俺は、隆斗をめがけてパスした。
「なんかいいな、こういうの」
「確かに」
夕焼けが見える。
空が橙色に光っている。
グラウンドも、広い校舎も、サッカーゴールも、すべて、少しずつ、橙色に染まっている。
広いグラウンドの端っこ、サッカーゴールから少し離れたスペースで、2人でパスをする。
「国語の授業で先生なんか変なこと言ってなかった?」
「なんだっけ、コペルニクス的転回? なんか難しいこと言ってたよな。地球が宇宙の中心という考え方、天動説から、地球が動いているという地動説という考え方に変えたコペルニクスになぞらえ、全然根っこから違うように考える考え方を、コペルニクス的転回と言う、みたいな」
「何で全部暗記してんだよ」
「これが学年1位の力です」
「うるせえよ」
少し強めにボールを蹴った。
「てかさー、内申、上がんねーんだけど」
隆斗はそう言いながら俺と同じように強めにパスをする。
「内申かー。うーん、俺は正直高くても低くても、どうでもいいかなー。でも、オール5は無理だと思うよ。いくら学年1位を取ってたって言っても、一回も40超えたことないんでしょ?」
「前回の内申41だったけど……」
「4が4つもあるじゃん。3学期の総合評価でオール5で揃えないといけないんでしょー? 無理じゃん」
「無理じゃないし」
「無理じゃん」
「無理だったとしても! 別に、頑張ってもいいでしょ」
「無理なのに頑張ったら辛くなるだけだよ」
「……ワクワクしてくるかもしれないじゃん」
「……俺は、そういうふうに無理なのに出来るって思っちゃうと無理って感情が勝っちゃって辛くなっちゃうからさ」
「でもさ、秋楽園高校に入ったら、そのまま日本音芸いけて、素晴らしい環境で大好きな音楽を学べるんだよ! そうしたらさ、もしかしたら、本当にもしかしたら、すごい人になれるかもしれない……」
「……無理だと思う。俺がこの弱小校に来た時点で結果はもう決まっているように、お前だって、その夢の結果は、もう決まってるんだよ」
「……そっか。じゃあ、無理だってわかった上で、やってみる」
「……勝手にすれば」
「……てか、俊太今日は来てくれてありがとね」
「だってジュース奢ってくれるんでしょー」
「お前、どんだけジュース好きなんだよー」
あ。
俺のジュース好きがバレてしまった。何でかわかんないけど、昔からジュースが好きなんだよなー。
俺は、ボールをトラップして、そのまま足の甲にボールを当てて、ゴールに向かって一気にシュートをしていた。
ボールは、そのままゴールの枠内、端に入った。
隆斗は、なぜか、キラッキラした目で俺を見てくる。
「お前さ、うまくね!?」
「……あー、そう?」
「まじでまじで! うめえよ! てか、俊太って本当に運動神経いいよな!」
「そうかなー……」
「そうだよ! てか、1学期の体育の内申なんだった?」
「……うーん、5かなぁ」
「やっぱり!」
そう言うと隆斗は、俺がシュートしたボールを拾いに行き、おれの後ろへと回った。
「サッカーで一番面白い展開って、縦パスなんだよ」
「……縦パス?」
「そう、縦パス!」
俺は、ゴールの前、ペナルティキックを打つ位置に立っている。
隆斗は、その真後ろの、俺から離れた位置に、ボールを持ちながら、たったったっと駆けていく。
「おれが、コートの真ん中からパスを出すから、それを受け取ったら振り返って、シュートしてみてよ」
コートの真ん中からパスを出してくれるから、それを受け取って、振り返ってシュートすればいいってことだな。
なんだ、簡単なことじゃん。
「じゃあ、いくぞー!」
隆斗がそういうと、ゴロで少し早いボールが飛んできた。
俺は、それをトラップした。
「ターン!」
隆斗の掛け声がかかる。
俺は、そのまま180度ターンした。
視界が、隆斗とボールから、ゴールへと変わった。
「シュート」
「よっしゃ!」
俺は、右足を振り切り、シュートをした。
そのまま、ゴールした。
隆斗が、目を輝かせながら俺に寄ってきた。
「大成功じゃん!」
「……何が?」
「何がって、縦パスシュートがだよ! これが試合で使えたら、サッカー部にも楽勝に勝てるよ! 俊太、お前本当にサッカーの才能あるじゃん! すげえ!」
ディフェンスが受け取ったボールを隆斗が真ん中で拾って、縦にパスをもらって、俺が決める……。
隆斗と連携して、ゴールする。
『ついていけんわ』
『無理』
「なあ、めっちゃワクワクしない……?」
血液のようにディフェンダーから隆斗を通じて送られてきたパスを、繋がれてきたパスを、俺が、最後に決める……。
「……確かに、少しだけ」
何でだろう。
口角が。少しだけ、いつもよりも少しだけ、上がっている、気がする……。何かを、思い出したくない何かを、思い出しそうな感じがする……。
「……ワクワクする」
「……だろ! だろ! ワクワクするだろ! 次の体育では、おれは真ん中のポジションに着く! だから」
「……じゃあおれは、フォワードにつくわー。りゅーとー、最高のパスをくれよー」
わあ、と隆斗は満面の笑みで俺を見つめる。
「当たり前だ。その代わり、最高のシュートを打てよ!」
「……ああ」
隆斗は、拳を俺の方に向けた。
俺は、手をグーにして、隆斗の拳に、タンっ、とぶつけた。
「よっしゃ、もう1回縦パスの練習だ!」
隆斗はそう言うなりすぐにボールを持って、たったっと、俺の真後ろに走っていった。
「なんかいいな、こういうの」
「確かに」
夕焼けが見える。
空が橙色に光っている。
グラウンドも、広い校舎も、サッカーゴールも、すべて、少しずつ、橙色に染まっている。
広いグラウンドの端っこ、サッカーゴールから少し離れたスペースで、2人でパスをする。
「国語の授業で先生なんか変なこと言ってなかった?」
「なんだっけ、コペルニクス的転回? なんか難しいこと言ってたよな。地球が宇宙の中心という考え方、天動説から、地球が動いているという地動説という考え方に変えたコペルニクスになぞらえ、全然根っこから違うように考える考え方を、コペルニクス的転回と言う、みたいな」
「何で全部暗記してんだよ」
「これが学年1位の力です」
「うるせえよ」
少し強めにボールを蹴った。
「てかさー、内申、上がんねーんだけど」
隆斗はそう言いながら俺と同じように強めにパスをする。
「内申かー。うーん、俺は正直高くても低くても、どうでもいいかなー。でも、オール5は無理だと思うよ。いくら学年1位を取ってたって言っても、一回も40超えたことないんでしょ?」
「前回の内申41だったけど……」
「4が4つもあるじゃん。3学期の総合評価でオール5で揃えないといけないんでしょー? 無理じゃん」
「無理じゃないし」
「無理じゃん」
「無理だったとしても! 別に、頑張ってもいいでしょ」
「無理なのに頑張ったら辛くなるだけだよ」
「……ワクワクしてくるかもしれないじゃん」
「……俺は、そういうふうに無理なのに出来るって思っちゃうと無理って感情が勝っちゃって辛くなっちゃうからさ」
「でもさ、秋楽園高校に入ったら、そのまま日本音芸いけて、素晴らしい環境で大好きな音楽を学べるんだよ! そうしたらさ、もしかしたら、本当にもしかしたら、すごい人になれるかもしれない……」
「……無理だと思う。俺がこの弱小校に来た時点で結果はもう決まっているように、お前だって、その夢の結果は、もう決まってるんだよ」
「……そっか。じゃあ、無理だってわかった上で、やってみる」
「……勝手にすれば」
「……てか、俊太今日は来てくれてありがとね」
「だってジュース奢ってくれるんでしょー」
「お前、どんだけジュース好きなんだよー」
あ。
俺のジュース好きがバレてしまった。何でかわかんないけど、昔からジュースが好きなんだよなー。
俺は、ボールをトラップして、そのまま足の甲にボールを当てて、ゴールに向かって一気にシュートをしていた。
ボールは、そのままゴールの枠内、端に入った。
隆斗は、なぜか、キラッキラした目で俺を見てくる。
「お前さ、うまくね!?」
「……あー、そう?」
「まじでまじで! うめえよ! てか、俊太って本当に運動神経いいよな!」
「そうかなー……」
「そうだよ! てか、1学期の体育の内申なんだった?」
「……うーん、5かなぁ」
「やっぱり!」
そう言うと隆斗は、俺がシュートしたボールを拾いに行き、おれの後ろへと回った。
「サッカーで一番面白い展開って、縦パスなんだよ」
「……縦パス?」
「そう、縦パス!」
俺は、ゴールの前、ペナルティキックを打つ位置に立っている。
隆斗は、その真後ろの、俺から離れた位置に、ボールを持ちながら、たったったっと駆けていく。
「おれが、コートの真ん中からパスを出すから、それを受け取ったら振り返って、シュートしてみてよ」
コートの真ん中からパスを出してくれるから、それを受け取って、振り返ってシュートすればいいってことだな。
なんだ、簡単なことじゃん。
「じゃあ、いくぞー!」
隆斗がそういうと、ゴロで少し早いボールが飛んできた。
俺は、それをトラップした。
「ターン!」
隆斗の掛け声がかかる。
俺は、そのまま180度ターンした。
視界が、隆斗とボールから、ゴールへと変わった。
「シュート」
「よっしゃ!」
俺は、右足を振り切り、シュートをした。
そのまま、ゴールした。
隆斗が、目を輝かせながら俺に寄ってきた。
「大成功じゃん!」
「……何が?」
「何がって、縦パスシュートがだよ! これが試合で使えたら、サッカー部にも楽勝に勝てるよ! 俊太、お前本当にサッカーの才能あるじゃん! すげえ!」
ディフェンスが受け取ったボールを隆斗が真ん中で拾って、縦にパスをもらって、俺が決める……。
隆斗と連携して、ゴールする。
『ついていけんわ』
『無理』
「なあ、めっちゃワクワクしない……?」
血液のようにディフェンダーから隆斗を通じて送られてきたパスを、繋がれてきたパスを、俺が、最後に決める……。
「……確かに、少しだけ」
何でだろう。
口角が。少しだけ、いつもよりも少しだけ、上がっている、気がする……。何かを、思い出したくない何かを、思い出しそうな感じがする……。
「……ワクワクする」
「……だろ! だろ! ワクワクするだろ! 次の体育では、おれは真ん中のポジションに着く! だから」
「……じゃあおれは、フォワードにつくわー。りゅーとー、最高のパスをくれよー」
わあ、と隆斗は満面の笑みで俺を見つめる。
「当たり前だ。その代わり、最高のシュートを打てよ!」
「……ああ」
隆斗は、拳を俺の方に向けた。
俺は、手をグーにして、隆斗の拳に、タンっ、とぶつけた。
「よっしゃ、もう1回縦パスの練習だ!」
隆斗はそう言うなりすぐにボールを持って、たったっと、俺の真後ろに走っていった。