高い場所にあるレールから、ジェットコースターがヒューと落ちていく。
どんどん加速をしていき、「キャー」とか叫び声がすげえ聞こえる。
その後、ドドドドド! と下の方をコースターが駆けていき、すごい勢いで、トンネルの中に突っ込んでいく。
こわそー……。
莉加と俊太がワクワクした顔でジェットコースターを見ている。
空気を壊さないように、そーっと、断らなければいけない気がする。
「俺絶叫系苦手なんだよねー」
その瞬間、莉加がふっと振り返り、への字に曲がった口を開く。
「えー、絶叫乗ろうよー」
次のコースターがゆっくりと登り始めた。
「よし、絶叫行くか!」
俊太がそう言ってジェットコースターの方に体を向ける。
次の便が、一番上までもう少しで辿り着く。おれの足は動かない。3人は、それが落ちるのをワクワクした顔で見つめる。どうしよう、ガチで無理だ。
後ろから、声優のような、太く、はっきりした声が聞こえた。
「君たち、次の冒険はどこへ向かうのだい?」
振り返ると、冒険家のような見た目のキャストさんが立っていた。
「えーとーお、あのアトラクションでーす!」
夢佳がそう言って指をさす。
瞬間、ジェットコースターが急降下を始めた!!
「「「「キャーーーーー!」」」」
声が聞こえてくる。
やばい。無理無理無理。
「わー、あの恐ろしいトロッコに乗るのですね! 皆さん。無事を祈ります!」
3人は、ジェットコースターに向けて歩み始める。が、俺の足は止まっている。
冒険家のお兄さんは、小さな声で言う。
「絶叫系、苦手なんですか」
「はい、どうしても苦手で……」
離れていく3人を見つめる。
コソコソ声で、お兄さんは話し始めた。
「乗りたくないけど、みんなと一緒にいたい。いいでしょう。僕が、絶叫系に乗れるようになる魔法の呪文を、教えましょう」
「魔法の呪文……」
みんなが離れていく。すれ違う他校の修学旅行生たちが、俺とお兄さんを見てくる。少し、悲しい感情が湧いてきた。
「魔法とか、素敵だけど、今はなんかそれじゃ解決できない……」
「ジェットコースターって、ジェットとか言ってますけど、その乗り物自体にエンジンとか付いてるわけじゃないんですよ。ただ、落ちてるんです」
お兄さんは全然おれの話を聞こうとしない。
「ジェットとか言ってますけどって、さっきあなたあれのことトロッコって……」
「じゃあ、『なぜ』落ちるのが怖いのか。それは、加速をするからです。落ちるものは、加速をしています。だから、落ちる瞬間と比べて、規格外に、予想外に速くなっていくスピードに、体はついていけても、内臓がうまくついていけなくて、浮いてしまう。その、浮いているキューって言う感じが、怖い。しかも、それが急に来るから怖いんですよ」
「はあ……加速、ですか。内臓……ちょっとグロいですね。」
お兄さんはニコッと笑う。
「じゃあ、怖くなくなる方法はなにか。それは、事前に、この後怖いよー、怖いのくるよー、って、自分にわからせてあげることです。自分ではわかっている。この後怖いのが来るってことを。でも、脳の中でも、『怖い』って感じる部分の脳は、それをわかっていないかもしれません。」
「無意識……」
「そう! 無意識! 自分では知っていても、無意識が、このあと怖いことが起こる、ってわかって準備できてないから、急にすごく怖いんですよ。だから、自分の脳全体に、この後怖いよーって、教えてあげるんですよ」
「……どうやってですか?」
「魔法の呪文です。周りに聞こえないくらいの小さな声で、怖い、怖い、怖いって、のぼってる間ずーっと言い続けるんです。それだけです。すると、あら不思議! 落ちている時、全っ然怖くないじゃないですか!」
お兄さんは、ヒソヒソ声から普通の声に変え、続ける。
「『なぜ』怖いかを知ったあなたは、その仕組みを知った上で、具体的にイメージして、魔法を唱えられる。魔法は、イメージをしっかりと持たないとちゃんと使えませんからね」
登ってる間、密かに、怖い怖いと言い続ければ怖くなくなる。本当だったら、俺も、あいつらと一緒に、怖がらずに乗れるかもしれないけど……。
3人は、こっちを見ている。少し心配そうな顔をしている。
「あなたなら絶対に、この魔法を発動できる。僕にはわかります。信じて」
夢佳と俊太が手を振っている。莉加は、心配してくれているのだろうか、地図を取り出して他のアトラクションを探している。
「ありがとうございます、やってみます!」
そう言って振り返り、俺は、3人のもとへと走って行った。
「……なんて言われたーん?」
俊太がニヤニヤしながら聞く。
「いや、なんでもない」
さっそく、試してみたい!さっきの方法!
乗り場に着くと、一番先頭の列に案内された。嫌だ、嫌だ。4人席で、おれはそのまま一番左へと座った。隣には俊太、奥に夢佳と莉加が並んでいる。
シートベルトを付けろと指示をされ、付けるとその後に、キャストのお姉さんに安全バーを閉められる。ジェットコースターってこんな感じだったっけ。どんどん逃げられなくされるような……こえええええ!
横から夢佳の声が聞こえる。
「まってーやっぱこわいよー、こわいよー」
莉加が宥める。
「大丈夫だって」
「そっか。大丈夫か」
俺は、安全バーをグッと握り締めた。
「……それにしても、よく乗ったな〜、りゅーとー。 ……あれ?隆斗?おーい……」
外が見える。登っていく。
どんどん、上がっていく。
上がって……。
「隆斗、大丈夫……」
うっすらと俊太の声が聞こえる。
怖い……。
怖い……。
高い……。
登る……。
落ちる……。
落ちる……。
しn……。
あれ?冒険家さんが、下で大きく手を振っている……。
そうだ、魔法!
「怖い、怖い、怖い怖い怖い、怖い……」
乗り物は勢いを増し、どんどん上へと進んでいく。
「……わあ! ねえ、隆斗、もうすぐ頂上だよ……!」
「怖い怖い怖い……」
「……ねえ、隆斗、前見てよ!」
「……前?」
……前を見た。
そこには、蒼い空と、キラキラと輝く海が見える。
ジェットコースターに乗る人は、こんなに綺麗な景色を見ていたんだ!
そのままゆっくりと角度を変え……。
ドドドドドドドド!
「うああああああ!」
なんだこれ! すごい勢いで落ちていく!
レールの振動が直接伝わってくる!
浮く感じもする!
でも、怖くない!
前と違う! 怖くない!
楽しい!
楽しい!
すげええええええ!
「俊太!」
「すげええええええ!」
「マジですげええええええ!」
ドドドドドドドド!
一気にカーブする!
体が持ってかれる!風を全身で感じる!どんどん進んでいく!
すげー!
トンネルに入っていく!
ワクワクが止まらないかも!
みんな手をあげている! おれも、グッと握り締めた手を、一気に上げた! 解放感がえげつない!
トンネルを一瞬で抜け、ジェットコースターは、右に左に進んでいく!
「フゥーーー!」
「めっちゃ楽しー!」
また、急降下が見える!
「わぁぁぁぁぁ!」
全身持ってかれる! すげえええ!
「やべえええええ!」
「うおおおおお!」
ゆっくりになっていき、ガン!という音と共に、ジェットコースターは止まった。
一瞬の出来事。でも、物凄く長い時間の出来事だった。
「あー、疲れたー……。」
「あれ、俊太、怖かったの?」
「……怖くなかったしー……。てか、りゅーとめっちゃビビってたやん」
「ビビってないし、エンジンついてないんだから怖いわけないじゃん」
「2人ともマジで怖がってたのおもろすぎたんだけど〜」
「マジでウケるわ〜」
夢佳と莉加に言われて、なんかさっきまでの怖がっていた記憶がめちゃくちゃ蘇ってきて、めちゃくちゃ恥ずかしくなってきた。
「……ビビってたの隆斗だけだからー。てか、夢佳もビビってたじゃーん」
「ビビってないし〜」
恥ずかしいけど、マジで乗れた! めっっっちゃ楽しかった!
もしかしたら、あのお兄さん、おれがジェットコースターに躊躇する様子を見て、声をかけてくれたのかな。でも、本当に助かった。
本物の、魔法みたいだったな〜……。
楽しい音楽も流れてきて、本当に、遊園地って、別の世界みたいだ。
どんどん加速をしていき、「キャー」とか叫び声がすげえ聞こえる。
その後、ドドドドド! と下の方をコースターが駆けていき、すごい勢いで、トンネルの中に突っ込んでいく。
こわそー……。
莉加と俊太がワクワクした顔でジェットコースターを見ている。
空気を壊さないように、そーっと、断らなければいけない気がする。
「俺絶叫系苦手なんだよねー」
その瞬間、莉加がふっと振り返り、への字に曲がった口を開く。
「えー、絶叫乗ろうよー」
次のコースターがゆっくりと登り始めた。
「よし、絶叫行くか!」
俊太がそう言ってジェットコースターの方に体を向ける。
次の便が、一番上までもう少しで辿り着く。おれの足は動かない。3人は、それが落ちるのをワクワクした顔で見つめる。どうしよう、ガチで無理だ。
後ろから、声優のような、太く、はっきりした声が聞こえた。
「君たち、次の冒険はどこへ向かうのだい?」
振り返ると、冒険家のような見た目のキャストさんが立っていた。
「えーとーお、あのアトラクションでーす!」
夢佳がそう言って指をさす。
瞬間、ジェットコースターが急降下を始めた!!
「「「「キャーーーーー!」」」」
声が聞こえてくる。
やばい。無理無理無理。
「わー、あの恐ろしいトロッコに乗るのですね! 皆さん。無事を祈ります!」
3人は、ジェットコースターに向けて歩み始める。が、俺の足は止まっている。
冒険家のお兄さんは、小さな声で言う。
「絶叫系、苦手なんですか」
「はい、どうしても苦手で……」
離れていく3人を見つめる。
コソコソ声で、お兄さんは話し始めた。
「乗りたくないけど、みんなと一緒にいたい。いいでしょう。僕が、絶叫系に乗れるようになる魔法の呪文を、教えましょう」
「魔法の呪文……」
みんなが離れていく。すれ違う他校の修学旅行生たちが、俺とお兄さんを見てくる。少し、悲しい感情が湧いてきた。
「魔法とか、素敵だけど、今はなんかそれじゃ解決できない……」
「ジェットコースターって、ジェットとか言ってますけど、その乗り物自体にエンジンとか付いてるわけじゃないんですよ。ただ、落ちてるんです」
お兄さんは全然おれの話を聞こうとしない。
「ジェットとか言ってますけどって、さっきあなたあれのことトロッコって……」
「じゃあ、『なぜ』落ちるのが怖いのか。それは、加速をするからです。落ちるものは、加速をしています。だから、落ちる瞬間と比べて、規格外に、予想外に速くなっていくスピードに、体はついていけても、内臓がうまくついていけなくて、浮いてしまう。その、浮いているキューって言う感じが、怖い。しかも、それが急に来るから怖いんですよ」
「はあ……加速、ですか。内臓……ちょっとグロいですね。」
お兄さんはニコッと笑う。
「じゃあ、怖くなくなる方法はなにか。それは、事前に、この後怖いよー、怖いのくるよー、って、自分にわからせてあげることです。自分ではわかっている。この後怖いのが来るってことを。でも、脳の中でも、『怖い』って感じる部分の脳は、それをわかっていないかもしれません。」
「無意識……」
「そう! 無意識! 自分では知っていても、無意識が、このあと怖いことが起こる、ってわかって準備できてないから、急にすごく怖いんですよ。だから、自分の脳全体に、この後怖いよーって、教えてあげるんですよ」
「……どうやってですか?」
「魔法の呪文です。周りに聞こえないくらいの小さな声で、怖い、怖い、怖いって、のぼってる間ずーっと言い続けるんです。それだけです。すると、あら不思議! 落ちている時、全っ然怖くないじゃないですか!」
お兄さんは、ヒソヒソ声から普通の声に変え、続ける。
「『なぜ』怖いかを知ったあなたは、その仕組みを知った上で、具体的にイメージして、魔法を唱えられる。魔法は、イメージをしっかりと持たないとちゃんと使えませんからね」
登ってる間、密かに、怖い怖いと言い続ければ怖くなくなる。本当だったら、俺も、あいつらと一緒に、怖がらずに乗れるかもしれないけど……。
3人は、こっちを見ている。少し心配そうな顔をしている。
「あなたなら絶対に、この魔法を発動できる。僕にはわかります。信じて」
夢佳と俊太が手を振っている。莉加は、心配してくれているのだろうか、地図を取り出して他のアトラクションを探している。
「ありがとうございます、やってみます!」
そう言って振り返り、俺は、3人のもとへと走って行った。
「……なんて言われたーん?」
俊太がニヤニヤしながら聞く。
「いや、なんでもない」
さっそく、試してみたい!さっきの方法!
乗り場に着くと、一番先頭の列に案内された。嫌だ、嫌だ。4人席で、おれはそのまま一番左へと座った。隣には俊太、奥に夢佳と莉加が並んでいる。
シートベルトを付けろと指示をされ、付けるとその後に、キャストのお姉さんに安全バーを閉められる。ジェットコースターってこんな感じだったっけ。どんどん逃げられなくされるような……こえええええ!
横から夢佳の声が聞こえる。
「まってーやっぱこわいよー、こわいよー」
莉加が宥める。
「大丈夫だって」
「そっか。大丈夫か」
俺は、安全バーをグッと握り締めた。
「……それにしても、よく乗ったな〜、りゅーとー。 ……あれ?隆斗?おーい……」
外が見える。登っていく。
どんどん、上がっていく。
上がって……。
「隆斗、大丈夫……」
うっすらと俊太の声が聞こえる。
怖い……。
怖い……。
高い……。
登る……。
落ちる……。
落ちる……。
しn……。
あれ?冒険家さんが、下で大きく手を振っている……。
そうだ、魔法!
「怖い、怖い、怖い怖い怖い、怖い……」
乗り物は勢いを増し、どんどん上へと進んでいく。
「……わあ! ねえ、隆斗、もうすぐ頂上だよ……!」
「怖い怖い怖い……」
「……ねえ、隆斗、前見てよ!」
「……前?」
……前を見た。
そこには、蒼い空と、キラキラと輝く海が見える。
ジェットコースターに乗る人は、こんなに綺麗な景色を見ていたんだ!
そのままゆっくりと角度を変え……。
ドドドドドドドド!
「うああああああ!」
なんだこれ! すごい勢いで落ちていく!
レールの振動が直接伝わってくる!
浮く感じもする!
でも、怖くない!
前と違う! 怖くない!
楽しい!
楽しい!
すげええええええ!
「俊太!」
「すげええええええ!」
「マジですげええええええ!」
ドドドドドドドド!
一気にカーブする!
体が持ってかれる!風を全身で感じる!どんどん進んでいく!
すげー!
トンネルに入っていく!
ワクワクが止まらないかも!
みんな手をあげている! おれも、グッと握り締めた手を、一気に上げた! 解放感がえげつない!
トンネルを一瞬で抜け、ジェットコースターは、右に左に進んでいく!
「フゥーーー!」
「めっちゃ楽しー!」
また、急降下が見える!
「わぁぁぁぁぁ!」
全身持ってかれる! すげえええ!
「やべえええええ!」
「うおおおおお!」
ゆっくりになっていき、ガン!という音と共に、ジェットコースターは止まった。
一瞬の出来事。でも、物凄く長い時間の出来事だった。
「あー、疲れたー……。」
「あれ、俊太、怖かったの?」
「……怖くなかったしー……。てか、りゅーとめっちゃビビってたやん」
「ビビってないし、エンジンついてないんだから怖いわけないじゃん」
「2人ともマジで怖がってたのおもろすぎたんだけど〜」
「マジでウケるわ〜」
夢佳と莉加に言われて、なんかさっきまでの怖がっていた記憶がめちゃくちゃ蘇ってきて、めちゃくちゃ恥ずかしくなってきた。
「……ビビってたの隆斗だけだからー。てか、夢佳もビビってたじゃーん」
「ビビってないし〜」
恥ずかしいけど、マジで乗れた! めっっっちゃ楽しかった!
もしかしたら、あのお兄さん、おれがジェットコースターに躊躇する様子を見て、声をかけてくれたのかな。でも、本当に助かった。
本物の、魔法みたいだったな〜……。
楽しい音楽も流れてきて、本当に、遊園地って、別の世界みたいだ。