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「先生〜私の席、広瀬くんの隣にしてよ〜」
普段よりも浮ついた空気が漂うホームルームの最中、手を挙げたのはクラスでひときわ目立つ女子だった。
それに続き、他のクラスメイトから「俺も」「私も」と手が上がる。
授業中に私語、おまけに担任に向かってタメ口。通常であれば注意されるはずだが、彼らはクラスの“主役”なのでそんなことにはならない。
むしろウチの担任ときたら構ってもらえて嬉しそうなまである。
「おいおいお前ら、広瀬にも選ぶ権利はあるんだぞ〜、なあ広瀬?」
次の瞬間、クラスの視線は必然的に“彼”に集まる。
やれやれと、俺も空気を読んで教室の斜め後ろに目をやった。
広瀬優在。
俺の幼なじみ……だった記憶がある男である。
彼は今日も今日とて、クラス全員の視線をものともせず受け止めている。
その瞳に愉悦の類は一切映らない。その代わり鬱陶しさを隠しきろうとする配慮もない。
口角がほんのわずかに上がっただけの絶妙に冷たい表情が、彼の──ゆあの昔からのデフォルトだ。
注目を集めてもこうやって静かに受け流すし、普段から目立つ言動をとることもないというのに、ゆあは2年7組という小さな社会において絶対的中心に君臨している。
正確に言えば、クラスの連中がゆあを盲目的に(過剰表現ではなく、俺にはそう見える)囲っているという印象だ。
……みんな、どっかおかしいんじゃないのか。
あのゆあだぞ?
嫌味ではなく純粋な疑問である。
見ろよ、この憎たらしい冷笑。
めちゃくちゃ性格悪そうだろ。
場を盛り上げるようなキャラでもないしお世辞なんか絶対言わないし親しみやすさはゼロに近いのに、なぜ。
……いや。純粋な疑問である、とか言いつつ、本当はわかっている。
みんな、ゆあの冷淡なところが好きなのだ。
他人から向けられる関心に無関心なことろが好きなのだ。
魔力でも秘めているんじゃないかと疑いたくなるくらい、その静かな佇まいにどうしようもなく惹かれてしまうのだ。
……極めつけ、恐ろしく顔がいい。
悪役には美人が似合うと言うけれど、裏を返せば美しさは悪であることを肯定できてしまうほどの力を持っているということで、ゆあは、まさにそれを体現しているように思う。
もっとも、みんなの中でゆあはあくまで美しい存在であり悪人ではない。だからこそ言わせてほしい。
ゆあが好きだと熱烈に騒いでおきながら、お前らの認識はしょせんその程度なのかと。
────『ざまあみろ』
知らないだろ。本当の本当に憎らしくてしかたない眼差しも、声も、唇も。
……ああ、思い出すだけで最悪な気分だ。
「恭吾、くじ引きお前の番」
後ろの席から声が掛かり、ふと現実に戻る。
「あー……悪い。今行くわ」
脳裏に浮かんだ光景を打ち消すように、ギーッと乱暴に椅子を引いた。
すでにくじを引き終えたクラスメイトたちが、己の数字を見せ合いながらきゃっきゃと騒いでいる。
大半が、あわよくばゆあの隣になりたいと願ってるんだろうな〜などと思いながら、俺は最初に指先に触れた紙を掴み上げた。
…………くだらね。
ま、なんにせよ俺はゆあと違って優しいので、ゆあの名誉のためにも“あのこと”は黙っておいてやろうと思う。
お前らは今後もせいぜい、そのぬるい認識のままでいればいい。
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「先生〜私の席、広瀬くんの隣にしてよ〜」
普段よりも浮ついた空気が漂うホームルームの最中、手を挙げたのはクラスでひときわ目立つ女子だった。
それに続き、他のクラスメイトから「俺も」「私も」と手が上がる。
授業中に私語、おまけに担任に向かってタメ口。通常であれば注意されるはずだが、彼らはクラスの“主役”なのでそんなことにはならない。
むしろウチの担任ときたら構ってもらえて嬉しそうなまである。
「おいおいお前ら、広瀬にも選ぶ権利はあるんだぞ〜、なあ広瀬?」
次の瞬間、クラスの視線は必然的に“彼”に集まる。
やれやれと、俺も空気を読んで教室の斜め後ろに目をやった。
広瀬優在。
俺の幼なじみ……だった記憶がある男である。
彼は今日も今日とて、クラス全員の視線をものともせず受け止めている。
その瞳に愉悦の類は一切映らない。その代わり鬱陶しさを隠しきろうとする配慮もない。
口角がほんのわずかに上がっただけの絶妙に冷たい表情が、彼の──ゆあの昔からのデフォルトだ。
注目を集めてもこうやって静かに受け流すし、普段から目立つ言動をとることもないというのに、ゆあは2年7組という小さな社会において絶対的中心に君臨している。
正確に言えば、クラスの連中がゆあを盲目的に(過剰表現ではなく、俺にはそう見える)囲っているという印象だ。
……みんな、どっかおかしいんじゃないのか。
あのゆあだぞ?
嫌味ではなく純粋な疑問である。
見ろよ、この憎たらしい冷笑。
めちゃくちゃ性格悪そうだろ。
場を盛り上げるようなキャラでもないしお世辞なんか絶対言わないし親しみやすさはゼロに近いのに、なぜ。
……いや。純粋な疑問である、とか言いつつ、本当はわかっている。
みんな、ゆあの冷淡なところが好きなのだ。
他人から向けられる関心に無関心なことろが好きなのだ。
魔力でも秘めているんじゃないかと疑いたくなるくらい、その静かな佇まいにどうしようもなく惹かれてしまうのだ。
……極めつけ、恐ろしく顔がいい。
悪役には美人が似合うと言うけれど、裏を返せば美しさは悪であることを肯定できてしまうほどの力を持っているということで、ゆあは、まさにそれを体現しているように思う。
もっとも、みんなの中でゆあはあくまで美しい存在であり悪人ではない。だからこそ言わせてほしい。
ゆあが好きだと熱烈に騒いでおきながら、お前らの認識はしょせんその程度なのかと。
────『ざまあみろ』
知らないだろ。本当の本当に憎らしくてしかたない眼差しも、声も、唇も。
……ああ、思い出すだけで最悪な気分だ。
「恭吾、くじ引きお前の番」
後ろの席から声が掛かり、ふと現実に戻る。
「あー……悪い。今行くわ」
脳裏に浮かんだ光景を打ち消すように、ギーッと乱暴に椅子を引いた。
すでにくじを引き終えたクラスメイトたちが、己の数字を見せ合いながらきゃっきゃと騒いでいる。
大半が、あわよくばゆあの隣になりたいと願ってるんだろうな〜などと思いながら、俺は最初に指先に触れた紙を掴み上げた。
…………くだらね。
ま、なんにせよ俺はゆあと違って優しいので、ゆあの名誉のためにも“あのこと”は黙っておいてやろうと思う。
お前らは今後もせいぜい、そのぬるい認識のままでいればいい。