俺たちはそれぞれのコテージに案内された。
L字状の建物は、山の斜面に沿って立っている。短い方に玄関があり、入ると右手に洗面所と風呂、奥にはトイレが見える。木の香りが漂い、床がかすかにきしむ音がする。
長い方にはリビングと寝室が一体となった広い空間が広がっていた。
窓の外には森が広がり、静けさが室内に染み込んでくるようだ。
蛇沼がベッドの横にカバンを置いた。ファスナーの隙間から薬のケースがちらりと見えた。
心臓が激しく脈打ち、腕に力が入る。拳を無意識に握りしめた。
「何、じっと見てんの?」
蛇沼が声をかけてくる。俺は平然を装い、「いや、別に」と答えた。
「そっか」と蛇沼はつぶやき、スマホを取り出し、画面を滑らせる。
幸い、薬を見ていたことには気づいていないらしい。
「充電ないじゃん……」
蛇沼は独り言をつぶやきながら、スマホを机の上に置き、充電ケーブルを差し込んだ。
スマホはひっそりと横たわり、空気がしんと静まる。
ふと、蛇沼がこちらを見る。その瞬間、俺の体がびくっと反応した。
「今日は妙に静かだね。何かあった?」
不自然な笑みを浮かべる蛇沼に、心が揺さぶられるが、ここで感情を露わにするわけにはいかない。
「……言っただろ。仕事だよ。父さんはここを買うかもしれないんだ」
「なるほど」と蛇沼は軽く頷いた。
「またこんな機会作ってくれるの?」
「必要があればな」
「ふーん」
軽く相槌を打ちながら、蛇沼はベッドに座り、目を細めて部屋を見回した。
心臓の鼓動が速まる。冷静になれ……俺。
「六時にレストラン集合だから、今のうちに風呂に入ったほうがいい」
「ああ、そうだね」
「先に入ってくれよ」
「やけに親切じゃん」
蛇沼が軽く笑いながら返すが、内心では冷笑していた。
あまりにも簡単に罠にかかってくれた。
興奮を抑えながら、「うっせえよ」と荒っぽく返す。
蛇沼は腕を組み、首を傾げたままじっとこちらを見てくる。
「白根くんとしーちゃんって、お似合いだよな」
「……え?」
「何だよ、その顔。付き合ってるじゃん?」
蛇沼は冗談めかして笑いながらバスセットを持ち、浴室へと向かう。
俺は唖然としたまま、立ち尽くす。
こいつ、何を考えてるんだ?
煽っているのか、それとも勝者の余裕か?
今は深く考える時間はない。計画を実行するときが迫っている。
蛇沼がシャワーを浴びている間に、やるしかない。
息を殺しながら、蛇沼のカバンに手を伸ばし、手袋を装着して中を探る。
指先に触れたのは、透明なケースに収められた赤い錠剤――五錠、無包装で入っている。こいつの命を握る薬だ。
浴室からシャワーの音が響く中、血管がはじけるような勢いで心臓が打つ。
失敗すれば、すべてが終わる。不安を振り払って、静かに錠剤を抜き取った。
トイレに向かい、赤い薬をじっと見つめる。
少しの迷いが生まれるが、時間はない。決断を下すしかない。
シャワーの音が一瞬大きくなった気がする。
それに合わせるように、俺は錠剤をトイレに流し込んだ。
赤い錠剤が渦にくるくると巻き込まれ、ゆっくりと飲み込まれていく。
「はぁ……はぁ……」
吐く息が震える。手袋越しに胸に手を当て、乱れた呼吸を抑え込む。
トイレの水が止まり、シャワーの流れる音だけが静まり返った空間に響いていた。
L字状の建物は、山の斜面に沿って立っている。短い方に玄関があり、入ると右手に洗面所と風呂、奥にはトイレが見える。木の香りが漂い、床がかすかにきしむ音がする。
長い方にはリビングと寝室が一体となった広い空間が広がっていた。
窓の外には森が広がり、静けさが室内に染み込んでくるようだ。
蛇沼がベッドの横にカバンを置いた。ファスナーの隙間から薬のケースがちらりと見えた。
心臓が激しく脈打ち、腕に力が入る。拳を無意識に握りしめた。
「何、じっと見てんの?」
蛇沼が声をかけてくる。俺は平然を装い、「いや、別に」と答えた。
「そっか」と蛇沼はつぶやき、スマホを取り出し、画面を滑らせる。
幸い、薬を見ていたことには気づいていないらしい。
「充電ないじゃん……」
蛇沼は独り言をつぶやきながら、スマホを机の上に置き、充電ケーブルを差し込んだ。
スマホはひっそりと横たわり、空気がしんと静まる。
ふと、蛇沼がこちらを見る。その瞬間、俺の体がびくっと反応した。
「今日は妙に静かだね。何かあった?」
不自然な笑みを浮かべる蛇沼に、心が揺さぶられるが、ここで感情を露わにするわけにはいかない。
「……言っただろ。仕事だよ。父さんはここを買うかもしれないんだ」
「なるほど」と蛇沼は軽く頷いた。
「またこんな機会作ってくれるの?」
「必要があればな」
「ふーん」
軽く相槌を打ちながら、蛇沼はベッドに座り、目を細めて部屋を見回した。
心臓の鼓動が速まる。冷静になれ……俺。
「六時にレストラン集合だから、今のうちに風呂に入ったほうがいい」
「ああ、そうだね」
「先に入ってくれよ」
「やけに親切じゃん」
蛇沼が軽く笑いながら返すが、内心では冷笑していた。
あまりにも簡単に罠にかかってくれた。
興奮を抑えながら、「うっせえよ」と荒っぽく返す。
蛇沼は腕を組み、首を傾げたままじっとこちらを見てくる。
「白根くんとしーちゃんって、お似合いだよな」
「……え?」
「何だよ、その顔。付き合ってるじゃん?」
蛇沼は冗談めかして笑いながらバスセットを持ち、浴室へと向かう。
俺は唖然としたまま、立ち尽くす。
こいつ、何を考えてるんだ?
煽っているのか、それとも勝者の余裕か?
今は深く考える時間はない。計画を実行するときが迫っている。
蛇沼がシャワーを浴びている間に、やるしかない。
息を殺しながら、蛇沼のカバンに手を伸ばし、手袋を装着して中を探る。
指先に触れたのは、透明なケースに収められた赤い錠剤――五錠、無包装で入っている。こいつの命を握る薬だ。
浴室からシャワーの音が響く中、血管がはじけるような勢いで心臓が打つ。
失敗すれば、すべてが終わる。不安を振り払って、静かに錠剤を抜き取った。
トイレに向かい、赤い薬をじっと見つめる。
少しの迷いが生まれるが、時間はない。決断を下すしかない。
シャワーの音が一瞬大きくなった気がする。
それに合わせるように、俺は錠剤をトイレに流し込んだ。
赤い錠剤が渦にくるくると巻き込まれ、ゆっくりと飲み込まれていく。
「はぁ……はぁ……」
吐く息が震える。手袋越しに胸に手を当て、乱れた呼吸を抑え込む。
トイレの水が止まり、シャワーの流れる音だけが静まり返った空間に響いていた。