●【21 エピローグ】



・【時間差攻撃 ~岩田直子視点~】


 信太くんと陽菜ちゃんへの説明も終わり、一段落ついて、職員室でオヤツでも食べていると、特別室の彼女に呼び出された。
 大体理由は分かっている。
 だから酷く面倒に感じているんだ。
 あーぁ、オヤツ食いてぇ。
 信太くんと陽菜ちゃんの目の前で、しっかりお姉さんをやった分、今は子供のようにオヤツを食べてぇ。
 仕方ない。
 授業が終わった弥勒の前で子供っぽく振る舞って、いっぱい甘えてやろう、っと。
 私は重い足取りをなんとか進ませ、特別室で待つ、あのアホへ会いに行った。
 顔を見合わせて、開口一番、私は言ってやった。
「本当にいいんですか? あの学校に入学した人間は皆、監視下に入り、死を感知するとこちらの場所に飛ばされる仕組みのことを話さなくて。というか今度、自殺室以外で死んだ人がやって来たら、どう説明する気ですか?」
「いいんだ、いいんだ、信太くんに彼女ができたから、いいんだ、それで」
「……そんな顔して……いいんだじゃなくてっ」
「まだ我慢できる」
 このアホはそう言って唇を噛んだ。
 いやいやもう、
「まだ我慢って、言い方がもう決壊寸前じゃないですかぁ」
 何でこのアホは私の上司なんだろうか。
 全然年下だし、元々の成績だって私より低かったのに。
 まあほっとけない何かがあるんだけどね。
 簡単な言葉で表すならカリスマ性ってヤツだ。
 でもこのアホは自分に言い聞かすように呟くだけで。
「……いいんだ、いいんだ……」
「というかいずれ会うんじゃないんですか、この学校の中にいれば。変装するとか言ってましたけども、多分バレますよ」
「まあ、その時は、その時だなっ」
 そう言ってニッコリ微笑んだアホ。
 いや、
「何希望ある顔しているんですか、それならもうすぐ言いなさいよ」
「いいんだって!」
「……正直になったほうがいいと思うんですけどね……光莉さん」
 何か変な修羅場に巻き込まれそうな気がするんだよな、あーぁ、面倒臭い。
 私と弥勒は修羅場にならないように、ずっと私が好意の弾丸を打ち続けようっと。


・【掃き溜めのズル ~林田健太視点~】


 どえらい目に遭った。
 それがオレの正直な感想だ。
 オレは今、地元に戻って土木作業員になっている。
 まあ普通に勉強して、簡単な高校を卒業して、簡単な東大ってところへ入学してもいいんだけども、今は勉強ということから逃げたい気持ちでいっぱいで。
 今は休暇って感じだ。
 そんなテンションで生活している。
 基本的にあの学校に関わってしまった人間は、死ぬまで監視下に置かれるらしい。
 だから多分もう悪いことはできないだろう。
 悪いことすると楽しいし、楽だから、本当は悪いことを今後もたくさんやっていきたいと思っていたのだが、そういう前向きな気持ちでいたのだが、あんな経験させられたらもう嫌だな。
 マジで地獄だった。
 便器に顔突っ込んで死ぬなんて、苦しすぎた。
 今思い出してもサブイボが出てくる。
 まあこっからは真面目に生きていくしかねぇんだろうな。
 真面目に生きていくって、いつか板につくのかぁ?
 いやそんな自分、全然想像できねぇわ。
 悪いことせず生きていくって、難しすぎじゃねぇ?
 でもやらないといけないんだろうな。
 やらないとヤバイことが起きるんだろうな。
 だって既にあんなヤバイことが起きたんだから、多分もっと、それ以上だろ。
 まあ悪いことはしないけども、ズルくらいならいいだろう。
 そういう何か、ギリギリのラインを図っていこうと思っている。


・【鏡よ鏡 ~成田慎吾視点~】


 復讐だ。
 このオレをあんな目に遭わせた連中に復讐しなければ。
 でもそれは正攻法だ。
 もう誰かの足を引っ張るやり方はしない。
 オレが実力で頂点を獲ってやる。
 めちゃくちゃ金を稼いで、地位と名誉も手に入れて、オレに見合う女も手に入れて、完璧な人生を送ってやる。
 オレは今、別の高校に転校し、世界一の大学へ行くと決心した。
 日本なんて小さい規模の国で収まるオレじゃないから。
 あの屈辱を晴らすまで、オレは死ねない。
 そしていつか、あの学校に、オレのことが必要だと言わせてやるんだ。
 それを思い切り断ってやる! それが今の一番の目標だ!
 鏡は磨くと光るが、鏡に映る人間が汚ければ意味が無い。
 オレは清廉潔白で、美しく、可憐な人間になるんだ。
 鏡よ鏡、今まで偽物でゴメン。
 でももう、オレは、あの頃のオレじゃない。
 変わったんだ。
 生まれ変わったんだ。
 あの日のオレはバラバラに砕け散った。
 さぁ、手に入れよう。
 新しい輝きを。


・【きっと君は幻だ ~菅野奈々江視点~】


 私はこの学校で先生をするために、また新たに勉強を始めた。
 自殺室でそのまま死んだ人間は、すぐにあの学校で先生になれるのは稀で、私はまだ勉強をしないといけないという話になった。
 きっといつか、信太くんがあの学校にやって来て先生をするから、私はそこで待っていられるように……と思っていたら、信太くんはもう私より先に学校で、先生をやっているということを耳にした。
 さらには何だか彼女がいるみたいで、それを知った時、正直愕然とした。
 幻だと思いたかった。
 しかし事実のようで、私は三日三晩泣きはらした。
 一つ、目標は欠けてしまった。
 でも私は先生になると決めた。
 自分の経験を伝えるような、慕われるような先生になりたい、と。
 もしかしたらそれはあの、信太くんのいる学校じゃないかもしれないけども、私はどの学校でも良い先生として人生を全うしたい。
 これはきっと信太くんへの恩返しだ。
 直接信太くんへ恩返しはできないみたいだけども、私が頑張って生きることが恩返しになると信じている。
 ありがとう、信太くん。
 君のおかげで今、私は生きています。
 もし先生になれた暁には、信太くんへ手紙を書こうと思っている、とか思っていた矢先、信太くんから手紙が届いた。
 私のことを気に掛けていたらしい。
 嘘だと思った。
 幻だと思った。
 でもその手紙は間違いなく私の目の前にあって。
 返信は結局すぐしてしまった。
 待たせるのは良くないと思っちゃって。
 少し未練のある文章になっていたことに、保存していたメモ帳を見た時に気付いたけども、まあいいか。
 それで心が動いてくれれば、なんて、淡い期待。
 分かってる。
 そんなことは無いって。
 もうこれでおしまい。
 全ては幻だった。
 それでいい。
 私はこの幻だけで生きていけるから。
 

・【スクランブル交差点 ~篠塚琢磨視点~】


 別の高校へ転校したボクは、今、その高校で生物委員会を担当している。
 高校で飼っている生物の世話をするため、休日は高校に出掛ける。
 友達が「よくやるねぇ」と笑っているが、罪滅ぼしじゃないけども、ボクは積極的に世話をしている。
 最初はボクのことに怯えていたウサギだったけども、今は手渡ししたニンジンを食べてくれるようになった。
 金魚も何だかボクのことを認識してくれているようで、何だか嬉しい。
 そんなある日、ボクと同じ生物委員会の女子が、休日もやって来るようになった。
 基本的に生物委員会で稼働しているのは、ボクだけだったので、やって来てくれるだけで正直驚いてしまった。
 さらには(当たり前だけども)一緒に世話を手伝ってくれて、ウサギ小屋の掃除も面倒がらずにやってくれて。
 そこからボクはその子と仲良くなった。
 ボクが人間と、いや生物と仲良くするなんて思ってもいなかった。
 ボクはずっと一人で、それを見返すためにあの学校へ入学して、それでも一人で。
 だから野良猫に爆竹を投げつけ遊んでいた。
 全てはただの憂さ晴らしだ。
 そんな遊びをしていれば徳も下がるし、勉強の成績も下がるわけで。
 遊び惚けていたボクは結局自殺室行きとなった。
 そこで出会った深山陽菜と田中信太に、ボクは心を動かされた。
 二人の会話を聞いて目覚めたんだ。
 もしただ自殺室で自殺するだけなら、ボクは多分変われていなかったと思う。
 世界に戻ってきても、腐って、また同じようなことを繰り返していたと思う。
 でもボクは変わった。
 いや、変わらせてもらったんだ。
 だからこの命を大切に、出来ればこの命が誰かの命になれるように。
 ウサギを可愛がりながら、その子と二人で他愛も無い会話をする。
 こんな日々が一生続くといいな。
 いや願望じゃない。
 続かせるんだ。
 それにはボクの努力が必要だ。
 ボクは前進し続ける。


・【甘い甘い香水 ~赤井颯来視点~】


 ぶっちゃけ全部嘘だし。
 全部全部嘘で、狂いたくなるくらいの嘘で、反吐が出る。
 私はすぐに地元へ戻った。
 クソだったと言いふらして、今はまたあの頃の仲間と一緒に遊んでいる。
 そんなある日、仲間の中の一人である橋本が「また蹂躙プレイしよう」と言い出した。
 一瞬ゾッとしたし、止めようと思ったけども、全部嘘だということを思い出した。
 あんな学校自体も嘘みたいなもんだし、自殺室も嘘だったし、そしてきっと私のことをずっと監視しているというのも嘘だ。
 だってそんな労力、いなくなった人間にまで掛けるはずないから。
 だから私たちはまた”蹂躙プレイ”を始めることにした。
 まず誰を狙うか。
 ターゲットを捕まえるのは勿論私の役目。
 何故なら私だけ成功率がパないから。
 仲間たちも別に容姿が悪いわけじゃないんだけども、結局私ほどじゃない。
 私ほど頭も回らないし、機転が利かないし、こういうことがちゃんとデキるのは私。
 中央通りで品定めする。
 やっぱり陰キャが面白い。
 記念すべき再開一発目なので、爆笑したい。
 というわけで良い陰キャを見つけたので、話し掛けると最初は逃げ腰、でもだんだん私の魅力にハマっていったみたいで、ついてくる流れに。
 楽しい。
 やっぱこれめっちゃ楽しい。
 誘いこんでバカやる遊びは最高の娯楽。
 そう思いながら、アパートの一室の前まで来た時、何か違和感を抱いた。
 何だか部屋の中からやけに甘い香りがする。
 でもまあ仲間がアロマの準備でもしてんのかな、と思いつつ、玄関の扉を開き、中に入ると、誘い込んだはずの陰キャは中に入ってこないで、扉が閉まった。
 ギリギリで逃げやがったのか、と思いながら、玄関の扉を開き、追いかけようとしたんだけども、玄関の扉が全然開かない。
 まるで錠が閉まったように。
 何なんだと思いながら振り返ると、私の目の前には、あの時の、目玉と腕の無いゾンビのような人間たちが立っていた。
 私は背筋が凍った、否、凍っている場合じゃない、早く外に出ないと、でも玄関の扉は一向に開かない。
 それなら窓から外に出ないと。
 そう思ってそのゾンビのような人間たちをかわして、部屋の中に入ると、そこには既にそのゾンビのような人間たちに舐め尽くされた仲間たちが倒れていた。
 硫酸でただれた皮膚、それなのに何故か香りだけは甘くて。
 この瞬間、私はとあることに気付いた。
 あっ、私、ここで本当に死ぬんだ。


・【飛び込み台 ~福村俊太視点~】


 ユースケは学校関係無いので帰ってこない。
 でもボクは戻ってきた。
 ユースケに、もらった命は、また戻ってきたのだ。
 あの時ボクは、着水する直前に何だか天国に登るような気持ちになったことを覚えている。
 苦しいことなんて何も無くて、むしろ全てから解放されたような高揚感。
 気付いたらボクはベッドの上で寝ていて。
 全てが無かったことになっていた。
 このままユースケのこともなかったことになっていればと思ったけども、それはやっぱりダメで。
 いや、ユースケのことをなかったことにしてはいけないんだ。
 そういうことがあったということを肝に銘じて、ボクは生きていかなければいけない。
 もしあの時、ボクが橋本たちに強く出ていられれば。
 ユースケに心配されないボクでいれたら。
 もうボクは、誰にも心配されないように生きていくことを誓った。
 自分で何でもできるようになって、誰の迷惑も掛けずに。
 そしてできればボクは誰かを助けるような人間になりたい。
 だからこそボクは、飛び込むんだ。
 人間の渦に飛び込んで、闘おうと思うんだ。
 もう逃げてばかりの自分はいらない。
 目線は常に未来を据えて、闘志むき出しで走り続けるんだ。
 昔のボクのように困っている人を助けたい。
 だからこそボクはこの学校で先生をしないかという打診を断って、一般的な人間の渦へ行く。
 そこで地域レベルから変えていきたいんだ。
 この学校での生活は嫌なことばかりで、結局自殺室なんて経験をしてしまったけども……いやその経験があったからこそ、自殺室であの二人と逢えたからこそ。
 その全てを糧に、僕は歩み続けるんだ。
 

・【無視できなくて ~楠田大輔視点~】


 終わってみれば助長した立場。
 主犯じゃないけども、当事者からしたら関係無い話で。
 オレはその後、木島光莉と対面した。
 そこで木島光莉からは許された。
 許されてしまった。
 許されないほうが楽だったかもしれない。
 いや、楽なほうに逃げてどうするんだ。
 罪は消えたわけではないけども、表面上は確かに無くなって、何も無くなったオレは新たなオレを構築しなければなくなった。
 新しいオレはもうイジメに流されるような人間にはなりたくない。
 簡単に周りに流されるような人間にはなりたくない。
 悪いことは悪いこととして、止められるような、そんな強い人間になりたい。
 オレは今、この学校の下部組織で働いている。
 自殺室を経験すれば、もうこれ以上の勉強は先生になる以外なら大体しなくていいらしい。
 元々この学校に入学できただけで、日本一の大学を卒業したと同じくらいの学力があるから。
 でもオレは勉強をやめなかった。
 もっと知識がほしい。
 もっと正しい知識がほしい。
 多分オレは勉強をやめない。
 勉強はオレのライフワークだ。
 能力を上げられるのならば、オレは全ての能力をマックスにしたい。
 マックスにしたところで、本当に大切な、優しい人間の項目はマイナスだろうけども、それがプラスになるような何かを、できれば成し遂げたい。
 仕事の関係上、たまに木島光莉を見かけることがある。
 その度に負い目を感じるが、その負い目を感じる気持ちが重要だと思う。
 その気持ちがあるからこそ、オレはまだまだ頑張れると思う。
 悔いを忘れず、オレは今日も生きていく。


・【動き出した古時計 ~溝渕弥勒視点~】


 最近、直子がウザい。
 いやまあそんなハッキリと人に対してウザいと考えちゃダメなんだけども。
 自殺室で一緒にいた時もまあまあその節はあったけども、この学校で先生をし始めてから特にだ。
 でも正直理由は分かっているつもりだ。
 信太と陽菜の関係を見てちゃんと気付いた。
 直子は俺のことが好きなんだ。
 だからなにかと絡んでくるんだ。
 じゃあ俺はどうだろうか。
 直子のことは、別に嫌いじゃないし、むしろ、だ。
 というかこのまま気付かないフリをしている大人もダサいと思う。
 直子はウザいし、俺はダサい。
 よくよく考えれば、これ以上お似合いのカップルはいないな。
 仕方ない。
 今日のランチで、ディナーでも誘うか。
 その時にハッキリと言うべきかもしれない。
 ……いや何か俺が追いかけているみたいになるのは癪だな。
 と、こじらせているところが俺のダメなところなんだろうな。
 あぁ、もういい、こんな自分はもううんざりだ。
 俺だって変わってやるんだ。
 俺から直子に言ってやるんだ。
 信太と陽菜を見ていると、何だかこっちのほうもやる気が出てくる。
 アイツらはちょっとイチャつきすぎだからな。
 大人もイチャつくんだぞ、ということを見せてやらなければならないな。
 いや俺ちょっと変なテンションになってるな。
 らしくないかもしれないな。
 いやいや、らしいとからしくないとか考える年齢じゃないだろ。
 俺はもうやってやるんだ、言ってやるんだ。
 直子、待たせてゴメンって。


・【いつも最高な日々 ~深山陽菜視点~】


 上司の狩谷日向さんがアタシは結構苦手。
 アタシ自身は何かされるわけじゃないんだけども、信太が日向さんからちょっかい出されていて、正直ヤキモチする。
 信太は信太でまんざらでもないというか、何だか不思議みたいな顔をして、こっちに関してはイライラする。
 いや狩谷日向さんにも正直もうイライラが止まらない!
 何なのアイツ!
 何でいっつも特別室にいるのっ?
 アタシと年齢変わんないみたいだし、何であんな偉そうなのっ?
 それに信太には何か甘々だし! めちゃくちゃ怪しい!
 あー! まさかアタシが他人に嫉妬するなんてなぁ!
 そういうキャラじゃないと自分では思っていたのになぁ!
 でもそれはあの狩谷日向さんが悪い!
 いや違う!
 狩谷日向が悪い!
 よしっ! 心の中では呼び捨てでいく! 決定だ!
 クソ日向女!
 うんっ! これは言いすぎだ!
 いつかとっさに出そうだから、ここは狩谷日向程度でやめておく!
 いやでも!
 とっさに言いたい!
 というか! とっさだと思わせて言いたい!
 何なんだよ! 信太はアタシのモノなんだよ!
 急に現れたポッと出に信太をやらないんだからな!
 信太はずっとずっとアタシのモノなんだからなぁぁぁああああああああああああ!
 ……まあ別に信太と何しているわけじゃないけどもさ……信太は奥手すぎぃぃいいいいいいいいいいいい!
 もう襲っちゃおうかなぁっ! 襲っちゃってもいいのかなぁぁあぁああああああ!
 あぁぁぁぁあああああああああああああああああああ!
 らしくない! らしくない!
 よしっ!
 襲う!
 襲うし、狩谷日向にはクソ日向女って言う!


・【陰と陽 ~狩谷日向視点~】


 狩谷さん?
 ……あぁ、私か、私だ、私。
 いっけない、自分から言い出した偽名なのに忘れそうになる。危なーい。
 木島光莉は死んで、狩谷日向になったんだった。
 バージョンアップしたんだった。
 ちゃんと自分の設定、自分で反芻しなきゃ。
 あー、それにしても、信太くんは可愛いなぁ、大好きだなぁ。
 でも多分陽菜さんといろいろしちゃっているんだろうなぁ……羨ましい……でもあれかな、あれなのかな。
 過去に悪いことした人はガッツリ監視されるらしいけども、私のような善良なほうだった人たちはそこまで監視していないらしいから、略奪愛くらいなら大丈夫かな?
 いやまあ学校内部でやったら、監視もクソも無いけども。
 でもよくよく考えたら略奪愛くらい、全然大丈夫では?
 信太くん、大好きだなぁ。
 私は信太くんのことが大好きだなぁ。
 どうしよう。
 もう自分で作った設定壊そうかな。
 狩谷日向なんていないし。
 そんなヤツいないし。
 木島光莉として再デビューしようかな。
 そうしたら信太くんが目を輝かせて私のこと見てくれるかも!
 うん!
 いいね!
 この作戦いいね!
 ……いやいや、ダメだ、ダメだ、私は信太くんが幸せであればそれでいいんだ……あんまり出過ぎた真似は良くない。
 私はもう狩谷日向として生きていくんだ。
 それでいい。
 それでいい。
 って、変わるべきなんじゃないかな。
 やっぱり私も変わるべきなんじゃないかな。
 結構みんな変わっていっているという情報も入ってきてるし、私だって変わるべきじゃないか。
 狩谷日向ってやっぱり改悪だったんじゃないの?
 もっと改善するべきなんじゃないの?
 う~、どうしよう、とりあえず直子さんに相談しようっと。


・【違和感 ~田中信太視点~】


 あれ?
 狩谷日向さんって、光莉?
 そう思うことが毎日あって。
 毎日あったら、もはやそうなのでは?
 違和感というか、正直確信と言うか。
 核心と言ってもいいと思う。
 でも何で別人のフリをしているのだろうか。
 そこは触れちゃいけないブラックボックスなのかな。
 触れちゃいけないブラックボックス。
 もしそこに、触れてしまったら僕はどうなるのだろうか。
 いや、また考え癖が出ている。
 良くない、良くない。
 そんなことより、今自分がすべきことをやる。
 ただそれだけだ。
 今は先生として邁進しなければ。
 正直陽菜との恋愛とかも後にして、今やるべきことをしなければ。
 せっかく生まれ変わるチャンスを与えてもらったんだから、僕はもっと変わるんだ。
 この世界をもっとより良くするため、僕はもっと上を見る……いや、横も気になるけども。

(了)