「ママの馬鹿!あきちゃんを苛めたらママでも許さない!絶対許さない!」
六歳先輩が華葉子に珍しく感情を露にして大きな声で叫ぶ。
赤子の時から無意味な涙は出しませんよ?夜泣き?いやいや、赤子だって夜は寝たいんですよみたいな乳幼児を送ってきた六歳先輩。
ちなみにオムツも二歳前に取れて、聞き間違えじゃないなら言ってた。
「紙オムチュだいがもったいない」
誰かの転生ですと聞いたら一同納得するこの六歳先輩、私が傷ついたのを勘づいたのか、涙をポロポロ流して華葉子を睨んでいる。
この子の小さな身長から更に小さな身長の時をふと思い出す。
「ママってばあきちゃんに会いたい会いたいっていっつも言ってるんだよ」
内緒話にする必要ない内容を、わざとに耳打ちしてくる六歳先輩。
「何の話してんの?アサイーボウル?」
華葉子が私達に聞いてくるが、二人でクスクス笑う内緒の話。
あとそんなに気になるならそろそろ買ってアサイーボウル。
ちなみに私は画像を見てブルーベリーだと思っていたよ。ちなみにピューレの画像はアサイーボウル未経験の私にとって全く別の品物に見えてるよ。
本当にさぁ、良い子に育てたよね。
華葉子の子育て絶対間違えてないよ。だってこんなに優しいのは華葉子譲りだよ、間違いないよ。
あとどうして六歳先輩が私をこんなに好きなのかは、私知ってるんだよ。
華葉子が「ママは晶子が大好きなんだよ」っていつも言ってくれてるからなんだよね。
「……ごめん、晶子。ごめんなさい」
六歳先輩に怒られてまたしても泣く華葉子。
さっきとは違う理由で流す涙には、反省の色がちゃんと見えてるよ。本心じゃないのも分かってるから。
言われた言葉はきっと根に持つと思うし、高齢者になって記憶が
曖昧になった時にその言葉を思い出して心筋梗塞起こすかもしれないけど。
華葉子だから許すんだよ。
だって華葉子の娘は私の娘でもあるんだから。
大好きな華葉子の子供は当たり前に大好きだから。
「ねぇ、華葉子。やっぱり納豆炒飯食べてったら?」
「た"べる"ぅぅごべんな"さぁぁい」
サランラップをかけた納豆炒飯を冷蔵庫から取り出し、テーブルに乗せてあげる。
「チ"ン"じでぇぇ」
「あつかまし!」
電子レンジで暖めた納豆炒飯は、美味しい美味しいと華葉子の口にどんどん吸い込まれていく。
大盛り納豆炒飯があれ?ここ、大食いチャレンジ行われてました?という量だったのに、あっという間に完食した華葉子。
「あー!やっぱり納豆炒飯食べると何か頑張ろうって思えるわ。ありがとね晶子。……本当にごめんね」
「いいよ、またおいで」
玄関で靴を履き、二人を見送ろうと外に出た時に六歳先輩が私の耳を貸せとジェスチャーしている。
六歳先輩が耳打ちしやすい様に膝を曲げると衝撃の言葉。
「私の泣き演技も大したものでしょ?」
……っ!?
ほんっっとに末恐ろしい子。
もう以前に女優とか経験してきましたよね六歳先輩。あれかなー?生まれ変わり的な何かで前世の記憶を全て持ってきてしまったのかな?
「なんの内緒の話?姑がアサイーボウル食べようとした時に、どうせ本物の姿形知らないから業務用スーパーで買った加糖の紫芋のペースト、砂糖しこたま混ぜて毎朝大量に糖分摂取して将来的に苦しめよってやってた私の話?」
「「っっ!?」」
色!色は似てるけれども!!
でも多分紫芋のペーストもなかなか栄養素が高そうだけれども?砂糖しこたまってそれってどれくらい?場合によっては美味しいスイーツを毎朝作ってたんじゃないだろな?
「今度美味しいアサイーボウルのお店教えてあげるから三人で行こうよ」
六歳先輩がまさかの提案。
いやどこで!?そんな情報を仕入れてきたのでしょう!?
それこそ耳打ちしてよ、その情報。
「……ところでご依頼されます?」
「……えぇ勿論」
「搾り取ってねあきちゃん」
アパートの外で女三人同じ顔でニヤリと笑い、未来に向けての依頼が完了した。
「……え?」
「……は?」
「……ま?」
誰だ!最後にちょっと若者言葉で驚いた奴は!
全員ある物を受け取ったと通知が来てさぞ驚いていることでしょう。
慰謝料請求の内容証明
私晶子は実は弁護士。キチンと弁護士バッチも持っておりますし、弁護士登録番号も日本弁護士連合会のHPで検索して頂いたらご確認頂けます。
話は戻りまして、華葉子の別れた家族が馬鹿で良かった。あんなに堂々と嫁いびり、不倫報告で離婚。慰謝料が発生する案件とか微塵も思わないのね。だてにアサイーボウルが紫芋のペーストにすり変わっても気付かないから仕方ないか。
華葉子にアドバイスしたのは先ずは証拠を集めろ。
自分がされた日記。音声、映像、不倫相手との証拠。
必死でかき集めた証拠の数々は、華葉子の人生を全否定する苦しいものだったが、これが必ず希望に繋がると励ました。
親友が罵声や暴力的にいびられている映像は、弁護士としての私情を出さないようにするのが大変、てかちょっとムカつき過ぎてICレコーダー、一つ破壊したかもしれない。うん、言ってない。
逃げられない証拠、リアルに払えない慰謝料の金額。払わない場合は必然的に裁判を起こすのだがあちら側の勝訴の可能性は万が一、奥が一、納豆炒飯に魚肉ソーセージを入れないほどあり得ない。
向こうに弁護士がついた所で心の中は鼻で笑われ、勝ち目の無い依頼を単調にこなされるだけだろう。
そんな中、向こうの旦那が心労で倒れて入院したと連絡が入る。
正直内容証明を送られた相手はあの手その手で理由をつけて応じないのが少なからずいるが、どうやらそれは本当だったらしい。
──なぜなら。
「こんにちわー。貴方の担当になりました華葉子と申します。あちらこちらにだらしないお下のお世話、がんばりまーす!」
入院した先に白い制服を着て自分の元旦那に挨拶をする華葉子。華葉子は七年ぶりに復帰した看護士として、ここの病院に勤務が決まったが元旦那の担当になったのは全くの偶然だった。お互い名字も違い、周りにも話してない。
元旦那が担当を変えろ!と騒ぎそうになった時、これだ本当の耳打ちだ!みたいな内容をボソッと話す。
「分かってるよね?騒いだら慰謝料増大させる」
どうやら元旦那、この一言で華葉子のお世話に震えて過ごし、全く体調が良くならないらしい。
「血圧私が来たら上が200越えたり時には80だったり、全然安定しないけど心拍数だけは安定にずっとヤバい。笑える」
「自業自得でしょ。別に華葉子が何かするわけでもないじゃん。看護士の立場利用して何かをしたら逆にこっちがお縄だし」
「配膳されるオカズ一口食べてるくらいかな」
「地味にムカつくそれ」
華葉子が仕事帰り、時々私のアパートに寄って現状を話してくれる。
そして我々の持っている右手はスプーン。テーブルの上には当然に納豆炒飯。
苦しいこと。辛いこと、悲しいこと。何でもない日も大体納豆炒飯食べてた。食べて笑って大体何とか這い上がってきたよね。
そういえば私が落ち込んだ時に作ってくれた、華葉子の納豆炒飯は本当に美味しかった。
「魚肉ソーセージも美味しいけどちくわもありなのよ」
結局練り物!
我々は練り物を炒飯にいれる特性がある傾向にある。
そして美味しかった、ちくわ。でも多分何を入れても何を混ぜても美味しいような気がする。
だってそこに華葉子が笑って食べてくれるなら。
「さーて明日も頑張りますか」
「そういえば娘は?」
「思いやり、支え合うその心はいかに大事か!みたいな話を毎日両親にしてるわ」
六歳先輩……
カッケーです。一生ついていきます。
「また食べに来る。ありがとね」
「こちらこそ納豆いつもありがとう」
でもそろそろ米も持参して。
お米が高いのですよ華葉子さん。ついでに卵も高いですよ華葉子さん。
ま、いっか。
今度はいつ一緒に納豆炒飯食べるかな。
こんな日は大体納豆炒飯食べてた
【完】