・【13 交差点】


 あれから陽菜は、主に僕と本当によく会話するようになった。
 時に僕を叩いてくるようなスキンシップをしてきて、正直ウザったいけども、やっぱりどこか懐かしくて。
 まるで光莉みたいに感じることが多々あるから。
 また陽菜は一気に溝渕さんを質問攻めして、直子さんの話とかも聞きだしていた。
 距離の詰め方が早いといった感じだ。
 溝渕さんは一瞬たじろいたけども、すぐにいつもの冷静な、優しい喋り方になって、全部教えてあげていた。
 聞き終えた陽菜は「いろんな人間!」とだけ一言叫んだ。
 いや集約しすぎだろと思った。
 そんなことを思い返して反芻していたその時だった。
 そう、生徒は突然やって来る。
 一人の男子生徒が入ってきた。
 自殺室の中は一変した。
 例えるなら、青信号になったスクランブル交差点。
 人間の幻が無数に出現し、この空間を歩いていき、壁の近くに行くと消えていく。
 そしてその人間は皆、男子生徒のことを一瞥して通り過ぎていく。
 しかもただ一瞥するだけではなく、必ずどこか蔑視を含んだ目線や行動だ。
 その男子生徒へ唾を吐く幻もいた。
 歩きタバコを投げつけるような幻もいる。
 そしてその唾やタバコと言った放たれた物体だけは実体化し、その男子生徒に当たっていた。
 入ってきたと同時に投げつけられたタバコを喰らったその男子生徒は、熱がっていたので間違いない。
 ちなみにそのタバコは地面に落ちて数秒したら消えていく。
 全ては一過性の空間。
 でもそういう人達が永遠現れては消えるので、一過性が断続的で、大きな括りで見れば無限に続いていた。
《何これ酷い! 素直に死なせてやれよ!》
 陽菜が大きな声を僕の耳元で叫んだので、頭痛がした。
 痛くなっている僕を尻目に溝渕さんは陽菜に改めて説明した。
《この自殺室という空間は基本的に自分が一番死にたくない状況で死なないといけないんだ。だからこの空間はあの男子生徒が作り出したモノなんだ》
 それに対して陽菜はムッとしながら、
《何それめちゃくちゃイジワルじゃん! 何でそんな空間がこの学校にはあるのっ? 馬鹿じゃねぇのっ?》
 やっぱり陽菜にちゃんと考える能力は備わっている。
 ちゃんと僕が考えたような足跡を辿っている。
 陽菜は発言が粗暴だが、決して馬鹿ではないような気がする、と思ったところで陽菜が、
《アタシ! 助けるから!》
 そう言うと、陽菜はその男子生徒の前に姿を勝手に現してしまった。
 僕たちの姿は基本自殺室に入ってきた人には見えないのだが、念じることにより、姿を現し、声も届くようになる。
 でも最初は見守り、死ねなかった場合、死ねるように手伝うことが僕たちの役目だということにしている。
 それなのに、陽菜は勝手に姿を現してしまった。
 これじゃ死ねるものも死ねないのではないか。
 姿を現す前の僕たちはどこか体に不思議な膜が掛かっているのだが、姿を現すと今の陽菜のようにクッキリと輪郭が出現する。
「また人がっ! 今度は真ん前に!」
 彼は怯えた。
 当たり前だ、歩いていく幻と全く同じような感じなんだから。
「アタシは深山陽菜! 安心して! アンタの味方だから!」
 陽菜は胸を叩きながら、堂々とそう言うと、怯えている彼は小さく陽菜を指差しながら、
「えっ……深山陽菜って自殺室行きになった元Aクラスの……」
 元Aクラス……陽菜はAクラスだったのか。
 考える能力があることは分かったけども、まさかそこまで上位だとは思わなかった。
 何故ならこの学校は学年ごとにSを頂点に、A、B、C、と下がっていき、Eが最下層。
 つまりAは十分能力が高いほうとなる。
 何だか少し感心していると陽菜はまたいつもの通り大声で、
「偉い! よく知ってんなぁ! 飴でもあったら飴あげたい! それか寝る前になると美味しく感じる白湯!」
「は、はぁ……」
 電波なことを口走る深山陽菜にヒイている彼。
 そりゃそうだ、急に変なこと言われたら誰だってああなってしまう。
 明確にボケのつもりで言っていることが分かっていなければ、本当にただの変人だ。
 陽菜は彼に手を差し伸べながら、こう言った。
「アンタ死にたくないんでしょ! だったらアタシがずっと守ってあげるから!」
 陽菜の手を掴もうとした彼。
 しかし案の定掴めず、それに驚いたのは彼よりも陽菜のほうだった。
「何か透けたぁぁぁあああああああああ! 大丈夫っ? アタシの服とか透けてないっ?」
 そんな訳の分からないことを言う陽菜に明らかに困惑している彼は、
「大丈夫ですけども、あの、触れられないんですね。というか、あの、何で深山陽菜はこんなところにいるんですか?」
 それに対して陽菜はなんと答えるかなと思っていると、少し悩んでから、こう言った。
「全然分かんない! いやどういうことっ?」
 これじゃダメだ。
 一度、誰も来てない時に溝渕さんと全部説明したのに、完全に飛んでしまっている。
 とにかく僕は陽菜に助けられないことだけ伝える。
《ダメなんだよ、陽菜。自殺しなければ、何かに体を操られて自殺のような形で結局その人は死ぬんだよ》
「えっ? そうなのっ? じゃあ出てきた意味ねぇーっ!」
《そうだよ、意味無いんだよ。だから僕たちがすることは安らかに死ねるよう自殺をサポートするだけ・・・》
 と言ったところで、怯えていた彼が陽菜に対してこう言った。
「あっ、あの、誰と会話しているん、ですか?」
 そうだ、僕の姿は見えていないから、僕の声もこの彼には聞こえていない。
 一旦、念じて姿を現さないといけないんだけども、陽菜は喋ることを止めない。
「でもそれは今までそうだったって話だろっ?」
 今、念じている。
「やれば何か変われるかもしれないじゃん!」
 今、念じているってのに。
「やらずにそうだと決めてしまうことはおかしいだろっ!」
 邪魔だよ。
「アタシは全てに対して全力を尽くしたいんだよ!」
 念じるのに邪魔だよ。
「今までのパターンから考えるんじゃなくて新しく、今までやったことも全て試すんだよ!」
 脳に陽菜の邪魔が入る。
「なぁ! アタシの言っていることおかしいかっ? 試さずにはいられないだろ! こんな空間じゃよぉ!」
 僕はまず姿を現した。
 言いたい。
 早くこの言葉を言いたかった。
 ぶつけたかった。
 陽菜に。
「陽菜! 君は元Aクラスらしいけども、やっても変わらないから死のうとしたんだろ!」
 それに対して少したじろいだ陽菜。
 陽菜の勢いは弱まり、少し俯きがちに、
「……! 何だよ、急に……まずはこの男子生徒からだろ……」
 いやそんなことはどうでもいい。
 彼のことは一回無視する。
 僕は言いたいことを言い切るんだ。
「陽菜はこの自殺室に逃げてきた! それは事実だ! どんなに明るく振る舞っても君は僕と、そして溝渕さんと同じだ!」
 静かに黙っている溝渕さん。
 溝渕さんのことも巻き込んでしまったけども気にしない。
 全部言い切ってやるんだ。
「もう諦めるんだよ! 全て諦めるんだ! どんなに今、頑張ったって過去は変わらない!」
 その言葉に、急に闘志を燃やした目をした陽菜。
 何なんだ、まあどんな言葉がきたところで僕は止まらないけども。
「でも変わっただろうがぁっ!」
 何、意味の分からないことを言っているんだ。
 僕は続ける。
「何がっ! 何も変わっていないよっ!」
「そうだな! 変わっていないなぁっ!」
 何だよコイツ、本当に意味分かんない。
 電波すぎ、やっぱり前言撤回、コイツはバカだ。
 話にならないレベルのバカだ。
 よくAクラスになんていられたな。
 正直ちょっとバカすぎるので、これ以上言うのは止めようとしたその時だった。
 陽菜は叫んだ。
「変わらなかったな! この自殺室はっ! アタシが入っても変わらなかったな!」
 ん、どういうことだ?
 陽菜はこの勢いのまま喋り続ける。
「だから変わったんだろ! 自殺室が変わらないということは変わったってことだろっ? 死ぬ運命から生きる運命に変わったんだろっ? 何で自分が生きているのか考えろよ! 誰かを変えるためじゃねぇのかよ!」
 誰かを変えるために僕は死ななかった?
 死ぬ運命から生きる運命に変わったことにより、誰かを変える?
 何だその考え方。
 でもふと思い浮かべてしまった。
 奈々江さんのことだ。
 奈々江さんは僕に会ったことによって、きちんと自殺することができた、ところもあると思う。
 いやでも僕がいなければ本物の幻に出会ったのでは、と。
 いやいやそれはただの仮定だ。
 奈々江さんは僕の幻も見ずに、死ねない死ねないと言って、最後は溝渕さんに無理やり薬を飲まされて死んだのかもしれない。
 そうしたら溝渕さんは心に深い傷を負うだろうし、奈々江さんも悔いの残る死になってしまったのではないか。
 変えられるのか?
 僕は誰かの運命を変えられるのか?
 そんな自問自答をし始めたその時、彼に蔑視する通行人が何かを投げ始めた。
 それは爆竹とライター。
 でも火のついていない爆竹だ。
 つまりライターで自分で火をつけ、爆竹で自殺しないといけない、ということか……!
 なんたる悲惨! 今まで見た中でも特に悲惨な死に方だ……これを、言って、手伝う……?
 こんな自殺を……手伝わないといけないのか……いやいやいや、こんなの、こんなの……キツすぎる……しかし、しかしだ、今までの経験上、この彼の過去の行ないがそうさせていることは明瞭だ。
 僕は溝渕さんのように、過去にそういうことを行なっただろうと指摘しようとしたら、それよりも早く陽菜が口を開いた。
「こんな死に方は絶対させない! 仮に死なないとダメだとしても、もっと楽な死に方があるはず! 考えるぞ! 信太!」
 いやでも考えたところで、それは変えられないし、むしろ彼に問いかけないと、と思っていると、今度は彼が喋りだした。
「何で深山陽菜に、田中信太がここにいるんだよ。貴方たちはなんで生きているんですか?」
 この人は僕のことも知っているんだ。
 いやそんなことはどうでもいい。
 僕は陽菜に喋る隙を与えないように、すぐさま喋りだした。
「この自殺室は死にたい人は死ねなくて、生きたい人は自殺しないといけない部屋なんだ。僕と陽菜は死にたくてこの部屋に入ったから死ねないんだ」
 彼は少し混乱しているように目を泳がせながら、
「何で死にたいんだ、深山陽菜も田中信太も上位のクラスだったはず。死にたい理由なんてないだろう」
 僕はどう説明すればいいか迷っていると、陽菜は快活に言い切った。
「いろいろあるんだよ! 人間はっ!」
 確かにその通りだけども。
 そしてそれ以上無い答えだ。
 彼も何だか勢いに圧倒されて、納得してくれたみたいだ。
 さて、次は死ぬシチュエーションは自分の過去の行ないからきているということを伝えないと。
「君、この死ぬ時の状況は自分の過去の行ないからきていることが多いんだ。君は何かこの状況に見覚えは無いか?」
 と言ったところで、その言葉にすぐ反応したのは陽菜のほうだった。
「こんな状況普通無いだろ! 寝る前になると美味しく感じる白湯くらい無いだろ! 所詮白湯はお湯だから!」
「いや陽菜、君はいいんだ、黙っていてくれ。正直今は邪魔だよ」
「いやでも白湯って何でただのお湯のくせに、新しい呼び名で出現してくるんだっ?」
「白湯の話はどうでもいいんだ、それよりも僕は彼と会話しているんだ」
 すると陽菜は首を激しく横に振って、こう言った。
「アタシとも会話しろよ! 会話を楽しもうぜ!」
「いやそんな悠長な時間は無いって前に説明しただろ。時間が経つと、彼は勝手に体が動いて、最も苦しむような死に方で死んでしまうんだよ。だから早く済ませたほうがいいんだって」
 このタイミングで陽菜は突然激高し、
「早く済ませたほうがいいって何だよ! 死ぬんだぞ! 人が一人死ぬんだぞ! それに対してそんな言い方はねぇだろ!」
「いや言い方が悪かったのは謝るけども、早くしないとダメなんだって」
 そう言うと、なんとか少し収まった陽菜は一息ついてから、
「とにかく早く済ますとかお手洗いじゃないんだぞ、夜寝る前のお手洗いじゃないんだぞ。白湯飲んだ分を出さないと、みたいなお手洗いじゃないんだぞ」
「知っているから。いやもうちょっと陽菜のほうも遊び始めているじゃん。人が死ぬのにそのテンションは良くないと思うよ」
「これはあれだろ。リズムを作っているだけだろ。ツッコミはいいけども、揚げ足はとるな」
 自分が言われたくない流れになったら揚げ足って……もう本当に面倒だな、陽菜は。
 でも時折、陽菜の言葉が刺さることがあって。
 いやそれよりも今は彼のことだ。
 そんな反芻はいつでもできる。
 今はとにかく彼のことをしなければ。
 彼のために。
 せめて彼が優しく死ねるように、状況を変えるために。
「で、君にさっき言った通りなんだけども、この状況に見覚えはあるかい?」
 彼は青ざめ、ぶるぶる震えているが、うんともすんとも言わない。
 でも分かる。
 これは完全に図星だ。
 この状況に見覚えがあるんだ。
 むしろ多分やっていた側の人間だ。
 僕はもう一押しすることにした。
「長くこの空間に居続けると、君の心の中が透けて見えるんだ。君はこの状況になったことがあるね」
 と言ったところで陽菜がまた喋りだしてしまった。
「長くいるとそんな神様みたいな特殊能力身に着くのっ? すげぇっ! というかこの状況になったことがあるということは被害者じゃん! 可哀相!」
 もうハッキリ言うか。
 時間だってそんなに長くは無いはずだ。
「そうじゃないんだ、陽菜。この状況は自分がやられた状況が出現するのではなくて、自分が行なった状況が現れるんだ。その自分が行なった行動こそ、自分はやられたくない、屈辱的な行動なんだ。そんな屈辱的な死に方をしなければならない場所が、この自殺室なんだ」
 その言葉に納得したのは、彼のほうだった。
 陽菜は硬直してしまったが、まあある意味硬まってくれたほうが今は楽だ。
 このまま黙っていてほしいな。
 彼は喋りだした。
「ハハッ、知られているんだ……本当に……ボクが、野良猫を爆竹で殺していたことが……」
 その台詞にハッと目を覚ました陽菜は叫んだ。
「アンタぁっ! そんなことしてたのかよぉぉぉおおおおおおおお?」
 陽菜が彼へ向かって激怒した。
 彼はどこか自嘲気味にヘラヘラしながら喋る。
「いや、遊びなんだ……こんなん遊びだったんだ……憂さ晴らしの遊び……でも……でも……ハハッ、なるほど、自分に返ってくるというわけだね……」
 僕はできるだけ冷静に、溝渕さんのように喋る。
「その通りです。この空間は今までの自分が全て返ってくる部屋なんです」
 それに対して彼は震えながら、こう言った。
「確かに、確かに、こんな野良猫のような死に方は嫌だな……」
 と言ったところで、陽菜が力強く怒鳴り声を上げた。
「バカ野郎! 野良猫は本来こんな死に方しねぇんだよぉっ!」
 真正面から怒られた彼は唇を震わせながら、
「いや分かってる、分かってるけど……」
 陽菜は手から血が出そうになるくらいに拳を握りながら、
「クソ! こんなクソ野郎は助けられねぇよ! 勝手に死んじまえ!」
 陽菜は感情的だ。
 感情的にすぐにカッとなるし、行動するし。
 でも理念はよく分かった。
 そして、言葉が、やけに響いた。
 反芻はあとでもいいと考えたはずなのに、やっぱり考えてしまう。
 自分のことだから。
 誰かを変えるために死ぬ運命から生きる運命に変わったのか。
 でも誰を変えるんだ。
 奈々江さんだけを変えるため?
 じゃあもうお役御免では?
 これ以上何をどうすればいいんだ。
 この自殺室にはどんな秘密が隠されているんだ。
 ただの見世物小屋ではないのか?
「あの、どうやって、死ねば、いいかな、ハハッ」
 掠れ笑いの彼が僕にすがってきた。
 過去にどんなことをしてきたとしても、できるだけ安らかに死ねる方法を僕は考えたいと、今はそう思っている。
 そうしたほうが自分の心が穏やかになるだけのことかもしれないけども、今はそう強く願っている。
 だから、
「とにかく爆竹の量を増やして下さい。一発の火薬の量を増やせば楽に死ねるはずです」
 その僕の台詞に対して、陽菜は烈火のごとく否定する。
「何楽に死ねる方法を教えてるんだよぉっ! こんなヤツ! 苦しんで死ねばいいんだよぉっ!」
「ダメだよ。そんなこと。だってつらいじゃないか」
 それに対して陽菜は僕を睨みながら、
「何だよ、つらいのはコイツじゃなくて、信太、オマエだな! 目の前で苦しんで死なれることがつらいんじゃないかぁっ?」
 陽菜の言葉は時折胸に重たく響く。
 苦しくて。
 苦しくて。
 スカッとする。
 言われたかった。
 ずっとこう言われたかったんだ、僕は。
 一瞬溝渕さんのほうを見ると、溝渕さんにもこの陽菜の言葉が響いているような気がした。
 でもそれは僕のように苦しいといった感じでは無くて、僕のように清々しいといった感じだった。
 陽菜はすぐさま言う。
「目を泳がせずに、アタシのほうをハッキリ見ろよ。信太が苦しいんだよ。目の前で苦しんで死なれたら」
 そうだ。
 その通りだ。
 苦しんで死なれたら、もっと死にたくなるから。
 でも。
 でもだ。
「陽菜、目の前で苦しんで死なれたら苦しいんだよ」
 当たり前の、バカみたいな言葉が口から出た。
 それを聞いた陽菜は少しバカにしたように笑ってから、こう言った。
「何かやっと本心聞けた気がしたな。そうだよな、苦しんで死なれたら苦しいもんな」
「そうだよ。もっと死にたく思って、なおさら死ねなくなるんだよ。絶対にそう」
「じゃあ楽に死ねる方法をやってやるか! こっちが苦しくなったら嫌だもんな!」
 そう、バカな言葉を言い合った僕と陽菜。
 何だか心が一つになれたような気がした。
 言われたくないことを言われてスカッとしたし、バカみたいなことを堂々と言えてスカッとしたし。
 何だか悩むことも少しバカらしくなった。
 思ったことは全部言えばいい。
 陽菜ならきっと受け止めてくれるだろうし、溝渕さんだって何言ってもいいと最初に言ってくれていた。
 勝手に蓋を閉じていたのは、結局僕だけだ。
 悩んでいたら絶対死ねないだろうし、悩まず生きていこう。
 陽菜は場を整えるかのように大きな柏手を一発鳴らしてこう言った。
「よしっ! クズ! 楽に死ねる方法やるぞ!」
 そして彼は爆竹を集めた。
 時には「爆竹を下さい」と通行人に物乞いして、プライドもクソも無い状態で集め、そして死んでいった。
 大きな爆発だった。
 多分苦しまずに死ねただろう。
 すぐに空間は風化し、元の真っ白い空間に戻った。
「でもさぁ! あんな連中ばっかなのかなぁ! 腹立つなぁ! なぁっ!」
 なぁっ、は、僕への同意だったな。
 じゃあ、
「そうだね。そういう連中は多いよ。本当に嫌だよ。でもそうじゃない人もたまにいるんだよ」
「そうじゃない人だけならいいな! いやでもいい人は自殺してほしくないから、やっぱりあんな連中だけでいいのかもな! ハハッ!」
 陽菜、君は何だか、僕にとっての……と何か言葉が出そうになったタイミングで陽菜が、
「まあまた次のヤツが来るまで楽しげに生きていくか! 会話しようぜ! 会話!」
 出そうになった言葉が何だったのか、あとから思い出そうにも思い出せなかった。
 でも、そんなことよりも、今は陽菜と会話していたほうが、気が紛れるんだ。