そんなぬるい認識が覆されたのは、入学して約3ヶ月後の7月なかば。

 夏休みも目前となったある日、ゆあとふたりで帰っていると、急に空が暗くなり、遠くの空が光り始めた。

 異変に気づいたのは、そのすぐあと。
 会話の反応がやけに鈍くなり、やがて雨が降り始めると、ついに返答がなくなったのだ。

 不思議に思い覗き込むと、その顔は真っ青で。
 間もなくしてゆあが地面に倒れ、俺はやばいほど血の気が引いた。

『ゆあ!?』

 怯えきった瞳は、俺ではない他の誰かを映しているようで。

『おとう……さ、ごめんなさい……』

 ゆあのこんなに弱々しい声を聞いたのは初めてで。

 だけどそうしているうちに、雨も雷も激しさを増していくから。
 このままではずぶ濡れになると、震える肩をそっと掴んだ。その手は、ひどく乱暴に振り払われた。

 俺はしばらく唖然と固まっていたと思う。

『……あ、……え? きょーごくん……? ごめん……、っ、ごめん、なさい……』

 すると、とつぜん、ようやく“俺”を捉えたゆあの瞳から大粒の涙が零れ落ちた。

 その顔は、振り払われた俺の何倍も深く傷ついていて。
 息ができなくなるほどの胸の痛みを、このとき初めて知った。


『だいじょうぶだから、ゆあ』

 震える肩を、今度はなによりも大事に抱きしめる。

『もう、あやまらなくていいよ』