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 友達はすぐにできた。自然と上位グループの子たちといるようになった。
 ママ譲りの顔立ちもあるのかもしれない。男女問わず、みんなが話しかけてくれる。
 でも、田舎の子たちは古臭い気がした。髪型や服装、それに前髪をピンで留めている感じも、都会の流行とは違って見えた。
 アイドルの話題も地味で、会話が弾まないことが多い。なんとなく、壁を感じる。

 わたしは「移住支援制度」で補助を受けて古い家に住んでいる。きっとみんな、わたしのことを「かわいそう」って思ってるんだろう。
 正直、古臭い感じの子たちに同情されるなんて、やりきれない。どうしてこんな場所で、下に見られているような気分を味わわなきゃいけないんだろう。
 高校の進路は、地元の公立か農業高校の二つしか選べない。
 勉強が苦手なわたしには、少し気楽に思えるけど、何も自分で選べないまま流されているように感じる。

 そんなとき、友達に「サッカー部のマネージャーやらない?」と声をかけられた。
 バイトもできないし、家でひとりで虫と格闘するよりはマシだと思って、素直に頷いた。
 マネージャーになってから感じたのは、田舎の部活って、なんだかしょぼい。
 誰が上手で、誰が下手なのか、すぐに見えてしまう。
 横山奏くんは、確かにエースとして目立っていた。

 でも、もうひとりの背が高いだけの男子もエースみたいに扱われていて、違和感があった。
 彼はパスをせずにひたすらドリブルをして、下手なシュートばかりしていた。ゴールが決まるはずもないのに。

「なんで、あの人が?」とつい口にしてしまった。
「あんまり上手じゃないよね」って言ったら、友達の顔が強ばった。
「白根くんには、そんなこと言っちゃだめだよ」

 白根英斗。チーズラーメンラボの社長の息子だ。
 あいつが特別扱いされているのは、チーラボがこの街を支えているから――それは、わたしとママがここで暮らしている理由にもなっている。

 白根英斗に気に入られたのは、本当に最悪だった。
 部活の練習中、水のボトルを並べていたとき、後ろからしゃがれた声が聞こえた。

「なぁ、乙黒」

 振り返ると、白根英斗が立っていた。大きな体が圧迫感を放っていて、上から押さえつけられるような気分になる。
 じっと見つめてきたかと思えば、唇をゆっくりと舐める。背筋がぞわっとして鳥肌が立つ。
 視線が顔から胸に移って、ねっとりとまとわりついてくるようで、心臓が跳ねたけど、全然嬉しくない。
 男子に見られることには慣れていたけど、あいつの目つきは異様で、気味が悪い。脇に挟んでいたバインダーを胸で抱きしめるように持ち直した。

「マネージャーなんてつまんねーだろ?」


 軽く歯を見せたとき、ぞくっとした。
 わたしは表情を崩さずに、「アイちゃんに誘われたから」とだけ答えた。

 あいつは返事なんか聞いてなくて、勝手に話を続ける。

「俺だけ世話してりゃいい。他のやつなんかどうでもいいだろ」

 こいつ、何様? 心の中で叫んだ。
 ムカつくけど、ここで嫌な顔をしたら終わりだとわかってる。

「んん?」と聞こえないふりをして、友達のところに逃げた。なんとかその場をやり過ごした。
 田舎って、本当にやばい。どうしようもない場所だ。

 家に帰ってママに愚痴りたくなったけど、疲れた顔を見たら何も言えなかった。

「学校はどう? 部活、楽しい?」

 いつも通りに聞いてくるママに、「普通かなぁ」とわたしはあいまいに濁した。

「気になる男の子はいないの?」

 急にそんなことを聞かれて、笑ってごまかすしかなかった。

「そういうのはないかな」

 正直、横山くんが少しマシだと思ってる。でも、後輩に手を出してるって噂があって、付き合う気にはならないけど。
 東京にいた頃は彼氏もいたし、みんなより早くそういう経験をしていた。
 元彼は普通にカッコよくて、友達から「栞の彼氏、王子様みたいだね」って言われて、自慢だった。

「栞のこと、好きな子いっぱいいるでしょ?」

 ママは嬉しそうに笑う。わたしがモテるのが、ママにとって誇らしいのだろう。
 わたしは全然嬉しくない。こんな田舎で恋なんてありえない。
 白根英斗みたいなやつが幅を利かせてる場所なんて、絶対無理。

 王子様みたいな人と、甘い恋がしたい。そんな人、ここにはいないけど。
 早くここを出たい。もううんざりだ。

 でも、ママと一緒にいたい。ママが大好きだから。