「さて、みなさん、ダンスに打ち込む貧しい中学生の少年がその後にどうなったのかを想像して自由に創作して下さいね。一人称でも三人称でも構いませんよ。小説でもいいし、作文の形式でも構いません」

 先生は魔女のように頬骨が高くて骨ばった顎をしているが目元は優しげだった。多分、善良なの人なのだろう。読みながら、オレの人生に同情していた。いきなり、あんなものを聞かされた生徒達は互いに目を合わせながら困惑している

 オレは、自分の事なので、『少年』が、どうなったのかを正確に知っている。タウン誌に応募した稚拙な作文は大賞は逃したが入賞しており、一万円の商品券と十キロの米を獲得したのだ。そして、オレはダンスのコンテストにエントリーした。

 応募者はスマホで動画を送るだけで良かった。三十秒、踊った。全国から一万もの人が応募したというのに、ダンス部門で最終予選を通過したのは、たったのニ十五人。オレは選ばれた。もしかしたら、オレにはダンスの才能があるのかもしれない。

 そして、甲斐もボーカル部門で最終の五人に選ばれたのだ。

 明後日に迫った最終選考の予選会場で踊る為に地下街へと向かった。あの夜、甲斐を含む四人の仲間と一緒に踊り終えると手を振り合って別れた。そして、たまたま帰る途中、オレは久しぶりに、ホームレスのおっさんを見かけたのである。 

 彼は、背中に大きなリュックを背負っていた。彼は、シャッターが下りた商店街をトボトボ歩いている。まさか、こういう形で再会するなんて。

 彼を見失わぬように信号が変わるとすぐに走り出していた。

 二千円が手元にあった。借りたものは返さなくてはならない。おっさんを呼び止めようとしたが路地の途中で見失ってしまった。暗いアーケードの片隅でキョロキョロしていると、唐突に脇道から男の悲鳴が沸きあがった。

 心配になり、すぐさま声がした方角へと向かうと、おっさんは鼻血を出してうずくまっていた。

 おっさんは高校生くらいの三人の不良に絡まれてボコボコに殴られていた。そいつらはホームレスを苛めて楽しんでいた。よく見るとイケメンの村上が混ざっていた。

 嬉々としてホームレスを踏み付けているものだから、カッとなり割り込んでいった。

「やめろよ!」

 注意すれば、あいつらも逃げ出すと思っていたが、生憎、村上の友人は筋金入りの不良たった。

「何だ、てめぇ。何、カッコつけてんだよ!」

 オレは、そいつら羽交い絞めにされてしまい何度も顔と腹を殴られた。容赦ない攻撃に顔腫れあがり口の中に血が滲む。村上は憎らしげにオレの腹を蹴り上げてると叫んだ。

「うぜぇ! うぜぇ! マリオ。おまえにオレの気持ちが分かってたまるかよ! いつも、幸せそうな顔しやがってよう!」

 村上の端正な顔が歪み切っている事に恐怖と違和感を覚えてオレは顔を強張らせていた。ひっとしたら、あいつらは酒を飲んでいたのかもしれない。