結局、そのあとで新宿御苑のほうまで歩き、ベンチに座ってから塚原先生の尋問が始まった。
「なんで、あんなところにいたんだ」
「でも裕太だっていたじゃん、ねえ?」
 フォローでもしてくれているつもりなのか、隣の男が言った」
「秀一郎は黙ってろ」
 塚原先生が睨むと、その男、秀一郎さんは、「はーい、先生」と小馬鹿にしたみたいに参りました、みたいに手を広げた。
「なにも言わないなら、別にいい。家まで送っていくから」
 結局だんまりを決めこんだぼくを面倒に思い諦めたのか、塚原先生は言った。
「きみ、どこに住んでいるの?」
 秀一郎さんが言った。
「三軒茶屋です」
「ああ、だったらぼくらと方向一緒じゃん。よかった。面倒がなくて。まあ、飲みに行けなかったけど」
「飲み」
「秀一郎」
 塚原先生は咳払いし、「ほら、帰るぞ」とぼくを立たせた。
「もっと優しくしないとだめでしょう。ぼくらの時代とは違うんだから。ハラスメントで訴えられたりしたらどうすんの? 裕太、職を失って路頭に迷うよ。教師って弱いんだから。次の勤め先ないでしょ」
 と秀一郎さんは言った。なにひとつフォローしているようには見えなかった。
 まるで首根っこを捕まれたみたいに、ぼくたちは歩きだした。
 帰り、ずっと秀一郎さんがぼくに質問を浴びせた。
 こちらは教師に夜の盛り場を歩いていることも、自分がゲイだということもばれ、しかもおじさんに好奇心で身を任せようとしていることもばれ、ろくすっぽ答えることができなかった。
 こんな地獄みたいなことが自分の身に降りかかるなんて思わなかった。
「でもよかったじゃないか。へんなおじさんにへんなことされたら、一生のトラウマになっちゃうところだったよ。きみみたいなきれいなこは、きれいな経験をすべきなんだよ」
 副都心線から田園都市線に乗り換える途中で、秀一郎さんはいった。
「きれい」
「あ、やっとしゃべった」
「べつにきれいでもなんでもない、です」
 ぼくが下を向いて答えると、
「そんなことはどうでもいい」
 と塚原先生は言ったのだ。