うわ、またやってんなって思ったのが正直っすね。
あ、ええと……って、これ俺の名前って言わないほうがいいんですよね?
わかりました、じゃあ、麻月 かえでさんの他己紹介をしたいと思います。
どこまでお話しましょう。あの人の話ってどこまで伝わってるんですかね。あ、そこは教えてもらえないパターンっすか。
ああ、“また”っていうのは、彼女と俺が同級生だったってことと関係してます。まあESとか見ればわかりますよね。就活では高校の名前とか出さないんで、誰も知らなかったと思いますよ。麻月さんと同じ高校だったってことは。
本人は隠したがってたみたいでしたね。
会ったのは最終選考のときだけです。会議室に通されたじゃないですか。そのときに、彼女と久しぶりに会って。思わず声をかけそうになったんですけど、そういえばそういう仲ではなかったなって思い出しました。向こうも、俺とは関わりなんてなかったことにしたかったのが薄っすら伝わったんで、まあそういうことにしとこうかなって。それに、あんまり関わりたくなかったのが本音なんですよ。
昔から人畜無害そうな顔をして、よく問題を起こしてました。SNSとかでも同じクラスの人たちと揉めたことがあって。麻月さんから吹っ掛けたらしいです。直接言えばいいのに、わざわざSNSで言うってダサいなとは思ってたんですけどね。でも、今回の集まりでは、SNSが疎いみたいな話をしてたんで、なんかあれでしたね、なんでそんな嘘つくのかなって。多分、花屋さん並みに得意だったんじゃないですか。いや、花屋さん以上かも。SNSに関しては本当によく動いてましたから。あ、そうそう、高校のときの揉め事ですよね。
何が問題だったんだっけ……あの人、いろんなところで厄介なこと引き起こしてて。……あ、そうだ。最初は情報屋みたいな感じで名乗ってたんですよね。私に聞けばなんでも分かりますよ、的なことを言ってんだっけな。地味そうな感じなのに、なんかそういうこと言っちゃうんだっていう意外性があって。まあ、結局、嘘か本当かわからないような情報を流して周りに迷惑かけるようなタイプでしたね。クラスに一人は不思議ちゃんキャラいませんでした?
麻月さんはその立ち位置っすね。周りからも結構嫌われてました。
今回のNPOのこととかもご存知ですよね?
情報を第三者に横流しみたいな。そうです、あれ、あの人自身が不正に情報を売ってたんじゃないかなって思うんですよね。
先輩がとか言ってましたけど、そういう繋がりとか一切なかったですから。孤立してましたねえ、麻月さんに近寄る人なんて誰もいなかったです。
自分のこと、極端に認めてほしい人っているじゃないですか。
麻月さんの場合は特にそうだったと思います。承認欲求が強いっていうか。自分の価値はこんなもんじゃないって思ってるようなところありましたね。久しぶりに会ってちょっと丸くなったのかなとは思ってましたけど、蓋を開けてみれば何一つ変わってなかったです。
よく自分のことを雑草とかで表してたんですよ、高校時代。あ、関わりはなかったんですけど、麻月さんのSNSって有名だったんで。みんな面白がって見てはネタにしてました。 で、雑草とかってからかうと、あの人ヒスっちゃって。あ、ヒステリックっす。そんな感じになってました。「お前らに雑草呼ばわりされるのが一番むかつくんだよ!」って。やばいっすよね、そういう感じだったんですよ。そのときも泣いてましたね。多分、泣くことで悲劇のヒロインを簡単に演出できるじゃないですか。私はこんなにも頑張ってるのに誰も認めてくれない、みたいな。
認めるわけないっすよ。何も頑張ってないんですから。とにかく自分、自分みたいなところ直したほうがいいと思うけどな。
今回、泣いてたのを見て悪寒がしてました。昔もよく泣いてたなって。でも、ただ泣くだけだったんでまだ可愛い方でしたよ。今回なんてビニール袋まで持参しちゃってましたから。ええと、なんか呼吸が苦しくなるやつ、あれなんて言うんでしたっけ。
……ああ、そうです、過呼吸。
見事に演じてましたね。嘘だろって笑っちゃいましたよ。そういうの恥ずかしげもなくできる人っているんだって感心しちゃいました。
え? いや、本当なわけないっすよ。全部演技です。そういうのができる人なんですよ。もうこれって同級生じゃないとわからないようなやつかもしれないです。あの人の真面目そうな見た目に騙されちゃうんですよ。いい子キャラみたいなのを演じておきながら、心の中ではどす黒いことしか考えてないような人なんで。
こういう人がこのまま社会に出たりするんだなって思うとぞっとしません? 怖いじゃないですか、羊の皮を被った悪魔ですよ。ここで縁が切れてよかったなって心底安心してます。正直、最終面接の途中まで、まじで麻月さんだけ落ちてくれないかなって思ってました。あの人だけは社会に出したらまずいですって。
それに、あんなことをやり出すような人ですよ?
え、プリンターの件、聞いてないですか?
ああ、そうです、告発文みたいなやつ。あれ、どう考えても麻月さんの仕業です。最初は長谷川を疑ってたんですけどね。でも、すぐにこいつは犯人じゃないなってわかったんで、そのあとはずっと麻月さんを泳がせてました。
俺が長谷川を疑ってるときのあの顔、どっかで録画されてないんですかね。傑作でしたよ、物事がうまく進んで満足そうにしてる顔。それなのに自分が疑われ出したら怯えて。あれって全部演技なんですかね、あの人本当怖いっす。
匿名他己紹介が始まる前、ものすごい速さで画面タップしてて。大急ぎであの告発文作ってたんだろうなって感じです。
どこから情報仕入れてきたかはわからないっすけど、まあ、自称情報屋なんで。そんなの楽勝じゃないですか。
なんか可哀想な人ですよね、そういうことでしか注目されないって。
あの人はずっと空気みたいだったんですよ。存在感なくて。他人に同調ばっかして自分ないし。よく最終選考まで残ったなってびっくりしてました。ここだけの話、麻月さんを残した理由とかって教えてもらえたりしないっすか? ……あー、やっぱりだめっすよね。他言しないって言ってもだめっすか。 ……いやいや、嘘です、冗談です。
なんで残ったか不明ですけど、まあ最後にあの人が見れてよかったですよ。これで今度の同窓会のネタができました。未だに麻月さんネタ受けがいいんですよね。
今回の話をしたらすげえ喜んでもらえると思います。だから、まあご縁はなかったですけど、ああいう時間を設けてもらって感謝してるんすよ。こんなこと思ってるの俺だけかもしんないですけど。ほかの人たちにとっては地獄だったんでしょうけど、俺にとっては楽しかったっす。
そういえば、あの時間で「償う」とかどうとか言ってたな。自分が犯した罪に。そんなつもり、さらさらないと思いますよ。まさに悲劇のヒロインを演じちゃってましたね。スポットライトが自分に当てられてることに浸ってましたよ。笑えたなあ。もう笑いを堪えるので精一杯でした。あ、あの人も笑ってたな。最初から気付いてたかもしれないですね。
うわ、推薦! ありましたね、そんなことも。覚えてたんですけど、途中からどうでもよくなってました。あの中から推薦したい人なんていると思います? 全員最悪だったんですよ。それに、なんか存在自体が嘘みたいな人もいたじゃないですか。
推薦かあ……これ、かなり難しいですよ。どういう基準でいいんですかね。なんか人としては怖いですけど、面白さで言ったら麻月さんじゃないですか。だからって推薦したいわけでもないんですけどねえ。
いやあ、誰だろう。ここは俺で、とか言いたいですけど、さすがにそんな馬鹿はいないですよね?
え、なんですか、その微妙な反応。見逃さないっすよ。もしかしてそいう人間いました? 気になりますよね、もしかして麻月さんとか? いや、さすがにあの人は香田さんの前だと猫かぶってますよね。誰だろう。どっちにしても面白い人間ですね。好意的なほうじゃなくて、なんか、寒いほうの。
あ、やっぱり一人いるかもしれないです。あの人──多分あの人がいいと思います。
あ、ええと……って、これ俺の名前って言わないほうがいいんですよね?
わかりました、じゃあ、麻月 かえでさんの他己紹介をしたいと思います。
どこまでお話しましょう。あの人の話ってどこまで伝わってるんですかね。あ、そこは教えてもらえないパターンっすか。
ああ、“また”っていうのは、彼女と俺が同級生だったってことと関係してます。まあESとか見ればわかりますよね。就活では高校の名前とか出さないんで、誰も知らなかったと思いますよ。麻月さんと同じ高校だったってことは。
本人は隠したがってたみたいでしたね。
会ったのは最終選考のときだけです。会議室に通されたじゃないですか。そのときに、彼女と久しぶりに会って。思わず声をかけそうになったんですけど、そういえばそういう仲ではなかったなって思い出しました。向こうも、俺とは関わりなんてなかったことにしたかったのが薄っすら伝わったんで、まあそういうことにしとこうかなって。それに、あんまり関わりたくなかったのが本音なんですよ。
昔から人畜無害そうな顔をして、よく問題を起こしてました。SNSとかでも同じクラスの人たちと揉めたことがあって。麻月さんから吹っ掛けたらしいです。直接言えばいいのに、わざわざSNSで言うってダサいなとは思ってたんですけどね。でも、今回の集まりでは、SNSが疎いみたいな話をしてたんで、なんかあれでしたね、なんでそんな嘘つくのかなって。多分、花屋さん並みに得意だったんじゃないですか。いや、花屋さん以上かも。SNSに関しては本当によく動いてましたから。あ、そうそう、高校のときの揉め事ですよね。
何が問題だったんだっけ……あの人、いろんなところで厄介なこと引き起こしてて。……あ、そうだ。最初は情報屋みたいな感じで名乗ってたんですよね。私に聞けばなんでも分かりますよ、的なことを言ってんだっけな。地味そうな感じなのに、なんかそういうこと言っちゃうんだっていう意外性があって。まあ、結局、嘘か本当かわからないような情報を流して周りに迷惑かけるようなタイプでしたね。クラスに一人は不思議ちゃんキャラいませんでした?
麻月さんはその立ち位置っすね。周りからも結構嫌われてました。
今回のNPOのこととかもご存知ですよね?
情報を第三者に横流しみたいな。そうです、あれ、あの人自身が不正に情報を売ってたんじゃないかなって思うんですよね。
先輩がとか言ってましたけど、そういう繋がりとか一切なかったですから。孤立してましたねえ、麻月さんに近寄る人なんて誰もいなかったです。
自分のこと、極端に認めてほしい人っているじゃないですか。
麻月さんの場合は特にそうだったと思います。承認欲求が強いっていうか。自分の価値はこんなもんじゃないって思ってるようなところありましたね。久しぶりに会ってちょっと丸くなったのかなとは思ってましたけど、蓋を開けてみれば何一つ変わってなかったです。
よく自分のことを雑草とかで表してたんですよ、高校時代。あ、関わりはなかったんですけど、麻月さんのSNSって有名だったんで。みんな面白がって見てはネタにしてました。 で、雑草とかってからかうと、あの人ヒスっちゃって。あ、ヒステリックっす。そんな感じになってました。「お前らに雑草呼ばわりされるのが一番むかつくんだよ!」って。やばいっすよね、そういう感じだったんですよ。そのときも泣いてましたね。多分、泣くことで悲劇のヒロインを簡単に演出できるじゃないですか。私はこんなにも頑張ってるのに誰も認めてくれない、みたいな。
認めるわけないっすよ。何も頑張ってないんですから。とにかく自分、自分みたいなところ直したほうがいいと思うけどな。
今回、泣いてたのを見て悪寒がしてました。昔もよく泣いてたなって。でも、ただ泣くだけだったんでまだ可愛い方でしたよ。今回なんてビニール袋まで持参しちゃってましたから。ええと、なんか呼吸が苦しくなるやつ、あれなんて言うんでしたっけ。
……ああ、そうです、過呼吸。
見事に演じてましたね。嘘だろって笑っちゃいましたよ。そういうの恥ずかしげもなくできる人っているんだって感心しちゃいました。
え? いや、本当なわけないっすよ。全部演技です。そういうのができる人なんですよ。もうこれって同級生じゃないとわからないようなやつかもしれないです。あの人の真面目そうな見た目に騙されちゃうんですよ。いい子キャラみたいなのを演じておきながら、心の中ではどす黒いことしか考えてないような人なんで。
こういう人がこのまま社会に出たりするんだなって思うとぞっとしません? 怖いじゃないですか、羊の皮を被った悪魔ですよ。ここで縁が切れてよかったなって心底安心してます。正直、最終面接の途中まで、まじで麻月さんだけ落ちてくれないかなって思ってました。あの人だけは社会に出したらまずいですって。
それに、あんなことをやり出すような人ですよ?
え、プリンターの件、聞いてないですか?
ああ、そうです、告発文みたいなやつ。あれ、どう考えても麻月さんの仕業です。最初は長谷川を疑ってたんですけどね。でも、すぐにこいつは犯人じゃないなってわかったんで、そのあとはずっと麻月さんを泳がせてました。
俺が長谷川を疑ってるときのあの顔、どっかで録画されてないんですかね。傑作でしたよ、物事がうまく進んで満足そうにしてる顔。それなのに自分が疑われ出したら怯えて。あれって全部演技なんですかね、あの人本当怖いっす。
匿名他己紹介が始まる前、ものすごい速さで画面タップしてて。大急ぎであの告発文作ってたんだろうなって感じです。
どこから情報仕入れてきたかはわからないっすけど、まあ、自称情報屋なんで。そんなの楽勝じゃないですか。
なんか可哀想な人ですよね、そういうことでしか注目されないって。
あの人はずっと空気みたいだったんですよ。存在感なくて。他人に同調ばっかして自分ないし。よく最終選考まで残ったなってびっくりしてました。ここだけの話、麻月さんを残した理由とかって教えてもらえたりしないっすか? ……あー、やっぱりだめっすよね。他言しないって言ってもだめっすか。 ……いやいや、嘘です、冗談です。
なんで残ったか不明ですけど、まあ最後にあの人が見れてよかったですよ。これで今度の同窓会のネタができました。未だに麻月さんネタ受けがいいんですよね。
今回の話をしたらすげえ喜んでもらえると思います。だから、まあご縁はなかったですけど、ああいう時間を設けてもらって感謝してるんすよ。こんなこと思ってるの俺だけかもしんないですけど。ほかの人たちにとっては地獄だったんでしょうけど、俺にとっては楽しかったっす。
そういえば、あの時間で「償う」とかどうとか言ってたな。自分が犯した罪に。そんなつもり、さらさらないと思いますよ。まさに悲劇のヒロインを演じちゃってましたね。スポットライトが自分に当てられてることに浸ってましたよ。笑えたなあ。もう笑いを堪えるので精一杯でした。あ、あの人も笑ってたな。最初から気付いてたかもしれないですね。
うわ、推薦! ありましたね、そんなことも。覚えてたんですけど、途中からどうでもよくなってました。あの中から推薦したい人なんていると思います? 全員最悪だったんですよ。それに、なんか存在自体が嘘みたいな人もいたじゃないですか。
推薦かあ……これ、かなり難しいですよ。どういう基準でいいんですかね。なんか人としては怖いですけど、面白さで言ったら麻月さんじゃないですか。だからって推薦したいわけでもないんですけどねえ。
いやあ、誰だろう。ここは俺で、とか言いたいですけど、さすがにそんな馬鹿はいないですよね?
え、なんですか、その微妙な反応。見逃さないっすよ。もしかしてそいう人間いました? 気になりますよね、もしかして麻月さんとか? いや、さすがにあの人は香田さんの前だと猫かぶってますよね。誰だろう。どっちにしても面白い人間ですね。好意的なほうじゃなくて、なんか、寒いほうの。
あ、やっぱり一人いるかもしれないです。あの人──多分あの人がいいと思います。