大学4年、12月。今日は雪が降っている。トレンチコートを着ながら、大学内を散歩してる。だって、空きコマで時間あるし。でも、余裕はなかった。何でかって言うと。
俺は、まだ、内定が決まっていなかった、から。
葉っぱがごっそりなくなったイチョウの木が並んでいる。そこを、トコトコと歩くと、小さな広場に出る。その小さな広場から少し歩くと、キャリア支援室があるんだけど、今日は、何となく行く気にならない。テストとか、そう言うのは得意なんだけど、面接とか、誰かと喋るってなると途端に苦手意識が芽生える。
ゆきとPもいた名門校、日本音楽芸術大学に入れたらアーティストになれる、とか、就職になったら将来安泰、なんて思っていたのに、もう、50社からお祈りメールをもらった。もう、心が痛くて痛くて。
はあ、内定欲しいなー。
このままだと、路頭に迷ってしまうな……。
中学の頃に夢見ていた、歌い手。あのまま続けて、最近登録者が3000人を超えたところ。増えたけど、もちろん、それだけではやっていけない。
でも。
この4年間で、俺は。
誰よりも、努力をした。
成績は、音楽経験がないにも関わらず、ほとんどが最高評価のSだった。
なのに。
仕事に繋げる活動は、全然上手く行かなかった。
日本音楽芸術大学は、すごく大きな大学で、たくさんの講義棟が立ち並ぶ。その中の、真ん中に、小さな広場がある。そこに着いたから、3つ並んでいるベンチの一つに座る。2つは、もう仲良さそうな人たちで埋まっていたから。……4年生になると、大学で友達もあんまり見かけなくなる。でも、キャリア支援室に今日は呼び出されたから、来たんだけど、行きたくねえなー。15:00〜15:30の間に来いって言われたから、今15:10でしょー、まあ、15:29に行けばいいかな、てかさみー。冬だなー、本当に。手袋忘れたし、マジで地獄だわ……。
……あれ? ブルパミが1ヶ月前に動画出してる。
BLUE PERMISSIONは、ボーカルが電撃引退して以降活動休止していたんだけれど。
何で、動画出してるんだろ。
どんな内容だろうか。
再生ボタンを押した。
「BLUE PERMISSIONのベースのKENJIです」
「ギターのYOHEIです」
「ドラムのRYUJIです、たくさん考えて、その結果、新ボーカルを募集することが決まりました!」
……え!?
概要欄を見た。
URLが貼ってある。
「ブルパミの新ボーカル募集! 一次選考は歌動画と指定の履歴書! 履歴書には横から見た写真と前から見た写真を貼るところがありますので、それを貼ってください。 歌動画は、カラオケボックスなどで歌った動画を、送ってください。課題曲は、LIMIT BREAKOUT。それを通過された方は、オーディション会場で直接LIMIT BREAKOUTを歌っていただきます。締め切りは、12月26日」
マジか! 明日までじゃん!
リミブレって言ったら、俺が中学の頃の修学旅行で歌った曲じゃん!
……歌い手も成功しなかったし。
でも、この大学で、俺は優等生だったんだ。
『……それでもさ、無理だって思ってもさ、やってみたら、ワクワクできるかな』
俺は、大学が終わった後すぐにカラオケボックスに向かった。
スマホをマイク入れるかごに立てて、リミブレを歌った。
その後すぐに美容室に行って、髪をかっこよくセットしてもらって、それを撮影して履歴書の写真にした。
「それで、就職先はどうするんですか。もう、卒業まで間近ですよ。求人、いっぱい来てますから……」
携帯が、鳴った。
「あ、すみません」
「あ、はいどうぞ」
「お電話ありがとうございます、日本音楽芸術大学の岩田隆斗と申します」
「あ、隆斗くんですか?BLUE PERMISSIONのKENJIです」
「え! KENJIさんですか?」
「はい、そうです。隆斗くんは、オーディションに是非来てほしいってことになりましたので、今から言う住所に来てくださいね……」
え!
受かった!
書類、受かった!
「はい、はい、ありがとうございます、失礼します……」
「……何の電話ですか?」
「あの! 僕の進路、音楽関係になりそうです!失礼します!」
「あ、ちょっと!」
キャリア支援室なんて来てる場合じゃねえ! こうなったら、すぐにでもカラオケで歌の練習をしなきゃ!
この、ビルか。
30階建てのビルの、15階。
音楽室に集められた、7人の候補者たち。
俺の出番は最後だった。
とても緊張する……。
「では、次の方ー。」
俺は、思いっきり歌った。
そして、最後の3人にまで残った。
そこからは、面接だった。
俺は、また、最後に呼ばれた。
面接官は、KENJIさん、 YOHEIさん、RYUJIさんの3人だった。
「隆斗くんは、日本音芸を出てるの? あ、しかも秋楽園高校から。めっちゃ成績いいじゃん」
「そうなんです、秋楽園から日本音芸に入った太刀です!」
「何で日本音芸に入ったの?」
「えっと、冬月さんみたいになりたかったからです!」
「あー! 歌い手の! いいよね、冬月くん。めっちゃ歌上手いし」
「いいですよね! 特に、色んな声を使い分けるところがすごく好きで……」
茶髪のギターのYOHEIさんが、言ってくれた。
「よしっ。君を、うちのバンドに歓迎しよう」
「本当ですか!?」
「ああ。本当さ」
これで。
たくさんの人に。
俺の、歌声を。
俺の、思いを。
届けられる……!
8月を迎えた。
4万人が集まる青空の下での夏フェス。
俺はそこで、初舞台を迎えることになる。
出番は、冬月さんの次。
冬月さんは、野外フェスで顔が出てしまうから、マスクにサングラスで一気に歌い切った。
その後、調整をして俺たちBLUE PERMISSIONの番が来る。
ブルパミは、いつも、ギター、ベース、ドラムが先に登場し、最後にボーカルが走って登場をする。
3人が、先に舞台に上がる。
やばい。
緊張する。
古株ファンに、新ボーカルとして受け入れられてない感じは、SNSとかで何となく感じ取っていた。
初舞台。
うまく行くかな。
みんな、受け入れてくれるかな。
大丈夫かな。
登場、しなきゃ。
……あれ。
やばい。
足が。
すくんで。
動か……ない……。
あれ。
行かなきゃ、いけないのに。
緊張して。
動けない……!
どうしよう!
一曲目のイントロがループして流れている。
手拍子もだんだん大きくなってきてる。
なのに、足が。
足が……!
「頑張れ」
後ろから、声が聞こえた。
振り向くと。
冬月だった。
……そっか。
キャリア一年目の俺にとって冬月は、俊太は、めちゃくちゃ先輩!
こういう舞台には、慣れてるんだ……!
俊太なのに……!
くっそー!
でも、俊太の方が、俺より、圧倒的に上なのはわかってるから……!
うわぁぁぁ。
うわぁぁぁぁぁぁ!
悔しいいいいいいいい!
めっちゃ悔しいいいいいいい!
悔しい!
悔しいいいいいいいいい!
悔しすぎる!
悔しすぎて、どうにかなっちゃいそう!
やばい!
心臓の鼓動が鳴り止まない!
悔しいいいいいいいいいいいいい!
ギュッとマイクを握り締め、俺は。
全速力でステージへと駆け上がった。
4万人が、「ワァァァァァ」と声をあげる!
下半分は、4万人の大観衆、全員、俺の方を向いている。
「お前らぁ! これまでに、ちょー悔しい、スッゲー悔しいことがあったかもしれねえ! ズタボロにされた夢だって、あるかもしれねえ!」
そして、上半分は。透き通った、青い、空。
「でも! 今日のこの大きな空の青は! 全てを許して、受け入れてくれるさ! 聴いてくれ! LIMIT BREAKOUT!」
なあ、俊太。
俺は、お前が、元々、夢を追いかけるバカだったってことは知ってるよ。
そして、春高に出る夢を叶えた、バカだってことも、今は知ってるよ。
じゃあ、お前にとって。
お前にとって。
俺が、あれだけ夢に見た音楽の舞台って。
何なの。
夢でも、なんでもないの。
なあ、俊太。
俊太。
お前は、本当に。
音楽をしてて、楽しいの。
音楽が、好きなの?
一曲目が終わった。
舞台裏にいる、俊太のことが頭に浮かぶ。
俺は、まだ、内定が決まっていなかった、から。
葉っぱがごっそりなくなったイチョウの木が並んでいる。そこを、トコトコと歩くと、小さな広場に出る。その小さな広場から少し歩くと、キャリア支援室があるんだけど、今日は、何となく行く気にならない。テストとか、そう言うのは得意なんだけど、面接とか、誰かと喋るってなると途端に苦手意識が芽生える。
ゆきとPもいた名門校、日本音楽芸術大学に入れたらアーティストになれる、とか、就職になったら将来安泰、なんて思っていたのに、もう、50社からお祈りメールをもらった。もう、心が痛くて痛くて。
はあ、内定欲しいなー。
このままだと、路頭に迷ってしまうな……。
中学の頃に夢見ていた、歌い手。あのまま続けて、最近登録者が3000人を超えたところ。増えたけど、もちろん、それだけではやっていけない。
でも。
この4年間で、俺は。
誰よりも、努力をした。
成績は、音楽経験がないにも関わらず、ほとんどが最高評価のSだった。
なのに。
仕事に繋げる活動は、全然上手く行かなかった。
日本音楽芸術大学は、すごく大きな大学で、たくさんの講義棟が立ち並ぶ。その中の、真ん中に、小さな広場がある。そこに着いたから、3つ並んでいるベンチの一つに座る。2つは、もう仲良さそうな人たちで埋まっていたから。……4年生になると、大学で友達もあんまり見かけなくなる。でも、キャリア支援室に今日は呼び出されたから、来たんだけど、行きたくねえなー。15:00〜15:30の間に来いって言われたから、今15:10でしょー、まあ、15:29に行けばいいかな、てかさみー。冬だなー、本当に。手袋忘れたし、マジで地獄だわ……。
……あれ? ブルパミが1ヶ月前に動画出してる。
BLUE PERMISSIONは、ボーカルが電撃引退して以降活動休止していたんだけれど。
何で、動画出してるんだろ。
どんな内容だろうか。
再生ボタンを押した。
「BLUE PERMISSIONのベースのKENJIです」
「ギターのYOHEIです」
「ドラムのRYUJIです、たくさん考えて、その結果、新ボーカルを募集することが決まりました!」
……え!?
概要欄を見た。
URLが貼ってある。
「ブルパミの新ボーカル募集! 一次選考は歌動画と指定の履歴書! 履歴書には横から見た写真と前から見た写真を貼るところがありますので、それを貼ってください。 歌動画は、カラオケボックスなどで歌った動画を、送ってください。課題曲は、LIMIT BREAKOUT。それを通過された方は、オーディション会場で直接LIMIT BREAKOUTを歌っていただきます。締め切りは、12月26日」
マジか! 明日までじゃん!
リミブレって言ったら、俺が中学の頃の修学旅行で歌った曲じゃん!
……歌い手も成功しなかったし。
でも、この大学で、俺は優等生だったんだ。
『……それでもさ、無理だって思ってもさ、やってみたら、ワクワクできるかな』
俺は、大学が終わった後すぐにカラオケボックスに向かった。
スマホをマイク入れるかごに立てて、リミブレを歌った。
その後すぐに美容室に行って、髪をかっこよくセットしてもらって、それを撮影して履歴書の写真にした。
「それで、就職先はどうするんですか。もう、卒業まで間近ですよ。求人、いっぱい来てますから……」
携帯が、鳴った。
「あ、すみません」
「あ、はいどうぞ」
「お電話ありがとうございます、日本音楽芸術大学の岩田隆斗と申します」
「あ、隆斗くんですか?BLUE PERMISSIONのKENJIです」
「え! KENJIさんですか?」
「はい、そうです。隆斗くんは、オーディションに是非来てほしいってことになりましたので、今から言う住所に来てくださいね……」
え!
受かった!
書類、受かった!
「はい、はい、ありがとうございます、失礼します……」
「……何の電話ですか?」
「あの! 僕の進路、音楽関係になりそうです!失礼します!」
「あ、ちょっと!」
キャリア支援室なんて来てる場合じゃねえ! こうなったら、すぐにでもカラオケで歌の練習をしなきゃ!
この、ビルか。
30階建てのビルの、15階。
音楽室に集められた、7人の候補者たち。
俺の出番は最後だった。
とても緊張する……。
「では、次の方ー。」
俺は、思いっきり歌った。
そして、最後の3人にまで残った。
そこからは、面接だった。
俺は、また、最後に呼ばれた。
面接官は、KENJIさん、 YOHEIさん、RYUJIさんの3人だった。
「隆斗くんは、日本音芸を出てるの? あ、しかも秋楽園高校から。めっちゃ成績いいじゃん」
「そうなんです、秋楽園から日本音芸に入った太刀です!」
「何で日本音芸に入ったの?」
「えっと、冬月さんみたいになりたかったからです!」
「あー! 歌い手の! いいよね、冬月くん。めっちゃ歌上手いし」
「いいですよね! 特に、色んな声を使い分けるところがすごく好きで……」
茶髪のギターのYOHEIさんが、言ってくれた。
「よしっ。君を、うちのバンドに歓迎しよう」
「本当ですか!?」
「ああ。本当さ」
これで。
たくさんの人に。
俺の、歌声を。
俺の、思いを。
届けられる……!
8月を迎えた。
4万人が集まる青空の下での夏フェス。
俺はそこで、初舞台を迎えることになる。
出番は、冬月さんの次。
冬月さんは、野外フェスで顔が出てしまうから、マスクにサングラスで一気に歌い切った。
その後、調整をして俺たちBLUE PERMISSIONの番が来る。
ブルパミは、いつも、ギター、ベース、ドラムが先に登場し、最後にボーカルが走って登場をする。
3人が、先に舞台に上がる。
やばい。
緊張する。
古株ファンに、新ボーカルとして受け入れられてない感じは、SNSとかで何となく感じ取っていた。
初舞台。
うまく行くかな。
みんな、受け入れてくれるかな。
大丈夫かな。
登場、しなきゃ。
……あれ。
やばい。
足が。
すくんで。
動か……ない……。
あれ。
行かなきゃ、いけないのに。
緊張して。
動けない……!
どうしよう!
一曲目のイントロがループして流れている。
手拍子もだんだん大きくなってきてる。
なのに、足が。
足が……!
「頑張れ」
後ろから、声が聞こえた。
振り向くと。
冬月だった。
……そっか。
キャリア一年目の俺にとって冬月は、俊太は、めちゃくちゃ先輩!
こういう舞台には、慣れてるんだ……!
俊太なのに……!
くっそー!
でも、俊太の方が、俺より、圧倒的に上なのはわかってるから……!
うわぁぁぁ。
うわぁぁぁぁぁぁ!
悔しいいいいいいいい!
めっちゃ悔しいいいいいいい!
悔しい!
悔しいいいいいいいいい!
悔しすぎる!
悔しすぎて、どうにかなっちゃいそう!
やばい!
心臓の鼓動が鳴り止まない!
悔しいいいいいいいいいいいいい!
ギュッとマイクを握り締め、俺は。
全速力でステージへと駆け上がった。
4万人が、「ワァァァァァ」と声をあげる!
下半分は、4万人の大観衆、全員、俺の方を向いている。
「お前らぁ! これまでに、ちょー悔しい、スッゲー悔しいことがあったかもしれねえ! ズタボロにされた夢だって、あるかもしれねえ!」
そして、上半分は。透き通った、青い、空。
「でも! 今日のこの大きな空の青は! 全てを許して、受け入れてくれるさ! 聴いてくれ! LIMIT BREAKOUT!」
なあ、俊太。
俺は、お前が、元々、夢を追いかけるバカだったってことは知ってるよ。
そして、春高に出る夢を叶えた、バカだってことも、今は知ってるよ。
じゃあ、お前にとって。
お前にとって。
俺が、あれだけ夢に見た音楽の舞台って。
何なの。
夢でも、なんでもないの。
なあ、俊太。
俊太。
お前は、本当に。
音楽をしてて、楽しいの。
音楽が、好きなの?
一曲目が終わった。
舞台裏にいる、俊太のことが頭に浮かぶ。