そうは言っても、いたずらっ子のような笑みを隠せていない。

(絶対からかって楽しんでるっ)

恨めし気に睨んでみるが、いまだに目が潤んでいるので、それほど効果はないだろう。

睨むどころか、「可愛い…っ」なんて言われて、先輩を喜ばせる事になってしまった。

「…そう言う先輩の方がよっぽど可愛いと思います」

ボソッと、出来るだけ聞こえないように言ったのだが、残念ながらこの近距離ではバッチリ聞こえてしまったらしい。

先輩の両腕は僕の腰に回されて、僕を囲い込んで離さない。

「俺のことを可愛いなんていうの、イチくんだけだよ」

「それを言うなら、僕だって可愛いなんて言われたことない…」

「イチくんの可愛さは、俺だけが知ってればいいよ」

独占欲ともとれるその言葉が、心底嬉しくてたまらない。