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白王子と黒王子。このふたりを目の当たりにして、劣等感を植えつけられない男はまずいないだろう。
このふたりは次元が違いすぎる。並大抵の男じゃ同じ土俵にすら立てない。だから低俗な妬みすら湧かず、張り合おうという気にもならない。
「きゃあ! 白王子だ!」
今日も今日とて女子が騒がしいこと。大名行列かっての。
いつもはそんなふうに流し見していたのに、今日のオレは思わず窓の向こうに視線をやっていた。
教室に面した廊下側の窓から、登校してきた白王子こと久遠を見る。今日も腹立つほどに顔がいい。
黒王子と対を成すのがこの男だ。
いつもにこにこと愛を囁きまくる白王子と、無愛想で一匹狼の黒王子。まさに相反するふたり。
でも……なんだかオレの記憶の中の白王子と雰囲気が違う。
いつもは「今日も可愛いね」「あ、メイク変えた?」なんて薄ら寒いことばかりぽんぽんと軽薄に口にしていたのに、今は呼びかけに笑顔で答えるだけ。
……まあ、そんなことはどうでもいいんだけど。
ふいっとまた視線を戻しかけたとき。
「あ! 黒王子まで来た……!」
「W王子が揃っちゃった!」
女子の甲高いその声に、オレは再びそちらに視線をやる。
見れば、反対側から橘が歩いてくるところだった。
「橘……」
橘の横顔を見ながら、つい昨日のことを思い出す。
不良たちからオレを助けてくれた橘の、去り際に見せたあの笑顔。あのときの衝撃が、今もまだ火種になって胸の中で燻っている。
昨日からオレは、気づくと橘のことばかり考えている。考えすぎて脳内ではゲシュタルト崩壊が起こり、昨日のあれは最早夢だったのではないかとさえ思えてくる。
だって橘が話すと穏やかなことも、あんなに柔らかく笑うことも知らなかった。それに、あの橘がオレのことを知っていたなんて信じられない。
視線の先の廊下では、橘と久遠が邂逅していた。
性格や立場的に、相容れなそうなふたり。
けれど久遠は橘を見て、ふんわり笑顔を向ける。さっきまで女子たちに向けていたのとは段違いの柔らかい笑みを。
「おはよ、橘」
「……ん」
少し恥ずかしそうに睫毛を伏せたまま、橘が久遠の横を通り過ぎる。
そんな橘の後ろ姿を、久遠はなぜかじっと見つめていた。