アメがいなくなった、と連絡をしたら、昇くんは飛んで駆け付けてくれた。
 昇くんはアメの写真入りのポスターを作ってくれて、スーパーやアメが通っていた動物病院にも貼った。もしかしたら、元の飼い主のところへ帰ったのかもしれない。でも、もし外で迷子になっていて、困っていたら。お腹を空かせていたら。ケガをしていたら。考えれば考えるほど、私は毎晩眠れなかった。眠れない夜は、ひとり懐中電灯を持ってアメを探した。それでもアメは見つからなかった。

「アメは見つかりましたか?」

 4月になってすぐ、昇くんは気まずそうにうちを訪ねて来た。
 私は無言で首を振る。

「コーヒー、飲む?」

 アメがいない毎日は、驚くほどつまらなかった。この数か月の間で、私の中でアメの存在は大きくなっていた。今更、アメのいないせい生活になんて戻れない。

「あの……この間のことなんですが」

 昇くんは重々しく口を開いた。

「僕はとんでもないことをしてしまいました。取り返しのつかないようなことを……」

 そう言ってすぐに首を振って「違うんです」と言葉を続けた。

「僕の気持ちに嘘はないんです。ただ、気持ちを押し付けるようなことを言ってしまったなって……」
「大丈夫」

 私は昇くんにコーヒーを出して、向かい合って座った。

「いろんなことがたくさん起こった後だし……とにかく、私に気を使わなくて大丈夫。私たちの関係は、そんなに簡単には壊れたりしないでしょ」
「そうだと……いいんですが」

 昇くんの顔を見ていると、やっぱりどこかあーちゃんに似ていて、いろいろ思い出してしまう。あーちゃんがそばにいてくれたら、どんなによかっただろうと、どうしようもないことばかり考えてしまう。

「私ね、時々思うの。私が10代だった頃は、20歳になったらうんと大人になれると思ってた。でも、実際に20歳になっても、ちっとも大人じゃなくて、毎日毎日自分が思う大人に近づこうと必死だった。ちゃんとした会社に勤めて、結婚できる人を見つけようって思ってた。だけど30歳になって、それでもまだ思うような大人になれなくて」

 いったん言葉を切り、コーヒーを飲む。やっぱりここのコーヒーが一番おいしい。あーちゃんの言う通りだ。

「でもね、さすがに40歳になったら大人でしょ、って思ってた。それがまだ、こんな感じ。仕事も辞めたし。うまくいくかもわからないお店にお金を使ってさ」

 私は笑いを堪えながら言った。

「え、もしかしてきょう、誕生日……ですか?」
「そうなの」

 そう、私はきょう、ついに40歳になった。

「プレゼント、なにも用意してなかったです、すみません」
「いや、いらないよプレゼントなんて。欲しいものはなにもないし」

 本当に、欲しいものはなにもない。ただできることなら、もう一度あーちゃんに会いたい。そして、アメとまた一緒に暮らしたい。それは決して、誰かにプレゼントしてもらえるようなものじゃなかった。

「40歳になってもこんな感じでしょ。それでようやくわかったの。私が何歳まで生きられるかわからないけど、たぶん一生こんな感じなんだろうなって」
「どんな40歳を想像していました?」
「え? うーん、そうだなぁ」

 結婚していて、子どももある程度大きくなっていて、一軒家を持っていて。少し前まではそんな未来に憧れていたと思う。でも、今は違和感がある。その人生は、誰か知らない人の人生だ。私の人生ではない。

「前は結婚して、子どもを持って、家を買って。私なりの普通の40歳を想像してた。だけど、つまらないかもしれないって今は思える」
「僕も、まさか離婚してバツイチになる34歳の自分なんて、最初から想像できませんでしたよ。そういう不幸な未来は想像したくないですし」
「いいことも悪いことも、全部予想を裏切るのが人生ってことかな?」
「そういうことですね」
 
 ふふ、と私たちは笑って、コーヒーを飲んだ。

「私たち、きっと小さい頃からあんまり変わってないね」
「そうかもしれませんね」
「だから、これからも時々、私とコーヒーを飲んでシフォンケーキを食べてくれると嬉しいな。それが誕生日の欲しいもの」

 昇くんは、下唇をちょっとだけ噛んで「はい」と強く頷いた。

 アメのことを教えてくれたのは、貸店舗の真野さんだった。

「この猫、探してるの?」

 店舗にも張り紙をしておいたので、それを見た真野さんがわざわざ電話をくれた。

「はい。実はずっと探しているんですが見つからなくて……」
「この貸店舗の持ち主は、この近くの長谷川さんっていう方なんですけどね。そこの家に背中にハート模様のある猫がいるんだよ」

 早速私は住所を教えてもらい、長谷川さんの家を訪ねた。

「あの、すみません」

 大きな家だった。真野さんの話では、今はおばあちゃんひとりで住んでいるそうで、旦那さんは有名な陶芸家だったらしい。もう使われていないレンガの煙突が見えた。

「はぁい」

 中から声がする。よいしょ、と足音が近づいてきた。

「はいはい、どちら様でしょうか」
「あ、あの、実は、こちらに背中にハート模様がついた猫がいると聞いてきたんですが」
「ああ、タマのこと?」

 タマー、と長谷川さんが呼ぶ。そうか、アメはタマという名前でここで大切にされていたんだ。

「タマ、どうしたんだい? おかしいねぇ、いつもは呼んだらすぐに来るんだけど」

 そう言って、長谷川さんはタマを探しに部屋の中へ戻る。
 玄関には綺麗な陶器のお皿が飾られていて、ついじっと見入ってしまった。これは、長谷川さんの旦那さんが作ったものだろうか。

「あれ、タマ? 外にいるのかなぁ」

 奥からタマを探す声がする。

「ごめんねぇ、家の中には見当たらないわ。タマがどうかした?」

 また玄関に戻って来た長谷川さんに、私は言葉を詰まらせる。なんて伝えればいいのか。私は迷子だったアメーータマを世話していただけで、本当の飼い主は長谷川さんだ。返してくださいとは言えない。それに、姿を見ていないから本当に私が探している猫がタマなのかもわからない。

「えっと……タマは、最近まで家に帰ってなかったですか?」
「え? そうね、確かに数か月ちょっといなかったねぇ。どこへ行っていたのやら」

 その言葉を聞いて確信する。おそらく、その猫で間違いない。

「……実は、私の家でずっと暮らしていたんです。6月頃に保護してからずっと、うちの猫としてお世話してきました」

 私の声が聞こえたからか、奥の部屋からアメがそっと姿を見せた。私は思わずアメを見る。
 長谷川さんは「そうでしたか、ありがとうございました」と頭を下げた。

「いえ、全然です。むしろ、一緒に暮らせて本当に楽しくって……」

 私は一度深呼吸した。まず、長谷川さんに謝らなくてはならない。ちゃんと。

「もしかしたら家族がいるんじゃないかって思っていたのに、探しませんでした。本当に、すみませんでした」
「いいえ、そんなこと謝らないで」

 長谷川さんは笑って首を振った。

「きょうはその……お願いがあってきました」
「お願い?」

 首を傾げる長谷川さん。

「大変失礼なこととは思いますが、どうか、私にあの子を譲っていただけませんか?」
「……え?」
「大事な家族を譲ってほしいなんて、本当に失礼な話ですよね。すみません。でも、あの子は私のかけがえのない家族になったんです」

 私はとっさに頭を下げた。大事な飼い猫を、譲ってくれるだろうか。きっと無理な頼み事だろう。長谷川さんも「え、でも……」と困っているのが伝わった。

「どうか、私に、あの子のこれから先の時間、お世話をせてもらえないでしょうか」

 奥からそろりそろりとやって来たアメが、私を見上げている。目が合った。

「そう言ってるけど、タマはどうしたい?」

 長谷川さんはアメを優しく撫でる。

「あんたが決めていいんだよ」
「にゃあー」

 アメは私の足元にすり寄る。私は泣くのを必死に堪えて、アメを抱き上げた。
 いいのかな、私で。だけど私、一生懸命頑張るから。どんなに食にこだわって猫の餌を食べてくれなくても、私は頑張って毎日ご飯を作るから。だから、一緒にいてほしいな。

「あなたに飼われることが、この子の幸せだよ」

 長谷川さんが私の腕の中に納まるアメの頭をポンポンと撫でた。

「どうか、大事にしてやってください」

 私は泣くのを堪えたせいで、今にも消え入りそうな小さな声で「はい」と答えるのが精いっぱいだった。

 うちの猫のアメことアーちゃんは、シフォンケーキにうるさい。
 初めて家へやって来た日、アメはあーちゃんの生クリームの謎を解いた。私にはあーちゃんがいつも作ってくれる生クリームになにを隠し味として入れているのか、何度食べてもわからなかったのに。私が初めてシフォンケーキを焼いた日は、卵を割るところからオーブンに入れるまで、ずっとそばでうるさくにゃーにゃー鳴いていた。キッチンに登り、ハンドミキサーを握る私の手を引っ掻いたり、卵黄生地とメレンゲを混ぜるときは猫パンチをし、それはそれは本当にうるさかった。まるで、シフォンケーキの作り方を知っているみたいに。

 ここ数日は毎日お店の方へ行って、1日中作業をしていた。きょうも朝から店にこもっている。4月中にお店を始めるために必要なものは、すべて順調に揃えた。店内の壁紙も自分で張り替えて、途中足りなくなって追加で注文したものがなかなか届かず、継ぎ接ぎだらけの壁になってしまうのかと怖かったけれど、なんとか届いて張り替えることができた。
 17センチの型からは8個にシフォンケーキを切り分けられる。テイクアウト用のシフォンケーキは透明のフィルムで包み、ラベルシールとお店のロゴシールを貼る。店内に入ってすぐのところに陳列して、その奥に和室と洋室がそれぞれ6畳ずつあるイートインスペースを。イートインでは生クリームと季節の果物がついたプレートのシフォンケーキが食べられる。希望があればドリンクセットでコーヒーと紅茶も楽しめる。一軒家が店舗仕様に改装されているので、キッチンは店内、イートインスペースと仕切られていている。大きな作業台を買い、冷蔵庫とオーブンも揃えた。冷蔵庫もオーブンも家庭用ではあるが、今のところはそれで十分だ。オーブンはやはり使い慣れたものがいいと思い、うちにあるあーちゃんが使っていたオーブンと同じものを3台購入した。3台あれば順番に焼いていくことができる。レトロだけど、どこか友達の家へ行ったみたいになれる、そんな店内を目指した。実際は、あーちゃんの部屋をイメージして作った。観葉植物や多肉植物を置き、あーちゃんが好きだった常滑焼のお皿やカップやソーサーを集めた。あーちゃんがやりたかったシフォンケーキの店とはきっと、違うと思う。でも、あーちゃんでいっぱいのお店にしたつもりだ。
 お店のホームページも作ってもらって(これが結構お金がかかった)、地域密着情報誌に掲載してもらえるようお願いしたし、この辺りの家にオープンする広告を投函してもらっている。やきもの散歩道から近いけれど、気づかない人も多そうだから、宣伝が必要だ。SNSも慣れないながらも初めてみた。

「うちの猫はシフォンケーキにうるさい……?」

 声がして振り返ると、昇くんがお花を持って立っていた。

「あれ、どうしたの?」
「すみません、突然。オープン記念には仕事で行けそうになかったので、一足早く見に来てしまいました」
「そうだったんだ。どうぞどうぞ」

 昇くんは手に持った花束をくれた。

「大したものではないです」
「ありがとう」

 ビタミンカラーの小さな花束は、元気をいっぱいもらえそうだ。

「お店の名前、変わってますね」
「……変、かな?」
「え? いえ、そんなことはないですよ。面白いと思います。あのアメちゃんのことですか?」

 私は笑って頷いた。

「そういえば、昇くんは昔から工作が得意だったよね?」
「まあ、人並みですけど」
「ちょっと作ってほしいものがあるの。お願い、してもいいかな?」
「も、もちろんですよ!」

 昇くんはちょっと前のめりになって、頬を赤く染めた。

「これなんだけどね……」

 私はスマホから一枚の写真を見せて、説明した。なるほど、なるほど、と昇くんは頭の中でイメージを膨らませているように見える。

「どう? できそう?」
「たぶん、すぐ作れますよ。任せてください」
「ありがとう!」

 そうだ、せっかく来てくれたんだから、新作のシフォンケーキを味見してもらおう。

「よかったら、シフォンケーキ食べていく?」
「はい、ぜひ」

 私は店の冷蔵庫に入れてあった試作用の紅茶のシフォンケーキを取り出し、切り分ける。
 アールグレイの紅茶を煮出し、レモンのチョコチップを混ぜたシフォンケーキだ。紅茶とレモンの香りがなかなかマッチしていた。
 よし、これは定番商品になりそうな予感。

「紅茶も飲む?」
「はい、ありがとうございます」

 お店に出すように、私はお皿にシフォンケーキを乗せ、生クリームをトッピングする。生クリームの上にさくらんぼを乗せた。なかなかかわいらしい。

「わぁ、すごいおしゃれですね!」

 昇くんはプレートを見るなり目を輝かせる。

「ほんと? いい感じかな?」
「はい! これは人気店になりますよ!」

 大げさに褒めてくれたのだろう。だけど、少しも悪い気分はしなかった。
 もうすぐお店が開店する。ということはつまり、あーちゃんの誕生日が近いということだ。

「今でも毎日、あーちゃんに会いたくなる」

 私が独り言のように言うと、昇くんも「僕もです」と頷いた。

「人は死んだら、僕たち生きている者が知らない場所で楽しく暮らしているって、考えるようにしてます。そうすれば姉は死んだんじゃなくて、どこか遠い場所にいて、いつか僕の人生が終わったらそこで再会できる。そう思うと、ちょっとは気分がよくなるんです」

 バカみたいですよね、と弱々しく笑う。

「そんなことないよ。私はね、生まれ変わりを信じてる。昔からね」
「生まれ変わりですか」
「もし生まれ変われるなら、姿形は違うかもしれないけど、再会できる可能性があるって。きっとあーちゃんなら、私は気づけるんじゃないかなって。自分や大切な人が消えてしまうって考えるだけで、悲しいし寂しいから、そんなことを考えちゃうんだよね」
「死んだらなにもなくなるかもしれないって考えただけで、僕も怖くなります。小さい頃、死んだらどうなるのかなって考えて眠れなかったみたいに、怖くなっちゃうんですよね」

 昇くんは紅茶を飲んで、ふぅと息をつく。

「だけど、僕は夕美さんのシフォンケーキを食べると、不思議と姉に会ったみたいな気分になるんです。だから、僕にとってここはこれから唯一姉に会える場所になるんです」

 昇くんはシフォンケーキを食べて「うん、おいしいです」と微笑んだ。

「シフォンケーキの店を開いてくださって、ありがとうございます」

 誰かにシフォンケーキを食べてもらって、笑顔になってもらえる。それは私にとって、最高の幸せになっていた。
 人生はうまくいかないこともある。どんなに頑張っても、努力は必ず報われるわけではない。日々の些細な出来事に落ち込んだり、悲しくなることだってある。生きていれば、誰にだってそういう日がある。私はそんなとき、あーちゃんにおいしいシフォンケーキを食べさせてもらっていた。そうすれば、いつも元気になれた。自分らしく、また過ごせるようになった。だから今度は、私がみんなにシフォンケーキを焼く。これを食べれば、きっとあしたもまた自分らしく過ごせるように。そんな願いを込めて、シフォンケーキを焼く。

「どういたしまして」

 その日の夜、さっそくもう頼んだものが完成したと昇くんからメッセージが届いた。写真付きのメッセージだった。私は嬉しくって、思わず電話をかけた。昇くんは電話越しでもわかりやすく照れているようだった。

 5月28日。その日は少し汗ばむくらいの陽気だった。私は開店日にアメを一緒に連れて行った。
 お店の前には立派な看板。黒い外装のため、白い看板はとても目立つ。猫の足跡がついた看板はかわいかった。
 店舗の入り口すぐ横に、小さな小屋がある。これが昇くんに頼んで作ってもらったものだった。そう、アメの小屋だ。
 赤い屋根の小さな小屋には店主と書かれた表札がちゃんとついている。この店の店主は、私ではない。シフォンケーキにうるさいアメだ。

「にゃー」

 小屋の前に座り、私を見上げて鳴く。アメは不思議だ。ちゃんと私の言葉が理解できている気がする。
 シフォンケーキの作り方も知っているみたいだし、生クリームの謎も解いた。猫なんて飼ったことがないのに、一緒にいるとずっと前から知っていたみたいな安心感がある。あーちゃんみたいな、安心感が。

「……もしかして、あーちゃん?」
「にゃあ」

 そんなはず、ないよね。
 私は笑ってアメを撫でた。
 髪をまとめて帽子をかぶり、エプロンをつけた。エプロンのポケットには、昇くんからもらったアメにそっくりな猫のブローチをつけておいた。シフォンケーキはあらかじめカットして、テイクアウト用の分を包む。ラベルシールを貼って、猫のイラストがついたうちの店のロゴシールも貼る。きょうのシフォンケーキは、プレーンシフォンケーキ、紅茶シフォンケーキ、抹茶シフォンケーキの3種類。いよいよ、お店が開店する。
 外に出て「営業中」の看板を出した。店の外にはもう、お客さんが来てくれている。

「ゆうちゃん」
「あれ、光希」

 隣にいるのは写真で見た恋人だ。

「来てくれたの?」
「行くって言っただろ。えっと、俺の叔母さん。彼女は未来(みく)
「初めまして。この間はおいしい焼菓子をありがとう」

 未来ちゃんはいえ、と首を振って「おいしいシフォンケーキをありがとうございました」と礼を言った。

「すみません、シフォンケーキを食べていきたいんですけど」

 店内でお客さんの声がする。

「あ、はーい! ありがとうございます!」

 後でまた話し聞かせてね、と光希と未来ちゃんに伝えるとすぐに注文を取った。
 おいしいね、と話しながら食べるお客さんの声に、初日の緊張は少しずつほぐれていった。

「お店の外にいる猫ちゃん、店主さん? かわいいわねぇ」と何人かのお客さんに褒められた。「おとなしいね、ちゃんと外でお店を見てるのよ」とお客さんたちはアメを撫でたり、一緒に写真を撮ったりしている。アメはすっかりうちの店の人気者だ。

 誰も来ないかもしれない、なんて考えていたけれど、ありがたいことにその日は全商品が完売した。
 お店は11時開店で19時には閉店。薄暗くなってきた外に出て、看板をしまうと「にゃあ」と声がした。

「アーちゃん、お疲れ様。あしたもまた、よろしくね」
「にゃあー」

 アメはちゃんと返事をして、それから一緒に家に帰った。
 綺麗な月が見えた夜。私とアメは、出窓から月を見ながらシフォンケーキを食べた。きょうは特別な日だ。あーちゃんの誕生日で、お店の開店記念日。これからもずっと、大切な日に違いない。

 シフォンケーキ専門店「うちの猫はシフォンケーキにうるさい」はきょうも元気に営業中。
 もっちりふわふわなシフォンケーキは、店主の猫アメがこだわりぬいた天下一品。
 一口食べればきっと、疲れた心と身体を癒し、あしたもまた元気に自分らしく過ごすことができる。

「いらっしゃいませ!」
「にゃあ!」