その後、俺もシャワーを浴びてジャージに着替え、蛇沼と一緒に部屋を出た。
 栞、松永、雪野と合流し、夕方六時前にはレストランへ向かう。
 ガラス張りの窓からは、夕陽が森を柔らかく染め上げている。
 ウッド調の内装と、小さなキャンドルの灯りが、室内を穏やかに包んでいた。

 招待された親子たちは席に着いていた。子どもたちは遊び疲れているはずなのに、リゾートの特別な空気の中でまだ元気にしている。親たちはリラックスした様子で、静かに会話を交わしていた。
 小さな女の子が突然、蛇沼に駆け寄った。

「マヤにいちゃん、一緒に食べよう」

 その声に続いて、他の子どもたちも次々と集まってくる。
 蛇沼は自然な笑顔を浮かべ、すぐに子どもたちと打ち解けていった。
 栞も引き寄せられるように、そのテーブルに向かう。
 松永と雪野が気まずそうに俺をチラリと見たが、無視して奈緒さんたちのいる席に向かった。

 奈緒さんが静かに笑いながら、俺のために席を引いてくれる。
 晩餐会が始まり、テーブルには牧場の乳製品を使った料理が並べられていた。
 クリームポタージュ、バターたっぷりのジャガイモグラタン、チーズの香り漂うミートローフ。冷たい牛乳のピッチャーやミルクベースのドリンクも並べられる。

「すべてが変わるよ」

 奈緒さんが耳元で囁く。

「俺、やりましたよ」

 小声で返すと、奈緒さんは満足げに微笑み、静かに頷いた。
 自然と視線は蛇沼と栞に向かう。二人は子どもたちに囲まれ、楽しげに話している。
 蛇沼が冗談を言うたび、栞は笑い、軽く肩に触れている。
 仕草の一つひとつが腹立たしいが、妙に冷静だった。

「乾杯よ、英くん」と奈緒さんがグラスを掲げる。
 周囲の社員やスタッフもそれに続き、乾杯の声が響いた。
 俺もグラスを持ち上げ、軽く頷いた。


 晩餐会が終わり、親子たちはコテージに戻っていく。

 七時半を過ぎ、山の夜が静かに迫っていた。空は青紫に染まり、星がちらほら瞬き始める。

 風が頬をかすめ、木々が静かに揺れていた。

「じゃあね、摩夜くん」


 栞がはにかみながら手を振り、女子たちのコテージへ歩き出す。

 栞の髪がふわりと揺れ、薄手のTシャツが体にぴたりと張りついている。
 夕闇の中、白い足首がぼんやり浮かび上がっていた。

「白根くん? おい、無視かよ。俺、先に戻るから」

 蛇沼の声は遠くで聞こえるが、意識は栞に釘付けだった。

 ……ッ!

 ――視界がゆがみ、星が狂ったようにギラギラと輝いている。

 ふと、空に浮かぶ北極星が、コテージの真上でじっと光っているのが見えた。
 見下ろされているような感覚が胸に響き、ふいに現実に引き戻された。
 胸の奥がざわつき始め、体に冷たい緊張が走る。