雷のせいでプールが使えなくなったので、部活はミーティングのみになった。
 うちの水泳部はみんな趣味でやってるだけの同好会みたいなものなので、雨でなくてもこういうことはしょっちゅうだ。

 「んじゃお疲れっしたー。解散!」

 ミーティング終了後、室内で自主トレでもしようと思ったが、荷物を教室に置いたまま出てきたことを思い出し一旦部室を出た。

 放課後の廊下はひと気がない。
 静かな場所にいると、1時間ほど前のホームルームの光景がおのずと蘇ってくる。

 結局、ゆあの目的が何なのかわからなかった。

 一番後ろに変えてほしいと騒いでいた三原の本当の狙いが自分の隣であることに、ゆあはぜったいに気づいていた。

 あいつの皮肉的な性格から推測するに、彼女のわがままっぷりに辟易しているのをそれとなく行動で示した……と考えるのが妥当な気がするし、そうに違いないとほぼ確信してはいるのだが。

 三原にわからせるためには、嫌いな相手の隣になることが必要……となったとき、その条件をゆあが受け入れるとは到底思えない。

 だって、“あの日”を境に急に話しかけてこなくなったのはお前のほうだろ。目すら合わせようとしなくなった。
 そうだよ。先に手を離したのはお前のほうだったじゃないか。

 3年も、ずっと、俺たちの間にはなにもなかった。
 ついさっきまでそれが答えだと思っていた。
 受け入れるのに同じだけの月日がかかった。

 ────『恭吾くん、久しぶり』
 あんな軽い態度で、あっさり壊しやがって。
 ふざけるなよまじで。

 あのとき、間髪入れずに『どの面下げて』と思いきり睨んでやればよかったのかもしれない。

 …………いや。どうせできない。
 演技だとしても、ゆあの傷ついた顔は昔から苦手で、できればもう一生見たくないのだ。

「………笑える」


 教室には誰もいなかった。
 電気も消えている。まだ17時だというのに外の景色はもう夜みたいだ。その暗さがひっそり心に忍び寄ってくるような心地がしたので、振り切るように早足で自分の席へと向かった。

 沈黙に閉ざされた教室では雨音がやけに大きく響く。
 ふと、その中に紛れて、スマホが鳴っていることに気づいた。

 とっさにポケットから取り出したが、音を立てているのは俺のじゃない。
 だけどその振動はすぐ近くから感じる。

 ────ゆあの席だ。

 画面を伏せた状態で無造作に置いてあるそれを一度は無視しようとしたけれど、あまりにも鳴り止まないのでむしゃくしゃしながら手に取った。