秀一郎さんと並んで歩いているときだった。豊が校舎に入ってきた。
「あ」
ぼくは思わず小さく声を上げてしまった。
「よお」
豊かはヘルメットを持った手をあげた「いま帰り?」
と言って、一瞬隣にいた秀一郎さんを見た。
「どうも」
秀一郎さんが挨拶をすると、
「ども」
と豊かは短く答えた。「え、お兄さん?」
「彼氏です」
ぼくが答える前に秀一郎さんが元気よく答えた。
「なわけないだろ!」
ぼくが怒鳴った。よりによって、なんつーことを、しかも豊の前で。
「ああ、ごめんごめん、俺の片思いだった」
と秀一郎さんが余計とんでもないことを言い出した。
「違うから」
ぼくが慌てているのを見て、豊かは少し顔をしかめた。
「すみません、おっさんのジョークです。平間エイジの兄っぽいなにかです」
秀一郎さんが言った。
「兄」
なんとなく疑わしそうな目つきをして豊が秀一郎さんを見た。
「そ、兄貴。な、弟」
秀一郎さんがぼくの肩を叩いた。
「まあお兄ちゃん的な、うん」
ぼくは仕方なしに言った。
「まあいいけど。大丈夫か?」
豊がぼくを見て言った。
「うん。なんで?」
緊張しながらぼくは訊ねた。
「いや、だって、あれじゃないのか。あの」
と先日の文芸部の女子の名前を豊が口にした。
「知ってるの」
「まあ、うん、なんとなく」
どこまでも噂が広がっているのか。あいつの裏垢、相当のフォロワーがいるらしい。せっかく久しぶりに話すことができたというのに、げんなりした。
「あんま、気にすんなよ」
豊が言った。
「うん、豊、どこ行くの」
「保健室。さっき脳震盪起こして倒れたやつがいるから」
「大変だね、キャプテン」
「べつに俺は普通だよ。それより、ほんと気にすんなよ」
またな、と言って豊は去っていった。
ぼくはその背中をしばらく眺めた。
「ふーん、なるほどねえ」
と声がして振り向くと、秀一郎さんがいつも以上ににやにやしている。
「なんですか」
「いや、青いなあ、って」
「べつにそういうんじゃないですから」
いやだマジでおやじは。なんでも恋バナにしようとする。
「は? きみ、彼のこと好きなの?」
不思議そうに言った。
「な」
会いた口がふさがらない。
「彼、きみのこと好きでしょ」
と秀一郎さんがさらりと言った。
「なわけ」
「あるでしょ。年寄りはだまされませんぞ」
あまりに堂々と言うから、僕は頭を抱えた。
「ほんと、そんなんじゃないですから」
「きみたち、もうしてるでしょ」
秀一郎さんはずばりと言った。
「そんな」
なにを校舎で、誰かに聞かれたら、と思ったときだ。
「なにをしている」
声がした。塚原先生は顔をピキらせながら大股でやってきた。
「あ」
ぼくは思わず小さく声を上げてしまった。
「よお」
豊かはヘルメットを持った手をあげた「いま帰り?」
と言って、一瞬隣にいた秀一郎さんを見た。
「どうも」
秀一郎さんが挨拶をすると、
「ども」
と豊かは短く答えた。「え、お兄さん?」
「彼氏です」
ぼくが答える前に秀一郎さんが元気よく答えた。
「なわけないだろ!」
ぼくが怒鳴った。よりによって、なんつーことを、しかも豊の前で。
「ああ、ごめんごめん、俺の片思いだった」
と秀一郎さんが余計とんでもないことを言い出した。
「違うから」
ぼくが慌てているのを見て、豊かは少し顔をしかめた。
「すみません、おっさんのジョークです。平間エイジの兄っぽいなにかです」
秀一郎さんが言った。
「兄」
なんとなく疑わしそうな目つきをして豊が秀一郎さんを見た。
「そ、兄貴。な、弟」
秀一郎さんがぼくの肩を叩いた。
「まあお兄ちゃん的な、うん」
ぼくは仕方なしに言った。
「まあいいけど。大丈夫か?」
豊がぼくを見て言った。
「うん。なんで?」
緊張しながらぼくは訊ねた。
「いや、だって、あれじゃないのか。あの」
と先日の文芸部の女子の名前を豊が口にした。
「知ってるの」
「まあ、うん、なんとなく」
どこまでも噂が広がっているのか。あいつの裏垢、相当のフォロワーがいるらしい。せっかく久しぶりに話すことができたというのに、げんなりした。
「あんま、気にすんなよ」
豊が言った。
「うん、豊、どこ行くの」
「保健室。さっき脳震盪起こして倒れたやつがいるから」
「大変だね、キャプテン」
「べつに俺は普通だよ。それより、ほんと気にすんなよ」
またな、と言って豊は去っていった。
ぼくはその背中をしばらく眺めた。
「ふーん、なるほどねえ」
と声がして振り向くと、秀一郎さんがいつも以上ににやにやしている。
「なんですか」
「いや、青いなあ、って」
「べつにそういうんじゃないですから」
いやだマジでおやじは。なんでも恋バナにしようとする。
「は? きみ、彼のこと好きなの?」
不思議そうに言った。
「な」
会いた口がふさがらない。
「彼、きみのこと好きでしょ」
と秀一郎さんがさらりと言った。
「なわけ」
「あるでしょ。年寄りはだまされませんぞ」
あまりに堂々と言うから、僕は頭を抱えた。
「ほんと、そんなんじゃないですから」
「きみたち、もうしてるでしょ」
秀一郎さんはずばりと言った。
「そんな」
なにを校舎で、誰かに聞かれたら、と思ったときだ。
「なにをしている」
声がした。塚原先生は顔をピキらせながら大股でやってきた。