実を言うと、一時ラヴロフに期待していた。
 欧米指導者の考えなどをよく知る彼がプーチンに対して適切なアドバイスができると望みをかけていたのだ。
 
 それは2月14日のことだった。
 ウクライナに関する今後の対応を検討するためにプーチンがラヴロフをクレムリンに呼び、「ロシアが懸念する重要な問題について欧米側と合意するチャンスはあるのか、それとも欧米側は終わりのない協議に引きずり込もうとしているのか」と問うた。
 するとラヴロフは「可能性は残されていると思う。いつまでも続けるべきではないが、現時点では協議を継続し、活発化させることを提案したい」という考えを伝えた。
 対話継続を進言したのだ。
 それをプーチンは受け入れたように見えたが、その10日後、ウクライナ侵攻が始まった。
 ラヴロフの進言は考慮されなかったのだ。
 
 おかしいとは思ったのだが……、
 一瞬でも期待した自らを恥じた。
 今から思えば、プーチンによる芝居だったのだ。
 対話継続と見せかけるためにラヴロフを利用したに違いない。
 
 不曲はロシア国営放送に映し出されたその時の映像を思い浮かべた。
 プーチンとラヴロフの間には途轍(とてつ)もない距離が置かれていた。
 表向きは新型コロナ対策となっているようだったが、立場の違いをはっきりと見せつけるような距離感だった。
 近づくことさえ許されない絶対的な主従関係を知らしめるような見せ方だった。
〈報告は聞きおくが、それによって自らの判断が左右されることはない〉と告げているようでもあった。