花屋凛さんの他己紹介ですか。ここで発表される感じなんですね。……え、事前に伝えられてるパターンもある? だとしたら、そっちがよかったです。選べないってことは、ここにもなにか意図があるんでしょうか。
 まあ花屋さんについて話すとしたら、なんか美談っぽく終わったなってところが正直なところですね。
 もうこの際、花屋さんが話していた内容はもういいですよね。みなさんも知ってると思いますし、こういう場が設けられている一番の目的って、やっぱりその人の見えなかった一面だと思うんですよ。だから正直に話したほうがいいかなと思って。
 なんかSNSの苦悩とか語ってましたけど、いやいや、大事なところは濁したなって印象です。事実を語ってなかったんですよ。もういっそ打ち明けたほうが楽になれたんじゃないかと思うんですけど。
 最後まで言えないものなんですかね。スッキリしたかったとは思うものじゃないのかなあ。もうあそこまでくると、内定なんてほぼ絶望的だったはずなんですよ。
 それでも最後まで、“私は悪いことなんてできない人間なんです”みたいな強調が酷かったなと。まあ、ほかの人がどう思ったかは知りませんよ。ただ、個人的には花屋さんのことをいろいろと知ってたと部分があるんで、余計に計算高いところが目立って見えただけなんです。
 あの人、パパ活やってたって結構有名みたいなんですよ。あとから知ってびっくりして。でもあれだけのコミュ力あって、人の話も聞ける力があるなら、向いてたんだろうなって思います。
 あと、もともとは花屋って苗字じゃなかったらしいですね。親が離婚して、それまでは一緒に暮らしてた母親の姓を名乗ってたって聞きました。大学に入ってから花屋にしたらしいんですけど、そっちのほうが見栄えがいいって友人に話してたらしいです。
 なんか、花屋の苗字であることをコンプレックに思ってるような感じで最初は言ってたんですけど、むしろ自分から希望して花屋に戻してんのかよって。ちょっと笑えますよね。
 そういう裏の事情とか知っちゃうと、あの人を見る目が変わりますよ。そのためだけに父親の姓に戻るって、なんか執念深さを感じます。いつからあんな人になったんだろう。まあ、最後まで苗字のことも、パパ活のことも花屋さんの口から出ることはなかったんで、やっぱり言いたくなかったことなんだと思いますよ。
 ここで言っちゃいましたけど、匿名なんで。名前を伏せるってこういう意図があったんじゃないですか?
 ……ああ、そうですね、花屋さんの情報はある程度知ってました。こんなに知ってたら不思議に思って当然ですよ。
 ええと、どこからが最初かな。まあ、わかりやすいところでいうと、別の企業の集団面接が一緒だったんです。
 そのあと飲み会に参加したので接点はありました。あの人、いろいろなところで毎回飲み会を主催してたみたいです。ある意味、有名人でしたよ、すぐに飲み会企画する女、みたいな。
 今日、二次でも飲み会してたって聞いて、どこでもやってんだなってちょっと引いたというか。いや、そういう人もいるんで否定したつもりはないです。
 向こうはこっちのこと覚えてもなかったし、それでいいかって思ってたんですけど、覚えてられないくらい飲み会を繰り返してたんだろうなって。だって、集団面接で同じだった人を、普通飲み会に誘います? しかも毎回ですよ? もう二度と会うこともないような人たちの集まりじゃないですか。そこから未来の同僚がいたかもしれないですけど、可能性って低いですよね。
 あと、自分だけ不採用だったりしたときの劣等感ってすごかったと思いますよ。じゃあ、なんで参加したんだって話ですよね。興味があったんですよ。もしかしたら、なにか就活に役立つような情報が手に入るかもしれないと思って。
 情報はありましたね。同じようなことをやってんなって意味での面白い収穫ですけど。
 俺が参加した飲み会で、花屋さんが席を外したタイミングがあったんです。電話がかかってきて、ちょっと出てもいいかってわざわざ周りに確認取ったりしてのが、ちょっと大げさだなと思って見てたんですけど。
 花屋さんいなくなってから、俺の隣に座ってた人たちがちょっとざわついてたんですよ。──お金がなくなってるって。
 その日の飲み会用で集めてたお金が消えたっぽくて。主催っていうか、積極的に声をかけてたのは花屋さんだったんですけど、会計する人は別の人だったらしいです。最終的に、その人が立て替えて払ってましたね。花屋さんは結局戻らなかったと思います。あのときは、誰かが盗んだのかなって思ってたんですけど、今日の話聞いて確信しました。
やっぱり花屋さんだったんだって。
 お金に困ってる印象はなかったんですけどね。まあパパ活で生活はできてたんでしょうけど、何かとお金は必要だったのかなって。それか、単純にお金への執着がすごかったのかも。花屋さん、学園祭を盛り上げたって話を自慢げにしてたんで、ちょっと調べてみたんです。確かに彼女の力があって来場者数は増えたみたいなんですけど、問題もあったらしくて。 
 売上の一部がね、まあ消えてたらしいです。
 犯人はわからなかったみたいですけど、さすがに繋がっちゃいますよね。疑うのは良くないと思うんですけど、花屋さんのことを調べると、なにかと消えたお金の存在がつきまとってくるんですよ。
 ……え、あの場では言いませんよ。変に刺激したくなかったですし、そういう面倒くさい人とは関わらないのが一番じゃないですか。ただ、最後までいい人でいたいのかなとは感じましたね。まあ、無理でしたけど。花屋さんがいい人なら、あの告発文って出なかったと思うんですよ。でも二番目に出たってことは、それなりに恨みを買ってたのかなって推測します。……あ、でもどうなんですかね。やばさで言うと、あの人のほうがすごかったのかな。あ、こっちの話です。多分、まだそちらに伝わってないんじゃないですか。だとしたら、このあとに出てくる人の話を聞いたほうが。それに、今回は花屋さんのことなんで。
 そろそろ推薦……?
 ああ、そんな話もありましたね。他己紹介ですっかり抜けてました。
 推薦したい人、いないです。こんな回答も許されますか。許されないなら、自分っていう回答でもよかったりするんですかね。推薦枠のルールが特に説明されていなかったので、もしかして気付いたのは誰もいなかったんじゃないかって思うんですけど。
ふっ、よかったです。それなら推薦枠はそういうことで。いやあ、なんかあっさりしてて申し訳ないです。
 冷静に分析できてます? よかった、得意分野なんで。花屋さんの他己紹介でよかったです。ほかの人だとここまで話せる内容もなかったですから。
 後悔? してないですね。どうせみんな地獄行きでしょう。