(1)

 乙黒栞は俺だけのものだ。
 絶対に渡さない。なのに、栞は俺を見ていない。
 目はどこか遠く、俺じゃない何かに向けられている。
 俺の知らない世界を彷徨っているのか。

 何を見ているんだ? 
 誰を追いかけている?

 頭の中で疑念が渦巻き、不安が腹の底で暴れ回る。
 息が吸えない。肺が満たされない苦しさに押し潰されそうだ。
 おかしい。絶対におかしい。

 体調が悪いだって? ふざけるな。デートを断る回数も増えた。
 いつからだ? 栞が変わったのはいつからなんだ?
 何があった? 最初は心配していた。

 でも、今は違う。疑いしか残っていない。
 栞の周りに何かがまとわりついている。
 見えない存在、いや、誰かだ。誰かが栞を狙っている。
 誰だ? 誰が近づいている?

 考えるほど怒りが膨れ上がる。血が煮えたぎるように体中を駆け巡る。
 見えない手が栞に触れようとしている。
 許せるか。絶対に許さない! 

 そいつの手を引き裂いてやる。絞めつけて叩き潰してやる。
 栞は俺のものだ。誰にも触れさせない。
 影だろうが、男だろうが、すべてを消し去ってやる。
 終わらせるんだ。

 栞を奪おうとするやつは、殺してやる。