「…………」

  “1”、“2”、“0”、“5”。
 試しにゆあの誕生日をタップしてみれば、スマホは即座に振動で拒否を示した。

 そりゃあ……そうか。
 いくら淡白な性格だとしても、パスワードくらいはセキリュティの高さを鑑みて設定するよな。

 いや……しかし8桁でもなく6桁でもなく、今どき4桁って。さすがにリスク管理甘くないか?
 
 数字のみの4桁の組み合わせは、えーっと、10の4乗で1万パターンしかないだろ。地道に打っていけば半日もあれば突破できてしまいそうだが大丈夫かよ。
 俺だからいいものの、もっと悪意をもったやつ、もしくは行き過ぎた好意をもったやつとかに拾われたら……────。

 いつの間にかゆあの心配をしている自分に気づき、ハッと冷静になる。

 やめだ。バカな考えに走るのはやめよう。
 今日の席替えみたく、またバチが当たる感じになったら嫌だしな。

 そう言い聞かせて、スマホをカバンに放り込もうとした。のに、魔が差した。
 もう一度握り直し、入力画面と睨み合う。

  “0”……、“6”……、

  指先を順番に、ゆっくりと移動させる。

 “1”……、“6”。

「なーんてな。───エ?」

 状況を理解するより先に、間抜けな声が出た。
 
 ドクドクッと狂った鼓動が、耳元でありえないほどうるさく響いている。
 首から上が、やけどするんじゃないかと思うほど徐々に熱くなり、それに合わせて呼吸も乱れ。
 もはや全身が心臓になったかのような感覚。

 アイコンが並んだホーム画面を前に、もう何度も瞬きをしたかわからない。
 間違いなく、ロックが解除されている。

「………意味不明、」 

 無意識に零れた声はわかりやすく震えていて、まるで他人のものみたいで、少し笑えた。

 いざ画面が開いてしまえば理性はしっかりと働き、中身を盗み見てやろうなんて考えはすーっと失せてしまう。

 頭の中が疑問符で埋め尽くされている。
 ひとつひとつ整理したいのに、絶えず鳴り響く鼓動が思考を妨げてくる。
 
 …………目眩しそう。

 ひとまずこれを届けなければ、と。
 俺はようやくスマホをカバンに仕舞ったのだった。