黒瀬と出会ってからちょうど一年。

今年の体育祭まで、残り一週間になった。


「何してんの、お前」


放課後、教室。

昔を思い出しながら、小さな紙を折りながらちまちま作業してたら、聞きなれた声が聞こえてきた。


「はっ、黒瀬? 帰ってなかったのかよ」

「委員会長引いた。……紙?」


俺の手元をのぞいてから、隣の席に座る黒瀬。


「お。そー、これな。青春の準備!」

「は?」

「楽しそうだろ。まあ座れって」

「もう座ってる」


まったく、つれないやつだ。
でもいつも、最後まで話を聞くんだよな。

もしかしてツンデレなのか? こいつ。


「リストあってさー、この中のやつ全部書いて折るんだって。毎年こんなのやってんのすげーよな」


指さした先にあるのは、机の上中に広がった小さな紙。
普通の折り紙の4分の1くらいのそれが、計40枚くらいある。

適当に一つを手に取って、黒瀬に見せた。
書かれているのは『メガネ』の文字。


「メガネくらいならいいけど、これとか引いたら大変だよな。"スマホ"なんて貸してくれんの親くらいじゃね?」

「……借り物競争?」

「そ、引くやつ。実行委員のやつが死にそうな顔してたから奪ってきた」


去年、アンカーの代償に諦めた借り物競争。
ようやくできると思ったら楽しみだったし、なんか楽しいところだけ味わうのも気分悪いし。

にしてもほんとに時間かかんな、これ。あと一週間で終わるのか?


「……」

「黒瀬?」


机の上の束を、無言で手に取る黒瀬。

カバンからペンケースを取り出して、すっと手を伸ばしてくる。


「リスト、送って」

「え。手伝ってくれんの?」

「半分までな」


言いつつ、黒瀬が取った紙の量は俺よりたぶんすこし多い。

なんだよ。すげえ優しいな、こいつ。


「おまえ……あぶねーな、惚れるところだっただろ」

「───」

「黒瀬って意外とあれだよな、モテるの分かるっつーか。一見とっつきにくいけどさ、めちゃくちゃ優しいじゃん。おまえに好きになられる奴、すげえ幸せだろうなって思うわ」

「…………」

「あ。なあ、好きなタイプとか───」


ガタ。俺の声をさえぎって、黒瀬が椅子から立ち上がる。


「黒瀬?」

「……」


何を考えてるか分からない、いつもと変わらない表情。
線のシュッとした顔立ち。

けど、ぶつかった視線が、強い。


「───俺と身長、近いやつ」

「……はっ?」

「……忘れ物取ってくる」


聞き返す俺の言葉はスルーして、教室を出ていく黒瀬。
……身長? 高いやつ? なんだそれ。タイプの話か?

いや、いないだろ、そんな女子。つか男でもあんまいねーじゃん。
あいつの身近な人間にそんなの、それこそ俺しか……。


「……わっかんねえやつ……」