高梨月臣、高校三年生。
俺はキラキラしたものが苦手だ。
例えば煌びやかに輝くショーウィンドウや、ブランドのペアリング。大勢の人で賑わう週末のショッピングモールや、明らかにバーベキューをするために買い出しをしている男女のグループ……。
天気にしても、晴れた日より雨の日が好きだ。出掛ける必要もないし、家に引きこもっていたって罪悪感もない。雨戸を締め切って真っ暗な部屋で一日過ごすことができるなんて、神様からの贈り物としか思えない。逆に、雨が上がって雨露でキラキラと光る世界を見ると、眩しさにその世界から消えてしまいたくなる。
クラスにいる所謂陽キャになんて近付きたくもない。意味もわからず大声で笑って、「ウケるー!」「ヤバい!」など、おおよそ日本語とは思えない言葉でコミュニケーションをとっている。そんな馬鹿騒ぎを見るだけで、動悸がする。
だから俺は、図書館が好きだった。ひっそりと静かな図書館で、夢中になって本を読み漁った。一人で誰とも話さずに、いくらいたっていい。ズケズケと不躾に深入りしてくる人なんて、あの場所にはいない。雨や風の音を聞きながら、俺は本を読んで過ごした。
もちろん、昼よりも夜が好きだ。俺の両親は月の出る穏やかな夜のような人になってほしい……そんな思いを込めて『月臣』という名前をつけてくれたのに、いつからこんな陰気な性格になってしまったんだろう。
今の俺は、典型的な陰キャでありコミュ障だ。
「一度こっちの世界にきてしまったら、もう明るい世界になんて戻れない」
空に浮かぶ満月を見上げながら、そっと溜息をつく。
「なぁ、月……俺は朝がきてほしくないんだ。頼むからずっとそこにいてくれ……」
俺は自分に言い聞かせるようにそう呟いた。
そんな俺は、ひたすらに勉強することで外面を保っていた。本当の姿をひた隠しにし、模範的な生徒を演じ続ける。頼まれごとをされても決して嫌な顔はしないし、皆が嫌がる役だって率先して引き受けた。
ぎこちないかもしれないけれど、笑顔だって絶やしたことがない。
それに成績は常に学年トップだし、インターハイ常連の弓道部では部長を務め、今は生徒会長もしている。教師からの信頼も厚い。俺は、理想の優等生だった。ただ……。
「高梨君ってかっこいいのに話かけにくいよね」
「そうそう! 壁があるっていうか、完璧過ぎて住んでる世界が違うっていうか……」
「それに、なんかちょっと怖い」
聞こえてくる噂話。そんなものは慣れっこだし、もう何も感じることはない。あの時から俺の心は、完全に扉を締め切って鍵までかけてしまったのだ。もう、誰かに心を開くことなんてない。
今の俺は、いつも虚しかった。たくさんの肩書を持っているにも関わらず、心が満たされることはない。心にポッカリ穴が開いていて、風がスースーッと通り抜けて行くようだ。
「自分のことを誰も知らない世界へ行きたい」
何をしても満たされることのない思いが、さらに自分に壁を作らせた。
でも、俺は昔からこんな陰気な性格だったわけじゃない。高校一年生の時の出来事が俺自身を変えてしまった。あの日からずっと、優等生の仮面をつけて生きてきた。
そう……思い出すだけで胸が苦しくなる。高校一年の冬。あの冬の出来事が、人生を大きく変えてしまったのだ。
俺はキラキラしたものが苦手だ。
例えば煌びやかに輝くショーウィンドウや、ブランドのペアリング。大勢の人で賑わう週末のショッピングモールや、明らかにバーベキューをするために買い出しをしている男女のグループ……。
天気にしても、晴れた日より雨の日が好きだ。出掛ける必要もないし、家に引きこもっていたって罪悪感もない。雨戸を締め切って真っ暗な部屋で一日過ごすことができるなんて、神様からの贈り物としか思えない。逆に、雨が上がって雨露でキラキラと光る世界を見ると、眩しさにその世界から消えてしまいたくなる。
クラスにいる所謂陽キャになんて近付きたくもない。意味もわからず大声で笑って、「ウケるー!」「ヤバい!」など、おおよそ日本語とは思えない言葉でコミュニケーションをとっている。そんな馬鹿騒ぎを見るだけで、動悸がする。
だから俺は、図書館が好きだった。ひっそりと静かな図書館で、夢中になって本を読み漁った。一人で誰とも話さずに、いくらいたっていい。ズケズケと不躾に深入りしてくる人なんて、あの場所にはいない。雨や風の音を聞きながら、俺は本を読んで過ごした。
もちろん、昼よりも夜が好きだ。俺の両親は月の出る穏やかな夜のような人になってほしい……そんな思いを込めて『月臣』という名前をつけてくれたのに、いつからこんな陰気な性格になってしまったんだろう。
今の俺は、典型的な陰キャでありコミュ障だ。
「一度こっちの世界にきてしまったら、もう明るい世界になんて戻れない」
空に浮かぶ満月を見上げながら、そっと溜息をつく。
「なぁ、月……俺は朝がきてほしくないんだ。頼むからずっとそこにいてくれ……」
俺は自分に言い聞かせるようにそう呟いた。
そんな俺は、ひたすらに勉強することで外面を保っていた。本当の姿をひた隠しにし、模範的な生徒を演じ続ける。頼まれごとをされても決して嫌な顔はしないし、皆が嫌がる役だって率先して引き受けた。
ぎこちないかもしれないけれど、笑顔だって絶やしたことがない。
それに成績は常に学年トップだし、インターハイ常連の弓道部では部長を務め、今は生徒会長もしている。教師からの信頼も厚い。俺は、理想の優等生だった。ただ……。
「高梨君ってかっこいいのに話かけにくいよね」
「そうそう! 壁があるっていうか、完璧過ぎて住んでる世界が違うっていうか……」
「それに、なんかちょっと怖い」
聞こえてくる噂話。そんなものは慣れっこだし、もう何も感じることはない。あの時から俺の心は、完全に扉を締め切って鍵までかけてしまったのだ。もう、誰かに心を開くことなんてない。
今の俺は、いつも虚しかった。たくさんの肩書を持っているにも関わらず、心が満たされることはない。心にポッカリ穴が開いていて、風がスースーッと通り抜けて行くようだ。
「自分のことを誰も知らない世界へ行きたい」
何をしても満たされることのない思いが、さらに自分に壁を作らせた。
でも、俺は昔からこんな陰気な性格だったわけじゃない。高校一年生の時の出来事が俺自身を変えてしまった。あの日からずっと、優等生の仮面をつけて生きてきた。
そう……思い出すだけで胸が苦しくなる。高校一年の冬。あの冬の出来事が、人生を大きく変えてしまったのだ。