───なんて、のんきに考えてたのは俺だったかもしれない。
「は?」
7時55分。
目覚めにスマホを見て、その短い声をもらしたのは俺だった。
超寝坊だけど、問題はそこじゃない。
表示されているメッセージ。
『今後は片岡に関わらないようにする』
……意味わかんねえ。
『どういう意味?』
『寝坊したから? ごめん』
『もう学校?』
いくつ送っても付かない既読に、ますます混乱していく。
寝坊は謝るけど、原因はきっとそれじゃない。
それが地雷なら、とっくに3回くらいは絶交されてるはずだ。
超特急で歯だけ磨いて、寝ぐせもそのまま急いで家を出た。
「……いねー」
いつもの坂道に来たけど、黒瀬はいない。
7時57分。普段なら、黒瀬はぎりぎり待ってくれる時間だ。
先に行くんなら、チャットの1つくらいはさすがに入れるし。
それもない、ってことは。
「……なんなんだよ」
勝手かよ、あいつ。
もう知らねーかんな!
◇
「片岡。黒瀬ってどこにいる? 全然見つからないんだけど」
登校して早々、考えないようにしてた名前を山田に出されて、なんとも言えない気分になる。
「……知らねー。つかなんで俺に聞くんだよ」
「なんでって、お前がこの学年で一番黒瀬に詳しいだろ」
「……」
言われて、その言葉に違和感がない自分がいて悔しくなった。
それくらいずっと一緒にいた。
別にいなきゃ死ぬとか、そんなんじゃねーけど。
結局あいつといるのが何より楽しかったから、自然と暇さえあれば黒瀬のところに行っていた。
友達に順番とかはねーけど、たぶんずっと、あいつは特別な枠にいて。
黒瀬にとっても、そうなんじゃないか、とか思っていたのに。
「今日黒瀬、風邪で休みらしいぞ」
その言葉に、反射的に耳が反応する。
「まじか。珍しいな」
「あいつ低血圧のクール男子みたいな顔して、意外と健康的だよな」
「わかる」
喋ってる山田たちをよそに、勝手に頭の中で考え始める。
……黒瀬ってあんま、おばさんもおじさんも、家にいねーんだよな。
スマホを取り出して、黒瀬のトークルームを開く。
『熱何度』『今ひとり?』
文字を入力して、送信せずに削除した。
……あー、くそ。やめだ、やめ。
返さねーのあいつの方だし。
別に体調崩してようが、どうせ俺には心配されたくないんだろうし!
半分不貞腐れて、スマホをしまう。
明日にはどうせ来るだろうし。
そしたらさすがに顔くらい合わせるタイミングあるだろ。
───って、思ってたら。
「……え、今日もいねーの?」
「うん、まだ風邪が続いてるって、先生が……」
翌日、6限終わり。
黒瀬の教室に行ったら、また休みだった。
スマホを確認する。
相変わらず、メッセージは未読。
……無視じゃなくて、ぶっ倒れてるとかじゃねーよな。
「……片岡くん?」
「あ、悪い。サンキュー、助かった」
教えてくれた生徒にお礼を言って、自分の教室に向かう。
別に、あいつが倒れようが何しようが、俺には関係………………。
「……っあーー、くそ!」
あの世話の焼ける漁師め!!