――同日の昼休み。
私は親友の富樫みすずと教室でランチをしながら昨日の件を伝えた。
ところが、みすずは私の気持ちなど考えずにプッと笑う。
「いいじゃん! 石垣くんってさ、顔はいいし、性格は明るいし、キラキラしてるし、成績優秀だし。……それに、王子様系はあやかのタイプでしょ?」
「それは入学時までのタイプ! いまは梶くんに一途なのを知ってるでしょ」
「ろくに喋ったことないくせによく言うよ。剣道している姿がカッコイイと思っただけでしょ。私も何度か喋ったことはあるけど中身は普通だって」
4月に体育で剣道の授業があった。
梶くんは剣道を習っていたようで、シュッとした姿勢で素振りをしている姿がかっこよく見えた。
そこから興味が湧いて、剣道の話題から少しずつ話すようになって想いが募っていき、昨日告白しようと思っていたのに……。
「みすずの価値観を叩きつけないでよ! 私には王子様にしか見えないの。……それ以前に、私の恋の応援をしてくれないの?」
「あのさぁ〜。あんたは15年間彼氏がいないのに、恋の意味わかって言ってるの?」
「もちろんわかってるよ! 好きな芸能人を見たときにドキッとするような感覚と一緒でしょ?」
「はぁ〜……。まだまだね。石垣くんはもっと深……」
「石垣くんはもっと深?」
意味深な言葉に首をかしげる。
「ん゛っんっ〜……。それ以前に一つ残念なお知らせがあるよ」
「なによ。残念なお知らせって」
「今朝石垣くんが交際発表をした時点で、あんたは梶くんに間接的にフラれてるよ」
「うっぐ……。たしかに」
たった一度のボタンの掛け違えが、こんな悪夢を生み出すなんて。
本来なら梶くんと恋人になっていたかもしれなかったというのに。
トホホ……。
頬杖をついたままブスッとしていると、教室に坂巻くんが戻ってきた。
気づいたみすずはカバンから小さな手鏡を出して前髪をささっと整える。
彼女は最近女の子らしい仕草が増えた。
だから、もしかしたらという想いがある。
「みすずは坂巻くん狙いでしょ」
「……どうしてバレたの?」
「いつも目がハートになってる」
みすずは机に身を乗り出すと声を弾ませた。
「実はさ、このまえ駐輪場で自転車をドミノ倒ししちゃってさ。それを手伝ってくれたのが坂巻くんだったんだよね。その優しさについキュンとしちゃったというか」
「私はそう思った相手が梶くんだったけど?」
淡々として答えると、彼女は波が引いていくように椅子に深く腰をかけて腕を組む。
「まぁ〜、とにかくクラスメイトはあやかたちの交際を歓迎してるし、私はこの雰囲気を悪くするのはどうかなぁ〜と思って」
「なによ、それ! 親友として私の気持ちを考えてくれないの?」
「そんなことないよ〜。あ、ほらっ! そろそろ授業始まっちゃうから自分の席に戻るね」
「もう! みすずったらぁ! ひとごとなんだから」
たしかに、ほぼクラス全員に祝福してもらえるほど石垣くんというキャラは好かれている。
中間テストはオール満点の学年一位。
英語はペラペラ。
それでいて、クラスのムードメーカー。
唯一の欠点は、交際話をクラスメイトに繰り広げたこと。
だけど、全く喋ったことがないのに、私のことが好きだったなんて意外。
石垣くんのことをよく知らないし、梶くんの代わりにすることなんてできないから付き合えないよ。
周りの反応がどうあれ、やっぱりちゃんと誤解を解かないと。
――と、思っているのに……。