文化祭も無事終わり、いつもより早めの時間に
海岸通りを2人で歩いて帰っている。

「今日の乃亜、本当にかわいかったわ〜写メ毎日見るわ」

「変態。フフッ」

「変態になるのはしょうがない!
乃亜がかわいすぎたから!」
 
 海岸通りから海辺に向かい、石の塊に座る。
夕陽が間も無く沈むだろう…波の音を聞きながら黄昏る…
2人の思い出を振り返って話をしながら…

〈ザザーザザー 波が打ち寄せる〉

 こんなイケメンで理想の筋肉と骨格を
持っている男が俺の事好きなんだな…
ふと我に帰った。こんな幸せでいいのかな?
俺は慎重なタイプで、心から愛せて尊敬出来る人と
付き合いたいと思っていた。心から信じて愛せる人と…
大袈裟かな?まだ17才だけど。

恋愛対象が同性だからというのもあるけれど
そんな相手に出会えるなんて奇跡が起こらないと
無理だと思っていた。でも隣にいる…理想の男が…

「今日の乃亜見て、初めて会った日の事思い出したよ。
あの日も今日と同じで、綺麗で見とれたから…」

〈ザザーザザー 波が打ち寄せる〉

 初めて乃亜を見たのは、桜の花が舞い散る海岸通り
だった。ベンチに座って桜をみていたら、
綺麗な子が前を通過した。
(見たことない子だな…えっ女?男?どっちだ)

 可愛い顔で華奢な体つきをしていて、
初めてみる人種のように思えた。少し後をつけてしまった。
(俺はストーカーか!)

 そうすると、サラリーマン風の男があの子に話しかける。
(うん?なんかもめている?)

 腕を引っ張られて、ひと気のない所に
連れていかれそうだ。
(これはヤバい?)

 走って2人に追いつき、勇気を出して話しかけた。

「ちょっとまって、その子友達なんですけど、何処に連れて
いく気ですか!?警察呼びますよ」

 そう言うと、その男は去っていった。
(泣いている?)
「大丈夫ですか?」

「あっありがとう。助けてくれて」

(男か!)
「君、見たことないけど、旅行者?」

「最近引っ越してきたんだ。
この町は前からよく来ていたんだけど、
ここ気に入っていて、海岸通りの近くの高校に
入学する事にしたんだ」

「あーじゃあ同じ学年だな。
ここ変質者がたまに出るから気をつけた方がいいよ」

「そうなんだ。知らなかった」
(この子、すっ凄いイケメンだな…骨格凄い…)

「俺の家も海岸通りの近くだから、登下校一緒にする?
俺は君みたいな子一人にしておくの心配だし、
ついでだから」

「いいの?友達になってくれる?」

「うん、もちろん」

「この町で初めての友達だ…」
(めちゃくちゃキラキラした笑顔だ…眩しすぎる…)

 暖かい風が桜吹雪と混じり合って2人を包み込んだ。

 この時は心配の気持ちが大きかったけど、初めて乃亜を
見た時から、恋に落ちていたのかもしれないと今なら思う。
こんなに積極的に自分が動いたのも初めてだし。
会うたびにトキメキが止まらなかった。

〈ザザーザザー 波が打ち寄せる〉

「初めて会った時から好きだったと思う」

「俺も助けてくれた時、ヒーローだと思った。
ずっと一緒にいてくれて、凄く性格もあって
友達として大好きだったから、付き合えなくても
ずっとそばにいるだけで、満足だった…
むしろ、好きにならないようにブレーキ掛けていた…

 お前はゲイじゃないし、迷惑かけたく無かったし、
失いたくなかったから…本当に男と付き合う事、後悔しない?同性カップルに対して世間の目は凄く厳しいと思う。
遼のご両親や友達にバレた時の事を考えると不安だ。
だから凄く悩んでいる…」

「俺は、両親を説得する自信があるし、もし周りの
人達にバレたとしても、気持ちは変わらないし、
乃亜を絶対に守ると誓うよ。俺は今まで人を好きに
なるという事自体が良く分からなかった。それが、
乃亜と出会ってから変わったんだ。乃亜の事愛おしいし、
守りたいし、他の誰かに取られるなんて地獄だ…
だから受け入れて欲しい俺の気持ち…」

「熱いね、遼…フフッ、そんなに思われているなんて
考えもしなかった。本当に好きになっていいの?
もう、多分好きなんだけどね、ヘヘッ」

「うん。もっと好きになって欲しい。
俺は世界で一番乃亜が好きだから。
受け止めて欲しい」

「本当に後悔しない?」

「する訳ない」

「わかった。こっちきて」

 乃亜は遼を抱きしめる。遼も乃亜を強く抱きしめる。
もうすぐ夕陽が沈みそうな海岸通りで、2人は見つめ合う。
乃亜が背伸びをして、遼の唇に優しくキスをした。
そして見つめ合う。

「恋人になりたい」

「もちろん。今日から恋人同士だな。
嬉しい…もう離さないぞ!」

 遼は乃亜を抱き上げ、ぐるぐると回った。
そして強く抱きしめて。キスをした。
優しく触れるだけのキスから、
噛み付くようなキスで愛を伝えた。
二人を祝福するような真っ赤なサンセットを背景に。

    
        Fin
                tommynya