何やらキラキラした画像を載っけてはいいねを貰いたい承認欲求族がいるこんな世の中、私晶子は全く興味も無くキラキラアプリをインストールすることなく日常を送っている三十代。
いや、興味が無いといえば語弊がある。世の女性達が美意識を高める為にはこれを使え!みたいな広告は少し興味をそそられるが、こちらに登録すると今ならなんと!みたいな決まり文句がついてしまったら急に ──スンっとその商品への興味が消え失せる。
洗顔後の化粧水は三桁の値段にどこのメーカー品これ?って思いながらも使用して六年経ってた。
あれー?六年?何かこれでいっかーって思って使用してたら可もなく不可もなくのお肌の調子に使い続けていたら六年。
オリンピックが終わって更に一年追加しとるがな。
ピカピカの!一年生!が、六年生になるまで山あり谷ありとなんらかの波乱万丈を得て成長してるのにこちとらずっと現状維持。いや、何かの機械を使わないと見えないお肌の細胞はきっと老化してるから、ハリとか潤いとか減少してるであろうアラサー、これがお肌の曲がり角。
ギュン!ですよ、ギュン!
出勤前の虚無に近い表情でメイクしてる時、あー今日は化粧のノリが悪いなぁなんて思ってたけど、むしろノッてたのいつ?って。私のお肌、前回ノリノリだったのいつ?って。
むしろ最近ノったことあった?って。
ちょっと本音話すとファンデーションのせいにしてる部分もあった。やっぱりBBクリームじゃ駄目かな、あちらこちらに宣伝出してる高いファンデーションじゃなきゃ私のお肌はノれないかなって。だってお肌がギュン!って曲がったから、化粧品のことなら私にお任せあれ!みたいなメーカーじゃなきゃ駄目かなって思ってスマホからポチったちょっとお高いファンデーション。
「やばいやばい、やっぱり高いだけあるぅ」
なんて思いながらスポンジパフを自分の顔面、ゲームのコントローラーのボタン超連打するように顔面の経験値積んでたんだけど、出勤して主任から開口一番
「あれ?晶子、今日体調悪い?顔色悪くない?」
ってまさかの体調不良の疑い持ちかけられて、あぁもうファンデーション関係無いわって気付いちゃった。
ファンデーション
高いも安いも
気の持ちよう
あとね、あちこちの毛という毛を永遠に生えさせないみたいな脱毛という施錠が浸透して、なんとビックリ今では男性すらもやるのが当たり前な時代に完全に私と私の毛が共に置いてかれた感でいっぱいになった。
だけど、なんだろう、なんだろぉぉなぁぁ。
えっと……見せる?見せる機会が無いというかね。何処かの毛を根絶やしにした所で御披露目会がやってこない。例えそれがアマゾンの森のように生い茂ったり、森林伐採をしたとしても、それを評価する環境大臣やデモを起こす住民が私の前には現れない。
ある意味私、無農薬、無添加、それかちょっとしたオーガニックかなって。
地球の森林がどんどん減っていく中、私の天然自然は守ってるの。
でもそれって今ではけっこう少数になりつつな分類なんだけど、時代の流行りに更に全く乗らない友達がいて。
友達というか、親友というか、前世で何処かの名の知れた武将を倒しに手を取り合った農民同士の固い絆とう戦友なのか。
『アサイーボウルって私、どこかの球団でアサイさんの魔球の名前かと思ってた』
って、突然LINE送ってきた友達、その名も華葉子。いやアサイーボウルとか私も詳細知らないけど間違いなく魔球とは思わない。
しかし華葉子はそう思ったんだね、うん。そして多分アサイ魔球はきっと我々の口には入らない品物なんだけどさ。
この華葉子との出会いは忘れもしない、高校二年の時に初めて同じクラスになって、話せば話すほど気が合うし楽しいし、気付けば自他共に認める晶子と言えば華葉子。華葉子といえば晶子というコンビが完成した。
華葉子とは一生マブだなって思ったきっかけは、高校二年の当時の私は一人暮らしをしている彼氏と付き合っていて、合鍵を持っていた私は彼氏のアパートでクオリティの低いご飯を作って待つという新妻気分を味わっていた。少ないレパートリーの一つ、納豆炒飯。
高校生の私でも安く買える材料を揃え、私が幼少期に兄貴に作ってもらった思い出の味を彼氏に食べさせた所
「炒飯はパラパラが普通だろぉがよぉ!ネバネバさせてどうするんだよぉ!おん!?」
彼氏まさかのブチギレ。私も記憶の兄貴もビックリ。待って待って、そんな切れる?そんな地雷踏んじゃうレベル?
テーブルごとひっくり返してどこかのアニメの親父かと思ったもん。
あれー?これちゃぶ台だったかなー?って、遠くで姉が涙流して見てるかと思った。
んでね?
まぁ私も作った食べ物ひっくり返す奴とは付き合いきれないわけで、食べ物粗末にする奴とは一生一緒にいれないわけで。
一年ちょっとお付き合いして、車の中で別れ話をした時に聞いてみたわけですよ、彼氏に。
「……あのさ、納豆炒飯の何が嫌だったの?」
「は?納豆炒飯て、晶子が作った納豆炒飯?いやいやいや!炒飯は普通パラパラだろ?何でしっとりさせたの?しかも魚肉ソーセージとか入れてたろ?ないからぁぁぁ!」
ないからぁぁぁはおめぇだ!
晶子はパラパラもしっとりとした炒飯も好きなんだよぉ!
そんでもってあのピンク色した魚肉ソーセージが好きなんだよぉ!
友達の紹介で知り合った彼氏A男。
一ヶ月記念、二ヶ月記念と一ヶ月ごとにお祝いしていたあの頃。まるで私の母親が亡くなった祖母の仏壇にお供えしていたかのような月命日。
一ヶ月記念(ハート)とか書いていたプリクラの文字はそれはまるで供養のような儀式。
成仏せよ!彼氏A!
二度その面見せるな!チンチンチン!
と、華葉子に彼氏Aと別れたと報告をしたわけですよ。
携帯を見られるとか、他の男とメールをしたらぶん殴られたとか、納豆炒飯作ったら切れられたとか、どこから突っ込めばいい?みたいな理由をとにかく包み隠さず言ったら華葉子
「何?納豆炒飯て」
え、そこに食い付いちゃうんだ、彼氏Aと別れた報告は特に気にしないんだ、納豆炒飯なんだ……って一瞬友情の絆疑ったけど、休み時間、体育の時間、下校中も
「何?納豆炒飯て」
まさかの五行目前と何一つ変わらない言葉で、グイグイくるもんで、あ、この人マジで気になってるんだってこっちも察して私の自宅に招いて作ったわけですよ。納豆炒飯を。彼氏Aに作った材料と全く同じ。
材料
米【固さこだわり無し】
炒飯の素【こだわり無し】
豆板醤【こだわり無し】
納豆【中粒以外作ったこと無い】
玉ねぎ 卵
魚肉ソーセージ【切れられた】
ちなみに納豆は炒めると臭いが倍増だぞってウィンクしたけど私の渾身の片目閉じた顔、華葉子全然見てない。
晶子家のダイニングテーブルに黙って座りながらお腹グーグー鳴らしてるんだけど、あれ華葉子?君ちゃんと華葉子母が作ったお弁当食べて、ちょっと足りない言って購買でパン買ってたよね?
ただ、聞き間違いじゃなければ購買のおばちゃんに言ってた。
「納豆炒飯一つ」
華葉子の頭の中、納豆炒飯でいっぱいになっててちょっとイッてた。目がね、イッてた。華葉子の瞳の瞳孔が納豆に見えたもん。
そして豆板醤で赤く染まったしっとり納豆炒飯を華葉子に差し出して、華葉子は右手にスプーンを持ち、口に運んで一言。
「好きな食べ物ランキングが更新してしまった……」
スプーンを持つ反対の手で額を押さえて感無量している姿にちょっとごめん、友達だけどハッキリ言う。
食べ物の味覚偏差値低くない!?
ただ綺麗に完食した華葉子を見て、また作ってあげたいなと思ったわけですよ。
それから月日が流れ──