・【19 事件9.志布志さんの懸念・解決編】


 何で志布志さんは岩本って人がイジメられていると思ったんだろうか、別のクラスなのに。
 それにその理由はあんまり語りたがらない。ということは志布志さん側にも秘密があるということだ。
 結局志布志さん側の秘密も暴露することになるんだから、言ってくれればいいのに。
 でも自分から言い出しにくいということなんだろうなぁ、つまりそういうことだろうなぁ。
 岩本って人はサッカークラブに入っていて、しかもあの廊下ダッシュから見るに、足が速いということは、当然練習しているということだ。
 あんまり練習については詳しくないけども、有名なトレーニング方法を一つや二つは知っているもので。
 というか思い出したよ、池橋栄子のこの動画を見てね。
 さて、この辺りのこともLINEしておこう。
 あとで佐藤さんがまとめて読めばいいから。
 夜、共働きの両親が帰ってきた時間帯に佐藤さんからLINEが返ってきた。
『通知鳴らし過ぎ どんだけあーしのこと好きなん?』
『別にそういうことじゃなくて。岩本って人のことも書いているから読んでよ』
『オナニーとあーしのこと どっちが好きぃ?』
 という佐藤さんのLINEがきたら、すぐに削除されて、
『じゃあ岩本のこと読むし』
 と届いたんだけども、何か、もう、心臓がバクバクいい始めてヤバイ。
 別に、佐藤さんのことは好きじゃない、はず……否、もう気付いているよ、俺は佐藤さんのことが好きだという自分自身に。でもまさか佐藤さんからそんなこと書かれるなんて、俺の気持ち、バレているということか? うわぁぁあああああ、向こうは奴隷としか思っていないだろうに、俺はガチ恋して恥ずかし過ぎる。佐藤さんなんて好意を向けられること、多分慣れているだろうから俺が自分のことに気付く前から気付いていたかも。何か、俺、いろいろ回って惨めだな、いや直通で惨めかも。奴隷のくせにさ。脳内で言葉がぐるぐる巡っているが、佐藤さんから岩本って人の話一色になったので、むしろ良かった。
 次の日、佐藤さんと校門の前で待ち合わせして、玄関に人が出払った状態になったところで岩本って人の下駄箱の中を確認すると思った通りで、志布志さんに今回の件を報告することにした。
 志布志さんが登校してきた時点で空き教室に誘導し、話を始めることにした。
「志布志さん、まず岩本って人はイジメられていないらしいです」
 すると志布志さんは「んっ」と喉を鳴らしてから、
「でっ! でも!」
 と言ったところで佐藤さんがこう言った。
「志布志ってさ、岩本の下駄箱の中を見たんでしょ? そして下駄箱の中が砂まみれだからイジメられていると判断したわけで」
 志布志さんは黙って俯いた。
 佐藤さんが続ける。
「どうせ志布志の秘密も暴かれるんだから、全部言えば話は簡単だったし。志布志は岩本にラブレターを出す気だったんっしょ」
 俺は相槌を打つように、
「志布志さんは字が綺麗だから、文字で想いを伝える方法を選んだわけですね」
 志布志さんは耳まで真っ赤にしながら、
「そ、そうだけども……」
 俺は自分の推理を喋ることにした。
「で、下駄箱が砂っぽい理由はその文字の通り、岩本って人が浜辺を走り込んでいるからじゃないか?」
「浜辺を、走り込む……?」
 そうオウム返しした志布志さんに、俺は続ける。
「砂浜を走るというトレーニングがあるんだ、結構一般的だよ。多分昼休みとかも走り込みに行っているんじゃないかな、うちの高校、隣の公園抜けたらすぐ砂浜だし」
「そうだったんだ……」
「まあ気になるなら、今日俺が双眼鏡持ってきたから、屋上から砂浜のほう見てみればいいんじゃないかな。勿論その時は下駄箱に上履きが無いことを確認してからね」
「じゃじゃあ! それが確認できればイジメられているわけじゃないってこと!」
 佐藤さんはうんうん頷きながら、
「そういうことだし!」
 と答えたところで一件落着した。
 それにしても志布志さんってそんな恋愛に積極的なんだ。
 俺にはそんなことできないなぁ、まあ状況が状況だからというのもあるけども。
 俺はそもそも佐藤さんに想いを伝えてもいいものなのか。
 伝えたらそれごとイジられるようになるのかな、そうなったら心が持たないような気がする。
 いやオナニー日記とかには慣れたけども、想いを伝えたことさえもイジられるようになったら、さすがに俺は人間辞めるような気がする。
 それともそうなってこそ、真の奴隷なんだろうか。
 いや真の奴隷になんてなりたくないけどなぁ。