実際、彼等は肉を分けてくれる。そして、オレは、ボランティア活動でもらうパンを彼等に渡す。これまで、そうやって補い合ってきた。
オレは、自分の家族の事情を涙ながらに話すと、ホームレスのおっさんが靴下を脱ぎだした。臭い靴下の中から二千円札を取り出すと手渡してくれた。意外な展開だった。
『事情は分かったよ。坊主、これをおまえに貸してやるから黙って受け取れ』
耐え難いような足の臭いの染み付いた小汚いお札を握り締めたオレは、どうしようもないような感情に押し潰されそうになり涙をこぼしていた。有り難いと思うべきなのか恥ずかしいと思うべきなのか分からない。オレは震えていた。そんなオレを、おっさんはオレを励まそうとしていた。
『いつか、大人になったら返せよ。とりあえず、その金で肉を買って元気を出せ! いいか、二度と公園で殺生するなよ。大人が見たら、おまえはイカレた野郎だと思うぞ。矯正施設に入れられちまうかもしれないぞ』
ホームレスのおっさんは太い指でゴワッとオレの頭を撫でていた。その声がジンッと腹に響いて鼻先がツンと痛くなるような切なさを覚えた。
『いいな。坊主、立派な大人になれよ……。オレみたいな惨めな奴にはなるなよ』
社会から転落したホームレスの眼差し優しかった。なぜ、こんなところにいるのか分からないけれど彼は自分を恥じているような表情で言う。
『オレみたいになったらおしまいだぞ。警察に捕まるなよ』
彼に対して深々と頭を下げるとアヒルを握り締めたまま逃げるように走り去った。それ以後、何度か公園に立ち寄り彼を探してみたけれど、出会えなかった。
ホームレスのおかげで鶏の胸肉やジュースやプリンを購入する事ができた。誕生日バーティーは、いつもより少し豪華になってホッとした。しかし、しばらくすると、妹は、春休み、友達と一緒にアニメ映画を観に行きたいと言い出した。お金がないので無理だと母さんが言うと妹はシクシクと泣き出した。映画代、そこまでの往復の電車賃、そして、ランチ代。我が家は、それさえも捻出できない。それが、現実なのだ。
傍から見ていたオレは情けなくなって目尻に熱いものがこみあげてきた。
オレが高校生になれば夜遅くまでバイトをする事が出来る。そしたら、あんなふうに妹を泣かせずに済む。でも、今はどうしようもないのだ。
『チクショー! 早く大人になりてぇ!』
そう思いながら登校すると、なぜか机の中に手作りのクッキーが入っていた。ラッピングされた包みを手にすると手書きの小さなカードが添えられていた。
『山田君。わたしの叔母が焼きました。どうか、受け取ってください』
書店のポップみたいな丸っこい書体だ。同じクラスの高円さんの文字だと気付いた。
オレは、自分の家族の事情を涙ながらに話すと、ホームレスのおっさんが靴下を脱ぎだした。臭い靴下の中から二千円札を取り出すと手渡してくれた。意外な展開だった。
『事情は分かったよ。坊主、これをおまえに貸してやるから黙って受け取れ』
耐え難いような足の臭いの染み付いた小汚いお札を握り締めたオレは、どうしようもないような感情に押し潰されそうになり涙をこぼしていた。有り難いと思うべきなのか恥ずかしいと思うべきなのか分からない。オレは震えていた。そんなオレを、おっさんはオレを励まそうとしていた。
『いつか、大人になったら返せよ。とりあえず、その金で肉を買って元気を出せ! いいか、二度と公園で殺生するなよ。大人が見たら、おまえはイカレた野郎だと思うぞ。矯正施設に入れられちまうかもしれないぞ』
ホームレスのおっさんは太い指でゴワッとオレの頭を撫でていた。その声がジンッと腹に響いて鼻先がツンと痛くなるような切なさを覚えた。
『いいな。坊主、立派な大人になれよ……。オレみたいな惨めな奴にはなるなよ』
社会から転落したホームレスの眼差し優しかった。なぜ、こんなところにいるのか分からないけれど彼は自分を恥じているような表情で言う。
『オレみたいになったらおしまいだぞ。警察に捕まるなよ』
彼に対して深々と頭を下げるとアヒルを握り締めたまま逃げるように走り去った。それ以後、何度か公園に立ち寄り彼を探してみたけれど、出会えなかった。
ホームレスのおかげで鶏の胸肉やジュースやプリンを購入する事ができた。誕生日バーティーは、いつもより少し豪華になってホッとした。しかし、しばらくすると、妹は、春休み、友達と一緒にアニメ映画を観に行きたいと言い出した。お金がないので無理だと母さんが言うと妹はシクシクと泣き出した。映画代、そこまでの往復の電車賃、そして、ランチ代。我が家は、それさえも捻出できない。それが、現実なのだ。
傍から見ていたオレは情けなくなって目尻に熱いものがこみあげてきた。
オレが高校生になれば夜遅くまでバイトをする事が出来る。そしたら、あんなふうに妹を泣かせずに済む。でも、今はどうしようもないのだ。
『チクショー! 早く大人になりてぇ!』
そう思いながら登校すると、なぜか机の中に手作りのクッキーが入っていた。ラッピングされた包みを手にすると手書きの小さなカードが添えられていた。
『山田君。わたしの叔母が焼きました。どうか、受け取ってください』
書店のポップみたいな丸っこい書体だ。同じクラスの高円さんの文字だと気付いた。