『オレは希純のことが好き、なんだと思う』

 オレの告白に、希純が目を見張った。

『冬馬が俺を……?』
『友達としてじゃない。……オレを選んでよ、希純』

 心臓が壊れそうなほどに暴れていた。
 すると希純は眼差しをわずかに絞った。澄み切った瞳の湖面に、石を放り投げたように波紋が広がる。

『ごめん。冬馬のことは大切に思ってる。でも大切な友達なんだ』

 切なさに掠れた声がオレの鼓膜を揺らす。
 なんとなくその答えを予感していたオレは、『そっか』と苦笑する。

 希純はオレの告白に、感情を揺らしてしっかり向き合ってくれた。告白なんて嫌というほど受けているだろうに、流れ作業のように適当にあしらったりしなかった。
 もっとこっぴどくフッてくれたらいいのにさ。

『気になる人でもいるの?』
『……うん』

 オレの問いに、橘がわずかに頬を赤く染める。
 相手は癪だから聞いてやらなかった。

「はー……」

 後頭部に手を当てながら、薄暗くなった校舎の廊下をひとり歩く。

 フラれたというのに、なんで清々しくさえあるのだろう。
 高跳び以来初めて、こんなに真っ直ぐなにかに向き合えたからだろうか。それもあるけど多分、恋をした相手が君だったからなのだと思う。他のだれでもなく君に恋することができたから。
 好きなんだと思う、なんて濁してしまったけど、本気で好きだったことを今更実感する。

 ――君は、美しい人だった。
 これがひと夏の恋ってやつですか、いやあ眩しかった、眩しすぎたね。

「前に進みますか」

 小さく苦笑しながら、校舎の窓の外を見る。
 薄暗くなった空には星が輝いていた。明日もきっと晴れだ。