思いを巡らせていると、明の時代の朝貢(ちょうこう)貿易(ぼうえき)が頭に浮かんできた。
 中華思想によって、貿易は中国が与える恩恵であるとする考え方だ。
 中国は宗主国(そうしゅこく)で、諸国は属国と見なすのだ。
 だから、属国の君長(くんちょう)は宗主国の皇帝を敬い、貢物(みつぎもの)を持ってやってこなければならない。
 その恩恵として皇帝はその者に国王の地位を与えることになる。
 つまり、ロシアの大統領はロシア国民が選ぶのではなく、中国のトップが選ぶようになるのだ。
 
 それとも……、
 江戸時代の参勤交代が浮かんできた。
 260年続いた徳川幕府の知恵を学んでいるとすれば、1年交代でロシアの大統領を北京に住まわすことを考えるかもしれない。
 その場合は大統領の妻子を北京に常駐させるのが効果的だ。
 人質を取っておけば大統領も迂闊(うかつ)には逆らえない。
 
 それとも……、
 更なる中国の手を考えようとした時、新たな情報が入ってきた。
 ロシアがインドに対して原油の大幅な値引き販売を持ちかけたというのだ。
 それはウラル原油に関する交渉だった。
 ウクライナ侵攻前の価格と比べて1バレル当たり最大35ドル安くするというものだった。