(3)

「蛇沼摩夜が死んだら、好きにしていいのよ」と奈緒さんが言ったあの日、俺の中で何かが完全に弾けた。

 栞と結ばれる日が待ち遠しい。それなのに、蛇沼はまだ生きている。
 余命なんてどうでもいい。早く死んでほしい。それだけが今の願いだ。
 夜、栞のことばかり考えて眠れない。あいつの写真を見ていると、抑えられない気持ちが湧き上がってくる。どうしようもなくなり、毎晩同じことを繰り返す。
 そうして一瞬だけ気持ちを落ち着けるが、結局また栞のことを考え始め、焦りがさらに膨らんでいく。

 そんなとき、父さんが「奥星囲に行くか?」と言ってきた。仕事の手伝いだ。
 いつか父さんのあとを継ぐつもりだし、今はそのための力を蓄えるときだ。蛇沼が消えるまで、俺は全力で父さんの仕事に向き合うしかない。それが、今の俺にできる唯一のことだ。