(1)

 ――七月某日、夜、スカイリゾート。

 空を見上げる。星がきらきら輝いている。
 手を伸ばせば、光に触れられそうなのに、なぜか怖くて、足がすくんでしまう。
 夏の夜なのに、風が冷たくて、肌に染み込んでいく。体が震える。何かがおかしい。

 ベガの青白い光が、まるで空気を凍らせているみたい。

 アルタイルの鋭い輝きが、目を刺すように光る。

 デネブは儚げで、消えてしまいそうな不安が胸いっぱいに広がる。

 山々に囲まれたコテージの上で、北極星がじっと光を放っている。

 動きたいのに、足が前に出ない。見つめられている気がして、全身がこわばる。

 Tシャツが肌に張りついて、何だか重たく感じて落ち着かない。

 思わず自分を抱きしめた。嫌な記憶がふいによみがえって、体が勝手に震えだす。
 もう、耐えられない。無理……。泣きそうになる。
 振り返るけど、誰もいない。風が吹くだけで、何も変わらない。


 それなのに、なんでこんなに怖いの? 星のせい?

 それとも……何か、見えないものが近くにいるの?
 でも、やらなきゃいけないことがある。
 
 スマホを握りしめた。少しだけ震えが収まって、ほんのちょっとだけ安心する。

 うん、大丈夫。進むだけ。

 うん、大丈夫。ずっと我慢してきた。

 うん、大丈夫。よく頑張った、わたし。

 これが終われば、未来はきっと変わるんだから。

 わたし、「いい子」だよね――ママ。

 ママが言ってくれたから、信じて進むしかない。

 この街に引っ越してきた夜から、ずっと……。

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