季節は7月。7月と言えば、我が校ではある大型行事が催される。それは。
「じゃあこのクラスの出し物は中華喫茶で決まりです」
学校祭だ。
学校祭と言えば秋というイメージを持っていたけれど、進学校を謳う我が校では、本格的な受験シーズンが始まる前の夏に行われるのだ。
そうしてクラスでは、女子たちの結束力により過半数の支持を経て、中華喫茶が選ばれたというわけだ。
「どうしよう、W王子チャイナ姿服が見れちゃう……!」
「合法的に推しのチャイナ服姿を拝めるなんて!」
と、女子たちが騒ぐ中、俺は橘の後ろ姿を見た。
表向きにはすんとした顔を取り繕ってはいるが、俺も内心思うことは女子たちと一緒だ。橘のレアな姿が見られる、それしか頭にない。好きな子がいる学校祭がこんなに輝いているとは。
SHRで恙なく出し物が決まり、やってきた休み時間。
ばたばたと足音をたて、違うクラスの鷹野が教室に駆け込み、俺の元に駆け寄ってきた。
「叶芽! お前、中学のとき軽音やってたんだって!?」
「あー、うん。やってたね……」
突然の話題に驚きながらも、苦い過去を思い出し頬をかく。
今となっては恥ずかしい話だが、バンドメンバーの彼女に手を出したことがバレ、追い出されるようにしてやめたのだ。それ以来、軽音部に戻ることはなく、高校に入っても女の子と遊ぶことばかりで帰宅部を選んだ。
「でも、それがどうした?」
たしか鷹野も今軽音部でドラマーとして活動しているはずだ。そんな鷹野がどうして……。
そんなことを考えていると、鷹野がいきなり俺の机に両手を置き、机に額がぶつかりそうなほど勢いよく頭を下げてきた。
「頼む! 力を貸してくれ!」
「え?」
「学校祭で軽音部のライブが決まってるんだけどさ、軽音部のギターボーカルが喉壊しちゃって学校祭に間に合いそうにないんだわ。だから手を貸してほしい!」
「えー……でも俺、全然ギターとか触ってないし」
「そこをなんとか……!」
学校祭まで2週間弱。とてもじゃないけれど、人様の前で披露できるほどブランクを埋められるとは思えない。
「無理だって……」
そう断りかけ、ふとあることを思いつく。
「ねえ、鷹野。もしかして曲とかって選べたりする?」
「曲? うん、いいよ」
「俺、やりたい曲があるんだけど」