もちろん、恥の多い人生だという自覚はあった。

 担任の女教師が、オレの作文を読みながら感極まったように喉元を震わせている。冗談じゃない。惨めな気持ちにさせないでくれよ。頼むよ、先生。やめてくれよ。勘弁してくれよ。この瞬間、高校の三年の特進クラスの教室の片隅で頭を抱えていた。

 中学三年の三月に、わずかな懸賞品を目当てに地元の自治体が主催するコンテストに作文を書いて応募したのだが、まさか、こんなところで読み上げられてしまうとは……。

 もう死んでしまいたい! こんなのバレるに決まっているじゃないか。

 ペンネーム、哀しきBボーイ。貧乏少年という意味なのだが、改めて振り返ると、オレの人生は地味でしみったれていた。物心着いた頃から、ずっと、目立たぬように社会の隅っこで生きてきたのだ。


                  ※


 それを書いた時、オレは中学三年生だった。山田マリオ。みんなには内緒にしているが、イタリア人の血が少しだけ流れている。母は日系ブラジル人とイタリア人のハーフだ。

 日本人であるオレの父、山田登志男と出会った時、母のマルシアは日系のホテルで働いていたので少しだけ日本語が話せたらしい。

 結婚を機に母は日本国籍を手に入れると、父の故郷である広島の田舎町へと引っ越した。山間の村で幸せに過ごしていたのだか、夏の終わり、豪雨のせいで、深夜、大規模な地滑りが起こり、祖父と父は土砂や瓦礫に埋もれて亡くなってしまう。

 オレは八歳で妹は五歳。シングルマザーとなった母は子供達を育てる為に上京して清掃の仕事に就いた。鼻筋の通った派手な顔の母は美人でスタイルも抜群に良かった。簡単な日常会話は出来るが漢字が読めないのでゴミの分別で近所の人に叱られたりもしたが、それでも、何とか平和に暮らしていた。そう、あの夏の日までは……。

 オレが小学三年になった夏、母が交通事故で母が骨折してしまい、ニヶ月間も入院を余儀なくされ、オレと妹は施設に預けられることになった。その施設には、身寄りのない子や虐待された子がいた。古参のヨシオというニキビだらけの中学生が、いきなり近寄ってきて新入りのオレの肩に腕をまわしてきたので、てっきり苛められるのかと思い身を固くしていると、オレだけに聞えるように言った。

『おまえも捨てられたのか。でも、悪い親ならいない方がマシだぜ。ここでのんびりしたらいいのさ』

 捨てられたんじゃないと言いたかったけれど、父親からひどい虐待をされたヨシオの気持ちを思うと何も言えなかった。すると、ヨシオはハート型のチョコレートをバキッと割って分けてくれたのだ。

『今日はバレンタインだぜ。ほら、半分こしようぜ』

  ニッと笑うヨシオの上の前歯が二本とも欠けていた。

 オレは仲良くなったヨシオと一緒に施設の風呂に入ったのだが、ヨシオの痩せた背中には無数の傷痕があった。

『親父にやられたんだ。でも、安心しろ、そいつ、実の父親じゃねぇからな』