服姿の藍が立っていた。
思わず足が止まる。
彼と一緒に学校へ行く約束をした訳ではないし、朝のLINEもおはようの絵文字しか送られていない。
到着に気づいた彼は、キラキラした笑顔のまま私の前へ。
「あやか、おはよ〜」
「どどどど……、どうしてそこに」
びっくりするにもほどがある。
彼に住所すら教えていないのだから。
「どうしてって? 一緒に学校に行こうと思って迎えに来たんだよ」
「それはわかったけど……。どうしてうちの住所がわかったの?」
「みすずに聞いた」
「もぉ〜、個人情報まるで無視なんだから。それに、みすずのことも呼び捨てに?」
「お前の友達は俺の友達だろ。だから、別にいいかなぁ〜と思って」
「なによ、それ〜。自分勝手なんだから」
私の気持ちはいつも彼の五歩うしろ。
でも、31日まで交際することを合意してしまったから割りきるしかない。
――20分後、学校に到着。
自分の席に座ろうとすると、近くに座っている梶くんが「痛っ……」とつぶやく。
反応して目を向けると、ノートの上で指を押さえている。
「梶くん、どうしたの?」
「ノートの端で指を切っちゃったみたい」
「あ、ほんとだ! 大変……。私、絆創膏持ってるからちょっと待っててね」
私はカバンのファスナーを開け、定期入れから絆創膏を出してから彼の指先に貼った。
すると、彼はニコリと微笑む。
「絆創膏ありがとう」
「ううん。早く良くなるといいね」
「美坂さんってよく気づくよね。こーゆーところ」
「えっ」
あの梶くんが私のことを少し知ってるかのような言いっぷりに驚いていると、「お〜はよ!」とみすずが肩を絡ませてきたので席に向かった。
だが、みすずは小声のまま耳元で言う。
「さっそく浮気? やっるぅ〜!」
「そんなんじゃないって! 実は、藍にラブレターの件を話したんだけどさ……。結局断りきれなくて31日まで付き合うことになったよ」
「31日までか。いいじゃん、それくらいなら」
「もう! 他人事だと思って……。梶くんには彼氏付きの女だって思われてるし、藍のことはなんとも思ってないし、朝は迎えに来るし……。ってか、勝手に人の住所を教えないでよ」
「ごめんごめん! でも、石垣くんは個人的におすすめだけどなぁ。男女ともに好かれているし、入学してからのこの3ヶ月間で5人に告られたって噂だよ」
「私の恋人の基準はそこじゃない。お互い好きかどうかでしょ」
「好き同士から始まる場合もあるけど、必ずしもそうとは限らないし。もしかしたらあやかがラブレターを入れ間違えたことが運命の入口だった可能性もあるよ」
「うわぁ。もうそれ言わないでよ。ただの間違いだから」
どうあがいても最終的にはそこに行き着く。
あの日に遡ってラブレターの入れ間違いを正したいと何度思ったことか。
モテる人を好きになるとか、そーゆー感覚を持ってないからこそ気持ちが一歩も前に進まない。
「そんなに否定しなくても。……あ、そだ! このループを断ちきるにはとっておきの方法が一つあるよ」
「えっ、どんな方法?」
「それはね……」
みすずが手を添えてきたので、私は耳を傾けた。
このループを断ちきるとっておきな方法。
それは……。