───なんて、のんきに考えてたのは俺だったかもしれない。


「は?」


7時55分。
目覚めにスマホを見て、その短い声をもらしたのは俺だった。

超寝坊だけど、問題はそこじゃない。

表示されているメッセージ。


『今後は片岡に関わらないようにする』


……意味わかんねえ。


『どういう意味?』
『寝坊したから? ごめん』
『もう学校?』


いくつ送っても付かない既読に、ますます混乱していく。

寝坊は謝るけど、原因はきっとそれじゃない。
それが地雷なら、とっくに3回くらいは絶交されてるはずだ。

超特急で歯だけ磨いて、寝ぐせもそのまま急いで家を出た。


「……いねー」


いつもの坂道に来たけど、黒瀬はいない。

7時57分。普段なら、黒瀬はぎりぎり待ってくれる時間だ。
先に行くんなら、チャットの1つくらいはさすがに入れるし。

それもない、ってことは。


「……なんなんだよ」


勝手かよ、あいつ。

もう知らねーかんな!







「片岡。黒瀬ってどこにいる? 全然見つからないんだけど」


登校して早々、考えないようにしてた名前を山田に出されて、なんとも言えない気分になる。


「……知らねー。つかなんで俺に聞くんだよ」

「なんでって、お前がこの学年で一番黒瀬に詳しいだろ」

「……」


言われて、その言葉に違和感がない自分がいて悔しくなった。

それくらいずっと一緒にいた。
別にいなきゃ死ぬとか、そんなんじゃねーけど。

結局あいつといるのが何より楽しかったから、自然と暇さえあれば黒瀬のところに行っていた。

友達に順番とかはねーけど、たぶんずっと、あいつは特別な枠にいて。
黒瀬にとっても、そうなんじゃないか、とか思っていたのに。


「今日黒瀬、風邪で休みらしいぞ」


その言葉に、反射的に耳が反応する。


「まじか。珍しいな」

「あいつ低血圧のクール男子みたいな顔して、意外と健康的だよな」

「わかる」


喋ってる山田たちをよそに、勝手に頭の中で考え始める。
……黒瀬ってあんま、おばさんもおじさんも、家にいねーんだよな。

スマホを取り出して、黒瀬のトークルームを開く。
『熱何度』『今ひとり?』

文字を入力して、送信せずに削除した。

……あー、くそ。やめだ、やめ。

返さねーのあいつの方だし。
別に体調崩してようが、どうせ俺には心配されたくないんだろうし!

半分不貞腐れて、スマホをしまう。

明日にはどうせ来るだろうし。
そしたらさすがに顔くらい合わせるタイミングあるだろ。

───って、思ってたら。


「……え、今日もいねーの?」

「うん、まだ風邪が続いてるって、先生が……」


翌日、6限終わり。
黒瀬の教室に行ったら、また休みだった。

スマホを確認する。
相変わらず、メッセージは未読。

……無視じゃなくて、ぶっ倒れてるとかじゃねーよな。


「……片岡くん?」

「あ、悪い。サンキュー、助かった」


教えてくれた生徒にお礼を言って、自分の教室に向かう。

別に、あいつが倒れようが何しようが、俺には関係………………。


「……っあーー、くそ!」


あの世話の焼ける漁師め!!