翌日、遼は美術の授業中に、八神先生に呼ばれた。

「晴矢、ちょっといい?備品室に来てくれる?」

「はい。何か手伝いですか?」

 備品室に遼は入っていく。

「あの~お願いがあるんだけど、君にモデルを頼みたいんだ、いいかな?」

「えっなんで俺?」

「どうしても、君の身体を描いてみたくて…」

「えっ、もしかして裸ですか?」

「上半身だけね。バイト代出すからお願いできないかな?」

「えっ、嫌です」

「そっか、じゃあ、真行寺にでも頼むかな」

「えっ、乃亜はダメです。俺がやります。でも背中だけで良いですか?」

「いいよ。じゃあ、明日から宜しくね。放課後美術室で待ってる。真行寺には秘密だよ」

「はい…」

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 翌日の放課後。遼のクラスに顔を出す乃亜。

「遼、今日部活ないから、俺図書館で課題やって待ってる。帰るときメールして~じゃあね~」

「あぁ。了解」

 美術室に入る遼。八神が待ち構えている。

「本当に来てくれたんだ!晴矢、入って入って」

「それじゃあ、脱いだらいいですか?」

「うん。頼むよ」

 さっと、服を脱ぎ、八神に背中を向ける遼。

「なんて綺麗な肩甲骨なんだ…この美しい骨と筋肉は誰のもの?」

「誰のものでもありません。俺のものです」

 八神は遼の肩甲骨を、乾いた筆でなぞり、首の付け根から背骨を一つ一つ確認するように、筆を下に移動させる。遼はビクっと身体をふるわせる。

「ガタッ。ごめんなさい…せっ先生、何しているんですか?」

 美術室の物置を整理していた乃亜が、物置から出てきて備品を落とす。遼と八神の秘密のやりとりを見てしまったのだ…

「真行寺、居たのか…」

「部活が休みなので、備品の整理をしていました…」

「晴矢服を着なさい。今日はもう帰っていいよ」

 そう言って、バイト代が入っている茶封筒を遼に渡し、八神は部屋を出ていった。

「遼、大丈夫?」

「お前ずっと見ていたのか?」

「うん…出て行きにくくて…先生、遼の事好きなんじゃない?性的な意味で」

「ハハッ、でもお前あの先生の事好きだよね?凄い変態だぞ」

「好きではないよ。推しに似ているから憧れていただけだし。変態すぎてちょっと引いてる…」

「先生に頼まれて、モデルのバイトしていただけ。俺が断ったらお前にこれ回されそうだったから…やるしかなかった…」

「そっそうなんだ…断ればいいのに…筆で触られていたよね?セクハラじゃない?」

「あぁそうだな…お金貰っているから我慢したけど、気分は最悪だ」

「遼は被害者だよ。傷ついている?」

「うん。大丈夫、お前じゃ無くて良かった…」

「え?」

「うん何でもない…」

 この日以来、八神先生は暫く学校を休んでいる。学校に報告すると事が大きくなりそうなので、遼と俺と先生の、三人だけの秘密にしておく事にした。