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 三年前、七月七日。

 俺たちの中学では毎年七夕祭なるものが開催されていた。

 短冊に好きな人の名前を書いて告白すれば結ばれるというジンクスがあり、ちょうど思春期に差し掛かる時期の生徒たちにとって、これは一年で最も盛り上がるイベントといっても過言ではなかった。

 もちろん俺も例に漏れず、当時気になっている女子生徒の名前を黒マジックで大きく書いて笹に吊り下げた。左下には自分の名前まで書いたのを覚えている。

 当然、クラス中、いや学年中で話題になった。
 今となっては穴を掘ってでも入りたいくらい恥ずかしいが、まあ色々察してほしい。
 クラスではそういう立ち位置のキャラを担っており、そういったことをしたがるお年頃だったのだ。
(おかげでしばらくすると目立つことに飽きて、高校ではわりと落ち着いた。早熟でよかった、と思いたい)。

 『恭吾くんかっこいい』などの噂は常々耳にしていたし、実際に告白されることも多かったので、成功しないなんてパターンは露ほども考えずに告白に至り、見事OKの返事をもらった。


 一方でゆあは、七夕祭の前日くらいから体調を崩していた。
 当日の朝一緒に登校したときも顔色がよくなかったので休むように促したのだが、『どうしても七夕祭に参加したい』と言ってきかなかった。

 そして結局熱で倒れ、七夕祭の告白イベントが始まる前に強制早退させられたらしい。
 らしいというのは、俺がそれを知ったのは告白イベントが終了したあとだったからだ。

 浮かれた気分のまま、『そういや、ゆあのやつ大丈夫かな』と、ふと思い出しそれとなく担任に聞いたことで発覚した。

 そう、俺とゆあは登下校こそ一緒にしていたものの、クラスでは特別仲がいいというわけではなかったのだ。

 付かず離れず、だけどお互いのことは他の誰より理解していて、一番大事な友人はと聞かれればお互いの名前を答えるような。
 ある意味変わった位置づけの関係が、小学生のときからずっと続いていた。


 ────話を戻そう。

 七夕祭から一夜明けた、七月八日。土曜日。

 目が覚めてしばらくぼうっとしていたベッドの上で、ふと七夕祭に参加したがっていたゆあを思い出した。

 昨日は自分の告白で頭がいっぱいで気にしていなかったが、ゆあにしては珍しく必死だったような……と。

 そのとき、初めて『ゆあにも告白したかった相手がいるのでは』と思った。