またたく間に時間は過ぎ去り、お昼ご飯が届く頃になる。久しぶりの食事に星夜は嬉しそうにしていた。
 しかし、いざ食事が届くと“なんだ、お粥じゃん"と悲しんでいて年相応な姿が可愛らしいなと真昼はクスクス笑ってしまう。
 歳は同じだけれど、星夜は精神的にもまだまだ幼く感じて弟が出来たかのように感じる。

 時計が三時を回った頃には、真昼が朝にドーナツを届けにきた。
 理由はわからないが、昨日は逃げ出してしまっていたけれど大丈夫かなと思い、朝は星夜の方を伺う。その不安は一気に別の感情へと変化を遂げていった。

 なんと、真昼を目にした星夜は直ぐ地べたに頭を擦りつけたのだ。いきなりしゃがみこんだことで、点滴がガシャンと音を立て、吃驚した真昼は肩を震わせる。

「身体が弱いのは仕方がないことなのに、今まで馬鹿にしてごめん」
「許されたいとは思っていないけど、ちゃんと謝罪をすることで過ちを認めて二度と同じ失敗を繰り返さないようにしたいんだ」

 身体が震えているのはもちろん、目には涙が溜まっていて相当反省してることが伺える。
 一方、真昼は、え、何やってるの、とでも言いたげな顔で星夜を見つめていた。

「待って、待って。何を謝ってるの。おれ、海谷くんのことを嫌だなんて思ったこと一度もないよ」

 それを聞いて星夜はポカンと口を半開きにさせている。二人の間には何かしらの齟齬があったのかもしれない。朝も思わず首を傾げる。

「嫌なこと言ったのは事実だし」

 星夜は真剣な顔をして言う。

「うん、でもおれね。一度も海谷くんが原因で傷ついたことないし、海谷くんのこと嫌いじゃないよ。だからさ、今度は友達になろう」

 ただただ温かくて心からの純粋な言葉だった。
 けれども、真昼の表情を見て、朝は唖然とする。この表情は友達を見る表情ではないと悟ってしまったのだ。頬は紅色に染まり今にも叫び出したそうな程、嬉しそうな顔をしている。
 今までずっと誰よりも側で生きてきたはずなのに、こんな真昼の顔を見るのは初めてだった。

「あ……」

 心の声が漏れてしまい、二人が尋ねるような顔をして朝を見ている。
 直ぐに何でもないよ、ちょっと嬉しくなって、とどうしようもない言い訳をした。

「うん、友達としてよろしく」

 星夜は改めて返事をする。二人が今まであった蟠りを消化して友達になれて喜んでいる中、朝は独りで唇を噛み締めていた。

 ──嫌だ、嫌だ……。

 端から同性同士が両想いなんて、奇跡のようなものだから少しも期待していなかったが、ここぞというときになると口惜しくて泣きそうだ。
 二人の幸せそうな表情を見ると心の底にある黒くて汚い感情が表面に押し出てくる。
 ここにはきちんと三人がいるはずなのに、朝だけはいない。そんな気持ちにさせられた。
 朝の恋はもう終わっていたのだ。最初から。

 まるで、チョコレートコスモスのようだと心の中で呟いた。
 これは今歩んでいる人生ではなく、もう終わっているから、ただの過去の思い出でしかなくて。それでもきっと移り変わらぬことはないこの想い。
 朝には真昼しか居なかったが、真昼は朝以外の誰かが心の助けになっていたんだ。

 ──つらい、苦しいよ。真昼には僕が、僕だけが、心の寄り添いどころであってほしかったんだ。

 その日、いや、ずっと前から朝は失恋をしていた。それは、朝の恋の終わり、そして恋の思い出。