「結婚しよう。彩里(さいり)ちゃんとそうできるなら、幸せだな、私」

 めぐみにプロポーズされた時のことを、おそらく彩里は忘れないだろう。
 ノートパソコンの前で、短く息を吸って、口もとを手で押さえた。
 オンライン通話ソフトの文字チャット画面から目を離した瞬間、吹き出しの中の文字がしゅわ、と溶けて消えてしまうような気がして、まばたきするのもこわくって。
 確かにめぐみは、一番と言っていいくらい、仲の良い友達だった。年齢は五つ上だが、趣味が合って、誰よりも話していて楽しく、一緒にいて安心できる。付き合いもそれなりに長いので、性格はよくわかっていたし、尊敬するところもあった。彩里が胸に隠し持っている、本当に大切なものだけ入れることにしている宝箱には、めぐみからもらった言葉がたくさん入っている。
 半年後、彩里はめぐみのプロポーズを受け入れた。
 同性間結婚を認める特別パートナーシップ法が施行されてからというもの、もう数えきれないほどの、愛情や友情でつながる同性ふたりの家族が誕生しており、彩里たちは駅や商業施設などで日に一度は目にする、さして珍しくないそれらのうちの一組になったのだった。役所の手続きは拍子抜けするほど簡単で、そして日常の地続きに、ふたりの生活が始まった。
 
 ――けれど。彩里には秘密がある。

     ◇